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星屑のシャングリラ  作者: 折笠かおる
†chapter13 殺人鬼の正体
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†chapter13 殺人鬼の正体05

 遠くから呼びかける声が聞こえてくる。ただ今は身体が疲れているのか全く動く気がしない。


 「おーい、おーい……」

 いくら呼びかけても無理なもんは無理や。瞼を開ける気もおきひんねん。


 暫くして諦めたのか声が聞こえなくなると、急に洪水が襲いかかってきた。


 「うわっ!!」

 慌てて寝ていた身体を起こした。顎から滴る水滴で着ていたハーフパンツの股の部分がしっとりと濡れる。


 「大丈夫かよ。圭介くん」

 そう言われ顔を上げると目の前に山田拓人の姿があった。手には空になった500mlのペットボトルを持っている。


 「おお、拓人無事だったんか?」

 「いや、こっちの台詞だよ。何こんなとこで顔腫らして寝てんだよ」

 「顔?」

 右の頬に手を当てると目の下が強く疼いた。上条はそこで初めて白面の武人と戦っていたことを思い出した。いや正確には戦っていたというより、一方的にやられただけであったのだが。


 「そうや。くそっ、あのお面の奴!」

 「お面?」状況のわからない拓人は、眉をひそめ口をポカンと開けている。


 「どうやら鼎武人ディンウーレンにやられたようですね」

 背後から聞こえた声に反応して振り向くと、そこには5階で出会った白髪頭の男が立っていた。


 「あんた下の階で会った……」

 そこまで言ったものの、名も知らぬ人物だったので言葉が詰まった。

 「圭介君、刑事さんと下で会ってたのか?」

 だが拓人にそう言われ「ああ」と思いだした。盲目の電撃使い。それは以前巡査が言っていた本庁の刑事ではないか。


 「自己紹介が遅れました私こういう者です」

 白髪頭の男は上条に名刺を渡した。そこには貞清誠司という名前と、その端に警視庁のマスコットキャラクターが描かれていた。薄ら笑いを浮かべているが、腰にはリボルバーを帯銃している何とも悪趣味なキャラクターだ。


 「そんなことより圭介くん、何でこんなことにいるんだよ?」拓人が聞く。

 「何でって、みくるちゃんが千里眼で魔窟大楼まくつだいろうの上層部を見とったら、そこに拓人がおってなんや知らんけど殺されかけとる言うから助けに来たんやないか。それに……」

 そこまで言って、上条は自分の本来の目的を思い出した。


 「そうや。上の階に中島和三郎っていう人がおったやろ」

 「ん? 圭介くん、ナカジーのこと知ってんのか?」拓人は奇跡の能力者、中島和三郎のことをやたらと親しげに呼んだ。

 「いや。直接は知らんけど、拓人は知っとるんか? どこにおるんや?」


 そう聞くと、拓人はそれまでの経緯いきさつを説明した。

 拓人は天野雫と雫の高校のクラスメイトである瀬戸口という女と共に失踪したALICEアリスのメンバーを捜すべく現在はデーンシングが占拠している魔窟大楼に潜入したのだが、何とそこには琴音の母である竹村亜樹と奇跡の能力者と言われる中島和三郎がいたのだ。竹村は監禁によって衰弱し、中島は若獅子の『ブレインウォッシング』の能力によって意識を失っていたため、『瞬間移動』の能力を持つ瀬戸口と『同調』の能力使う雫が、それぞれ竹村と中島を魔窟大楼の1階に送って行ったのだと言う。


 「何やようわからんなぁ。魔窟大楼はデーンシングに占拠されとったんか。ほんで中島さんと琴音ちゃんのおかんは、何でまたデーンシングに捕まっとったんや?」

 「前にレストランで琉王るおうさんが言ってたろ。デーンシングは代々木で亜種同士の殺し合いをしようとしてるんだ。だから今、渋谷中にいる亜種を誘拐し監禁してるんだとさ」


 「亜種同士の殺し合いかぁ……」

 上条はスマートフォンで画像検索した中島の精悍な顔を思い出した。あれは50年前の写真だから現在はだいぶ老けこんでいるだろう。本当にそんな老人に殺し合いなどさせるつもりなのだろうか?

 するとそんな思いに気付いたのか、拓人が「あ、ごめん。琴音ちゃんの母親とナカジーは、また別の理由で捕まったんだった」と訂正した。


 琴音の母親はヘロインプラスと呼ばれる麻薬を作りだす能力を持っていて元々、天童会に軟禁されていたのだが、今回のデーンシングとのいさかいがきっかけで天童会からデーンシングに引き渡されたのだと言う。また中島は琴音の母と似た能力があったため、亜種狩りをしていたデーンシングのメンバーによってついでに捕まったらしい。


 「ついでって何やねん! 中島さんって奇跡の能力者って言われとるんちゃうんか?」

 そう言うと、拓人は困ったように頬を引きつらせた。

 「奇跡って言ってもあれだぞ。サイババみたいな能力なんだよ」

 「サイババ? そうなんや。ふーん。けどまあ無事で何よりや。死んどったら約束が守れんかったからな」上条はやんとの約束を果たせそうなことにとりあえず安堵した。


 「約束?」

 「ああ。カタコンベ東京って店の女店主とちょっと取引があって、中島和三郎を捜して店に連れて行かなあかんかったんや」

 その言葉に何か思うことがあったのか、拓人は半開きの口から「あー」と声を漏らした。

 「カタコンベって、武器屋の?」

 

 「知ってんのか? 俺も今日初めて知った店やのに?」

 「いや俺は知らないけど、元々雫がそのカタコンベって店に行きたかったからわざわざこんなことまで来たんだ。そしたらまあ、見事に面倒な事件に巻き込まれたってわけよ」

 拓人は演技じみた動きでそう言うと、心底疲れたように深く溜息をついた。

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