†chapter12 悪徒の城08
「な、ナカジーじゃんか! 生きてるのかっ!?」
拓人は倒れている中島の肩を揺さぶる。ちなみにナカジーとは、拓人が勝手に付けた中島のあだ名だ。
「あなた中島さんの知り合い?」
「知り合いっちゃあ、知り合いだけど……、これ、どういう状況なの?」
横たわる中島の首元には4か所の小さな傷跡があり、そこから僅かに血が滴り落ちている。
「中島さんは、デーンシングの首領、チャオ・ヴォラギアットの持つ洗脳攻撃を受けて、意識を失ってしまっているみたいなの」
チャオ・ヴォラギアットの持つ人外の能力は『ブレインウォッシング』。その能力は相手の心を支配し、彼の命令からは背けなくなるのだという。
「若獅子か……。デーンシングが渋谷で亜種狩りをしている可能性は把握していたけど、何もこんな年寄り拉致しなくても……」
「中島さんだけじゃないわ。数時間前までこの部屋には大勢の若い亜種が集められていたのよ」
「そうなのか?」
だというのなら、ALICEの失踪したメンバーもここにいたのかもしれない。
「他の亜種は一体どこに連れて行かれたんだ?」
その質問に竹村は首を捻る。
「それはちょっとわからない。ただデーンシングの構成員は、何度か『代々木』という言葉を口にしていたわ」
「そうか、代々木か」
そこで拓人は思い出した。闘鶏賭博は代々木で行うと言っていたことを。
「あなたは何か知っているのね。デーンシングは亜種を集めて何をしようとしているの?」
そう聞いてきた竹村の頭上に靄が漂い始めた。外の霧が割れた窓から部屋の中まで侵入しているようだ。
「良くはわからんけど、デーンシングは亜種同士で決闘をさせ、それで賭博をしようとしているんだとさ」
「亜種同士の決闘? 捕まった亜種の中には女の子もいたのに……。デーンシングはヘロイン+の製造法を入手するために日本に来たんじゃないの?」
「デーンシングの目当てはそれだけじゃないさ。失ったバンコクの秘宝、人間の瞳を奪還。クラウディに殺された同胞の仇。まあ、亜種同士の決闘ってのは、奴らにとってことのついでだろうけど」
そこまで言って拓人は周りを見回した。何となく雰囲気がおかしい。先程の靄が部屋中に広がり始めている。
「何かこの霧、妙だな」
それに対し竹村は何も言わなかった。口を開いたまま何かを考えている。
「どうかしたのか?」
不審に感じた拓人がそう聞くと、竹村のこめかみに一筋の汗が流れた。
「この霧……、まさか、あの男……?」
そう発した直後、部屋の中の霧が一気に濃くなり、数メートル先が見えなくなる程視界が悪くなった。
「えっ!?」
瞬間、背後に殺気を感じた拓人は反射的に裏拳を放った。拳の先に何かが当たると「くっ!?」という男の声が聞こえてきた。
「何だこれは!? デーンシングの仕業か!?」
拓人は風を起こした。しかし霧は部屋の中を旋回するだけで、外には出て行かない。
「これで晴れないのか? どうなってんだ!?」
愕然とする拓人に、次なる攻撃が襲いかかる。急に脇腹を殴られたかと思うと、立て続けに左頬に衝撃が走った。攻撃の方向すら読めない拓人は、受け身も取れずに地面に転がった。
「デーンシングの連中をぶっ倒したのはお前か?」何者かが霧の中から問い掛ける。
「お前こそ誰だっ! デーンシングじゃねぇのか!?」
すると再び霧の中から「フフフッ」という笑い声が聞こえてきた。
「この霧は『霧隠れ』の仕業よ!」横から竹村の声が聞こえてきた。
「き、きりがくれ……?」
「そう。天童会の下部組織『スイーパー』のメンバーで『ミスト』の能力者。通称『霧隠れ』と呼ばれている男よ」
「スイーパー? 天童会にはスコーピオンの他にも下部組織があるのか?」
「ええ。スイーパーは天童会の中でも暗殺に特化した組織。絶対に逆らっては駄目よ!」
天童会に籍を置いていた竹村は、その恐ろしさが身に染みているのか、震えた声でそう言った。
「ネタばらしが早いな」
霧の中から声が聞こえてくると、また続けて「フフフッ」と笑い声が響いた。
「まあ、デーンシングの奴らを倒してくれたおかげで、俺の仕事がやり易くなった」
「何だよ、お前の仕事って!!」拓人が地面に倒れた状態で叫んだ。
「そんなことはわざわざ言うまでもないだろう」
その言葉と共に、カチャリという金属音が聞こえた。それは拳銃の引き金の音のようにも聞こえた。つま先から首元にかけて、全身の毛が逆立つ。
「あなたたちのの目的はこの私でしょ! 大人しく天童会に戻るからこの子は助けてあげて!」
金属音に反応した竹村が声を上げたが、霧隠れは冷淡に笑った。
「何か勘違いしてないか? 勿論お前は連れて行くが、どの道天童会によって消されるはずさ。そしてそれを知った人間も生かしておくわけにはいかないだろう」




