†chapter13 殺人鬼の正体03
「しかし拓人の奴、何でこんなとこに……」
白木の六尺棒を装備した上条が、魔窟大楼の階段を駆け上がる。
階を上がるたびに腹部の古傷が疼きだし足が震えた。前回来た時は裏ブローカーのミミックに腹部を刺されたのだが、今回は上層階で銃弾の雨が待っているのだという。
「まあ、防弾チョッキも着てることだし死にはしないでしょ」不意にみくるの言っていた言葉が蘇った。
上条はカタコンベ東京の店主、楊に六尺棒の他に防弾チョッキも譲り受けていた。
「けどみくるちゃん、頭撃たれたらこんなもん意味ないんやで……」
他に誰もいない階段を上りながら、上条は1人呟いた。命の危険も伴う上層階にみくるを連れてくることは出来ないため、彼女はカタコンベ東京で待たせてあるのだ。
とりあえず、ここの住人と出くわさなければいいのだが……。
上層階まで行かずとも、中国人に不法占拠されたこの建物は危険が盛りだくさんだ。血気盛んなここの住人に、日本人が侵入していることがばれればただでは済まされない。それは前回学ぶことが出来た。
5階まで駆け上がり、疲労で重くなった足を休ませようと少し速度を緩めた。すると丁度その時、階上から何やら話声が聞こえてきた。異国の言葉だ。
まずいの住人か? 壁の陰に姿を隠し、そこから上の階を覗き込む。
あれは中国人じゃないな……。見ると褐色の肌をした男が3人、上の階から下りてくるところだった。前にいるピンクのタンクトップを着た男が舌舐めずりをしながらゆっくりと階段を下りてくると、その後に長髪の男と口髭の男がついてくる。
皆、目が大きく眉が太い東南アジア系の顔つきだ。奴らはまさかデーンシングか?
陰に隠れそのまま彼らをやり過ごすと、褐色の肌をした3人はこちらには気付かずに階段を下りていった。
何故奴らがここにいるのだろうか? ただでさえ恐ろしい魔窟大楼にデーンシングのコラボレーションとは、心配の種が尽きぬばかりだ。下りて行く3人が見えなくなるのを確認すると、上条はそっと横に移動し階段を上るため上に目を向けた。
「あっ!」思わず声が漏れる。目線の先にもう1人、褐色の肌の若い男が立っていたのだ。
しかし相手も戸惑っているようにその場に立ち尽くしている。ならばここは先手必勝。
上条は六尺棒を強く握り階段を駆け上がった。それに反応するように褐色の若者も戦闘態勢を取る。身の丈ほどある六尺棒を左から背中に回した。
「喰らえっ!!」
背中に回した棒を右手で受け取ると、正面に向けて小さく振り抜いた。向う脛を打たれた若者は甲高い叫び声を上げると、そのまま階段の下に落ちていった。
その音を聞きつけたのか、階下の3人が怒声を上げながら戻ってくる。ここはもう腹を括るしかない。
上条は棒の先端を下げ下段の構えを取った。階段を上ってくる長髪の男と口髭の男に向かって、六尺棒を素早く何度も突く。階段の様な狭い場所では突きが有効なのだ。
その攻撃で容易に近づくことが出来ない褐色の男たちだったが、長髪の男がうまくタイミングを合わせると棒の先端をがっちりと掴まれてしまった。
だが上条は慌てない。そのまま強く正面に突くと、長髪の男は掴んだまま腹を打たれ身体がくの字に曲がった。
「おうっ!」っと声を出している暇もなかった。長髪の男の腹を突いたかと思うと、上条は棒を使って男をクレーンのように持ち上げた。6尺|(約182㎝)の高さまで持ち上げ、そしてそのまま半円を描き長髪の男を地面に叩き落とした。
長髪の男はピクリとも動かない。どうやら倒したようだが、まだ2人の敵がいる。
階段に背中を向けてしまっている上条に向かって、今度は口髭の男が襲いかかってきた。
神経を集中させる。自分の間合いに敵が入り込んだ瞬間、上条は背後に向かって六尺棒を突いた。前を向いたまま姿を見ることなく繰り出した攻撃だったが、それは見事男の口髭に命中していた。
その一撃で意識を失った口髭の男は、背中から階段を真っ逆さまに落ちていった。背後に立っていたタンクトップの男はそれをスッと避けると、舌舐めずりをし目の奥を光らせた。他の仲間が全員やられたのにこの余裕。ただ者ではないのかもしれない。
奴は亜種だろうか?
上条は暴露の能力で調べようと睨みつけたその瞬間、前傾姿勢になったタンクトップの男の皮膚が硬い鱗のように変化していくのが見て取れた。
「何だっ!?」
タンクトップの男は顔を上に向け舌を伸ばした。やがて皮膚の全てが緑の鱗に覆われると離れた目がギョロリと見開き、鼻と口は爬虫類のように前に盛り上がった。大きな口の隙間から鋭い牙が白く光る。
「『リザードマン』の能力やと? トカゲ男っちゅう訳か……」




