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星屑のシャングリラ  作者: 折笠かおる
†chapter13 殺人鬼の正体
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†chapter13 殺人鬼の正体01

 「ああ、手が元に戻った……。何でもあれへんことが、幸せやったと思うって誰かが歌っとったけど、あれはほんまなんやなぁ」

 魔窟大楼まくつだいろうの地下にある『カタコンベ東京』という名のミリタリーショップにいる上条圭介は、自分の右手を見ながら大袈裟に涙ぐんだ。


 「精々感謝しな。人間は病気になって始めて健康の尊さを学ぶのさ。私がいなけりゃ、あんたは一生石の拳で生活しなくちゃいけなかったんだからね!」

 たった今、上条の石化した右手に治療を施したカタコンベ東京の女性店主は、乗っている車椅子を前に走らせ皺苦茶の大きな顔を近づけるとそう凄んだ。


 この治療、本来なら1000万円の治療費を請求されるところだったが、特別に中島和三郎という人物を捜してくることを条件に無料で施術して貰えることが出来たのだ。

 「ありがとう婆さん。じゃあれへん、お姉さん!」

 女性店主は更に顔を近づけた。「私の事は、やんさんと呼びな!」


 「謝謝シェシェ、楊さん。高島さんは絶対に連れてくるで」

 「高島じゃない。中島和三郎だ!」

 「そうか中島さんか。……ん、中島和三郎さん? どっかで聞いた名前やな?」


 「知ってて当然さ。有名な人だからね」

 楊は真鍮しんちゅう製の煙管きせるに刻み煙草を詰めると手慣れた感じにマッチで火を点けた。


 「有名人? テレビに出とる人か?」

 上条が聞くと、楊は呆れた様子で鼻から煙を出した。

 「日本人のくせに奇跡の能力者、中島和三郎を知らないとは世も末だ……」


 上条は首を捻る。「いや、どっかで聞き覚えがある名前なんだけどなぁ」

 「中島和三郎って、前にかすみ園で園長先生が言ってた易者さんじゃない?」

 横にいる佐藤みくるがそう口入れすると、何かを思い出した上条は「ああ、あれか」と言って手を叩いた。


 以前、みくるが千里眼の能力で竹村琴音を捜した時に、ハチ公前で彼女が老人の易者と一緒にいるのを目撃していたのだ。そしてその老人のことをかすみ園の園長は中島和三郎という有名な人だと言っていた。


 「まあ渋谷にいる人なら簡単に見つけ出せるよ。なあ」

 上条は安請け合いしたが、みくるはそれに対して首を横に振った。

 「渋谷にいるっていうだけで見つけられるわけないでしょ。1度千里眼で見ただけで、顔なんて覚えてないんだから」


 「けどまあ、とりあえずハチ公前で易者を捜せばええんやろ?」

 かすみ園の園長はハチ公前で易者をやっている老人と言えば中島和三郎だとも言っていた。

 「ああそうか、それだけなら捜してみる」

 納得したみくるは店の隅に転がっていた腰掛けを持ってくると、そこに座り集中した様子で目を瞑った。


 「まあみくるちゃんが捜せばもう見つかったも同然やな。ここは大船おおふなにでも乗ったつもりで待ってればええで」

 「大船おおふなじゃない大船おおぶねだ」

 楊がつっこむと、すぐにみくるが瞼を開けた。


 「どうやった?」

 「駄目。今日はいないみたい。ハチ公から少し離れたところに1人だけ易者がいたけど、それは女性だった」

 「そうか、困ったなぁ。そうなるとやっぱり、写真がないとあかんかな……」

 上条はそう言うと、楊に視線を運ぶ。


 「写真など持ってないが、インターネットで調べれば顔写真くらいなら幾らでも出てくるだろう」楊は言う。

 「へー。そんなに有名な人なんや」

 上条はズボンのポケットからスマートフォンを取り出し中島和三郎で画像検索した。教科書に掲載されているような白黒の小さな画像が幾つも画面上に並んだ。そしてそれは全て同じ写真のようだ。


 「随分若いけどこれがそうなんか?」

 精悍せいかんな顔で写る白黒のサムネイルをタップすると、画像が大きくなり詳細が現れた。


 中島和三郎(なかじま わさぶろう)、1990年10月12日群馬県にて生誕。亜種の歴史で最も早く人外の能力に覚醒した人物。中島の持つ奇跡の能力は空間の物質化。空気を握るとそれが聖灰となりこの世に出現する。当時はこれを超能力と呼んでおり、中島の覚醒以降は次々と超能力を使えるという者が名乗りを上げた。だがその大多数は手品等によるまがい物で、そのことがきっかけとなり後に超能力者バッシングが起こる。偽物の超能力者は糾弾され、本物の超能力者も亜種と呼ばれ迫害の対象になっていった。


 「成程、思い出した。中島和三郎って亜種の起源の人やん」

 上条は声を上げた。亜種の起源については、中学校の社会で習っていることなのだ。

 「そうだよ。わかったら、とっとと捜しとくれ!」

 楊はそう言うと煙管を大きく吸い込み、水のはった缶詰の空き缶に灰を落とした。


 しかしみくるはじっとして、千里眼を使うそぶりも見せない。

 「この写真ってだいぶ昔のものでしょ?」

 みくるが言うと、楊は大きな顔で上条のスマートフォンを覗き込む。

 「こりゃ、能力が覚醒した当時の写真だね。恐らく50年は前の物だよ」


 それを聞いたみくるは、ため息にも似た大きな息を静かに吐き出した。

 「こんな昔の写真で見つけられるとは思えないけど……」

 「確かに現在の姿とはだいぶ異なるかもしれないねぇ。他に教えられる彼の特徴と言えば、この写真より痩せていてベレー帽を被ってるくらいだけど、それだけじゃ見つけられないかね?」


 「ベレー帽?」

 そう言われ、みくるの目つきが変わった。

 「ベレー帽って言われて少し思い出したかも。そういえばあの易者スーツ姿に何か帽子を被っていた気がする」

 みくるのその言葉に安堵した上条は、張っていた肩の力を抜いた。

 「おお、思い出したんか。これで見つけられそうやな。とても1000万円なんて大金払えへんからな。頼むでみくるちゃん」


 「わかってるわよ……」

 みくるは再び目を瞑る。彼女の大きな目が閉じたままピクピクと微動した。

 「あっ!?」

 声を上げると共にみくるの瞼が開いた。


 「どうしたん?」

 「いた。いたって言うか、ベレー帽を被ったスーツ姿の老人が近くで倒れてた……」

 「近くで倒れとる? どこや!?」

 みくるは少し困った表情で、上条に目を向けた。「それが魔窟大楼の20階……」


 「はぁ!? 魔窟大楼!? しかも20階って危険地帯やんか。何でそんなとこにおるんや?」上条は頭を抱えた。

 また魔窟大楼の上層部に行かなくてはいけないのか。その場所にトラウマを抱える上条は、湧き出る恐怖の感情を必死に押し殺した。しかしそんな状況もお構いなしに、みくるの報告は続く。


 「しかも同じフロアに、何故か雫と拓人もいるみたい……」

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