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星屑のシャングリラ  作者: 折笠かおる
†chapter13 殺人鬼の正体
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†chapter13 殺人鬼の正体06

 「そうは言うても、こっちはこっちで大変だったんやで。お面の奴もそうやけど、トカゲ男と戦ったり、岩の化物と戦ったり……」

 魔窟大楼まくつだいろう内の階段を下りつつ、腫れた頬を押さえた上条はそうぼやき続けた。


 「化物とは恐ろしいものを見てしまいましたねぇ。心中お察しします」

 目の見えない貞清が化物を見た時の心中を察せるのかどうかは知らないが、深く頷き同情しているようだった。


 「そんなこと言ったら、俺だってあのクラウディと戦闘になったんだぜ」

 拓人がそう言うと、上条は目を大きく見開いた。

 「はぁ!? クラウディ!? あの殺人鬼の?」

 階段を踏み外しそうになった上条は、そのまま横に視線を向けた。口を結び得意気な顔をしている拓人の横で、貞清がそれを否定するように手を横に振っていた。


 「貞清さん、違う言うてるやん」

 「いや、おかしいでしょ。刑事さんが『霧隠れ』はクラウディだって言ってたのに!」

 「クラウディだとは言ってません。クラウディ事件の被疑者だと申したのです」貞清は淡々と言う。


 「被疑者って容疑者のことか? けどクラウディの疑いがあるってことだろ?」

 「まあ、少なくても警察はそう思って捜査してますね」

 貞清は他人事のように言った。貞清本人はその男がクラウディだとは思っていないような印象を受ける。


 「で、そのクラウディ事件の被疑者との戦いはどうなったんや?」

 上条がそう聞くと、薄暗い階段に沈黙が落ちた。辺りに気まずい空気が流れると、しばらくして貞清が静かに右手を上げた。

 「……すみません。霧隠れは私が殺してしまいました」


 「えーっ!!」

 貞清は下の階でトカゲ男を殺しているのだが、更に上の階でも人を殺めたのだというのか? これではどちらが殺人鬼なのかわからない。


 「いやあ、いくら魔窟大楼の中が日本の法律が及ばないとはいえ、さすがにクラウディ事件の被疑者を殺したのはまずかったですねぇ……」

 貞清は見えない目で器用に階段を下りながら、申し訳なさそうに後頭部を掻いた。


 「まずいとかで済まへんやろ。巡査といい、貞清さんといい、ほんま日本の警察は無茶苦茶やな」

 上条は前を向き直し、階段を下った。3人の足音が狭い階段にコツコツと響く。


 4階と3階の間にある踊り場まで歩み下りると、上条はそこにある窓から外を眺めた。先程まで覆っていた霧は晴れてきたが、厚く垂れこむ雲の様子は来た時とさほど変わらない。

 魔窟大楼にいる時はいつもこんな天気だ。これ以上悪いことが起こらなければ良いが……。


 「そういえば『瞬間移動』の能力って考えてみると凄いな。どうせやったらここの1階やなくて、もっと安全なところまで飛んでけばよかったんちゃうか?」

 「いや、話によると瞬間移動の能力は体力の消耗が半端じゃないらしい。それまでに能力を多用し過ぎたから、もう1階まで下りるのが限界なんだってよ」

 拓人が説明すると、上条は納得したように「ああ」と声を漏らした。

 「そうなんか。確かにみくるちゃんの千里眼にしても相当精神力使うみたいやからな。当然っちゃあ当然や」


 「強力な能力というものには、それなりのリスクがあるものです。この私のように……」

 そう言うと、貞清はサングラスのブリッジに手を当てた。


 「そういえば、貞清さんは人外の能力が覚醒すると同時に視力を失ったんやったな」

 「そうです。覚醒と同時に全身に稲妻に打たれたような衝撃が走り、その時に両目の角膜が焼けてしまいました。始めは骨が折れましたが、慣れてからは苦労もなかったですよ。今ではむしろ見えなくなって良かったとすら思っています」


 その言葉が理解できない上条が首を捻る。「何で?」

 「世の中、目に見えるものが全てとは限りませんから。得てして真実とは目に映らないところにあるものなのです」


 「そんなもんなんかなぁ」

 視覚を失うということは刑事という職業にとって致命的なことのように思えるが、貞清は目が見えないことで他の刑事には見えない何かを見据えているのかもしれない。目開めあきには見えない何かを。


 3階のフロアまで下りて行くと、その時突然どこからか炸裂音が鳴り響いた。何事かと思い立ち止まる。後ろにいた貞清が「銃声ですね」と呟いた。

 「銃声? ほんまに?」


 「ええ。私は目が見えないせいか、聴覚と嗅覚が人より優れているんです。恐らく今の音は銃の中でもオート拳銃。中庭から空に向けて発砲したようですね。威嚇射撃でしょうか?」

 「威嚇射撃? 何に対して?」

 貞清は小首を傾げる。「さあ、そこまでは……」


 上条と拓人は顔を見合わせた。

 「これはもしかして、まずいんちゃうか?」

 「だな。急ごう!」


 3人はその場で頷くと、勢いよく階段を駆け下りて行った。

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