†chapter13 殺人鬼の正体04
ピンクのタンクトップから露出した肌は硬質の鱗で覆われ、迫り出した大きな口からチロリチロリと細長い舌が見え隠れする。
「フー……、フーッ!」
トカゲ人間に姿を変えたタンクトップの男は、呼吸を荒げるといきなり殴りかかってきた。
「わっ!!」
避けようとしたが間に合わない。勢いよく飛んできた拳を辛うじて右腕で防いだが、その力に押され半歩後退した。
「成程、通常の人間より好戦的で腕力もだいぶ高いようやな。まあ、亜人系なら当然か……」上条は暴露の能力で『リザードマン』の特徴を暴いた。
彼のように、人外の能力で姿が人に非ざるものに変化する者は亜種の中でも『亜人』という名称で呼ばれている。亜人系の能力は変身すると筋力が上昇するものが多いのがセオリー。暴露の能力で相手の能力の弱点を見つけそこを攻めるという攻撃方法を得意とする上条にしてみると、単純に筋力が上昇するような相手は分が悪いのだった。
とはいえ、弱点がないわけではないだろう。
上条はトカゲ男の足元を狙って六尺棒を振るう。激しい音と共にスネに命中したが、トカゲ男はびくともしない。硬い鱗で皮膚が守られている上に、痛覚反応が鈍くなっているようだ。
「これやから亜人は嫌やねん!」
トカゲ男が大きく口を開けて攻めてきた。
「アカンッ!!」上条は身体を右に捻った。左肩が噛まれそうになる。
この大きな口から察するに、恐らく顎の力は人間の比ではないはず。1度でも噛まれたら致命傷になりかねない。
再び真っ赤な喉が目の前に近づいてくる。
「これでも喰うとけっ!」
上条は六尺棒を引くと、開き切った喉の奥を真っすぐに突いた。
「くはっ!!」トカゲ男は苦しげな声を上げ後ろに退いた。
弱点は口の中? いや、他にもあるはずだ。荒く息を吐くトカゲ男を睨みつける。すると上条の脳裏に何かが浮かんだ。
『弱点:雷属性』それが暴露の能力で暴いたトカゲ男の弱点だった。
「何やねん雷属性って!? ゲームやないんやから!」
集中力の途切れた上条に、再びトカゲ男の牙が襲いかかる。
「うわっ!!」
口を閉じた時の風圧が鼻先を掠めた。
「あぶなっ! 俺は食いもんちゃうねんぞ!」
数歩下がり、また開いた口に六尺棒の突きを喰らわせた。奇怪な悲鳴を上げながらトカゲ男は身体を震わせている。
「アホみたいに口開けて、学習能力ないんか?」
1度大きなダメージを与えたのにも関わらず、弱点を晒してくるとは思慮の浅い行動だ。知性が人間の時より劣るのかもしれない。
「なら雷属性はともかく、口の中と知性が低いのが弱点やな。それだけわかれば十分や」
上条が口を中心に六尺棒で攻撃を続ける。口から血を流すトカゲ男は息も絶え絶えになりながら必死で立っている。
「もう勝負は見えたやろ?」
しかし、ふらふらになりながらもトカゲ男は勝負を挑んでくる。
「そんなに戦いたいんやったら覚悟しいや!」
両手で持った六尺棒を頭上に掲げると、そのまま勢いよくトカゲ男の頭を叩きつけた。硬い頭頂部に当たり腕がジーンと痺れる。
トカゲ男の縦に細い瞳孔が消えてなくなると、白目を剥きうつ伏せに倒れた。
「はぁ、はぁ」上条は額の汗を腕で拭った。
急がなければいけないというのに、かなり時間をロスしてしまった。
「けど、これで勝負ありやな」
そう言い残し上の階に上がろうとすると、目の端に何かが蠢くものを感じた。
まだ暑さが残る季節だというのに、上条は全身に鳥肌が立った。首を捻ると、白目を剥いたままのトカゲ男がそこに立っていたのだ。意識を失っても尚、闘争心だけで立ちあがったらしい。
「何で立ち上がれんねん……」そう呟くと同時に階下から人の気配を感じた。「誰やっ!」
見ると、階段の下からサングラスを掛けた白髪の男が上がってきていた。
「ほお。ここは生臭いフロアですなぁ」
飄々とした態度でそう言うと、白髪の男はトカゲ男の前に立ちはだかった。
「な、何もんや。自分?」
そう聞くと、白髪の男は上条に背中を向けたまま話しだした。
「いやいや私はねえ、人を捜しに来たんですよ」
「人?」
その時、トカゲ男が白髪の男に殴りかかってきた。しかし白髪の男はその拳を軽く避けて見せると、トカゲ男の腹に右手を這わせた。
「バチッ!」
大きな音が鳴った。トカゲ男はだらしなく口を開けると、膝が崩れぐったりとその場に倒れた。
「おやおや。それほど強い電流ではなかったのですが……」
そう言うと白髪の男は悲しそうに口をすぼめた。「死んでしまいました」
上条は白髪の男が電撃を操るのだと気付いた時、思わず言葉が漏れた。「雷属性や……」
「よくわかりましたね。私は『ライトニング』の能力を持っているのですよ。あなたも私と勝負してみますか?」
上条は首を横に振った。「もう敵は間に合っとるで」
「そうですか。それでは私の捜している人物はここにはいないようなので、先を行かせて貰います」
静かに頭を下げると白髪の男は上条の横を通り階段をてくてくと上っていった。
「ふう……」
息をついた上条は緊張感から解き放たれ階段に腰を下ろした。
あれは一体何者だろう? ライトニングの能力とはどこかで聞き覚えがある。果たしてどこで聞いたのだろうか? 戦闘で興奮しているのか頭がうまく回らない。
暫く考えていたが、ゆっくりしている場合じゃないことを思い出した。
「あかん。俺も拓人を捜さな」
先程の白髪の男を追うように、上条は階段を駆け上がった。しかし上からは階段を上る足音は聞こえてこなかった。人を捜していると言っていたが、もう他の階で捜し人を見つけたのだろうか?
「はぁ、はぁ、はぁ」
階段を上り進めて行くと、不意に上の踊り場から黒装束の者が下に向かって飛んできた。
「わっ!!」
慌てて六尺棒を振ったが黒装束の者はそれをするりとかわすと、小さく飛び上がり上条の持つ六尺棒の先端に直立した。その者は、以前ここに来た時にも遭遇した京劇の面をつけた武人だった。
「またお前か! なんちゅうとこに登ってくれてんねん!」
上条は六尺棒を振った。武人は予備動作なしでそこから飛び上がると、後方転回し床に着地した。この武人、『ファンタジスタ』のメンバー並の身体能力を持っている。
上条は仮面の武人と睨み合いながら、チラリと横に目を向けた。視線の先にはここのフロアの階数を示す19という数字があった。拓人たちがいるのはこの1つ上の階。このまま振りきって上に行くことも可能だが、上と下で敵に挟み撃ちにされるのは願わしくない。
上条はフロアを見回した。前回は3人いた京劇の面の武人だが、今日は白面の武人ただ1人だけのようだ。
「1人しか居れへんのならええ。相手になったるわっ!!」




