†chapter12 悪徒の城07
拓人を囲むデーンシングの構成員たちは、皆銃を構えているのだが引き金を引くことが出来ない。標的の延長線上に自分たちの仲間がいることもそうなのだが、何より部屋中央の椅子に縛られている老年女性の横に拓人が立っていたからだ。命あっての人質。やはり向こうにとってもその老年女性は大事な人物のようだ。
人質を盾にした拓人に対し、異国の言葉による怒号が鳴り止まない。正義のヒーローなどと言いつつ、やっていることは悪党と変わらないのだからそれも仕方がないだろう。
討伐すべき敵は5人。疾風の能力を持っている拓人にとって、室内での戦闘は有利な条件とは言い難い。だが幸い窓ガラスが粉々に砕かれているため、部屋の中に風の通り道が出来ている。おかげで勝機はこちらにありそうだ。
「あなたはもしかして、スコーピオンのメンバー?」
そう日本語で聞いて来たのは、横にいる人質の女性だった。
「スコーピオン? 勘弁してよ。俺はスターダストのメンバーだ。あんたはもしかして竹村さんか?」
女性は一瞬眉をひそめたが、すぐに「ええ」と頷いた。40歳以上歳が離れているようにも見えるが、やはり彼女は琴音の母で悪魔の能力の持ち主、竹村亜樹で間違いないようだ。
「安心しろ。俺たちはあんたの娘に頼まれて助けにきたんだ」
「えっ!? 琴音に?」
「ああ、そう言う訳で少し暴れるぞ。暫くの間、砂埃が舞うだろうから目を瞑っててくれ」
拓人はそう言って目を光らせると、何かを察した竹村はそっと目を閉じた。
丁度その時、目の前にいる1番強そうな大男がこちらに突っ込んできた。
「上等っ!」
拓人は大男を引きつけると、風に乗って天井高く舞い上がった。これで大男の攻撃はかわしたが、今度は銃撃の標的になってしまう。
「つむじ風……」
広い部屋の中に緩やかな旋風が吹いた。デーンシングの構成員たちも部屋の中の異変に気付きだしたが、もう遅かった。風は銃で狙いを定めるのが困難なほどに渦巻いていた。
その中心にいる拓人は、濁流のような風の中に飛び込んだ。轟音と共に浮いた身体が風の流れに乗った。周りを囲んでいた構成員たちは立っていることすらままならぬ状態だったが、風を掴んだ拓人は部屋の中を幾度も周回してみせた。
高速で円を描きながら、拓人は周りの構成員たちを次々と薙ぎ倒していく。強い風はやがて力を失ったように勢いを弱め、最後の風の勢いに乗った拓人は部屋の中央に向かって高く飛ぶと、何も出来ずにそこに立っていた大男の脳天に踵落としを喰らわせた。
風が止み拓人が床に着地した。頭にダメージを受けた大男は、白目を剥いて卒倒した。そしてその周りには、横たわるデーンシングの構成員が散らばっていた。
「もう、目ぇ開けていいぞ!」拓人は構成員の銃や刃物を回収しながら声を上げる。
未だ粉塵が室内に舞う中、その様子を目の当たりにした竹村は唖然と口を開いた。
「す、凄いわね。あなたが倒したの?」
状況的に見て当たり前の事だったが、拓人は「まあな」と言って親指を立てた。
「そんなことより、仲間が来たら厄介だ。早くここから脱出しよう」
拓人は回収したナイフで椅子に巻き付いたロープを切断する。解放された竹村は、その場からよろよろと立ち上がった。
「ありがとう。お礼ついでにもう1つお願いをしても良いかしら?」
「お願い?」
早々にここから立ち去りたかったが、年配の人の言葉を無碍にも出来ないので「聞くだけ聞くよ」と伝えた。
「そこに倒れている人も一緒に助けて欲しいの」
竹村はそう言うと、部屋の隅に仰向けに倒れている老年男性を指差した。
「知り合い?」
首から僅かに血を流し倒れているその老人は、先程の風で部屋の隅に飛ばされたようだが、それでも身動き一つ取らない。残念ながら生きてはいないのではないだろうか……?
「知り合いではないけど、その方は有名な人なのよ」
「有名人? 政治家か何かか?」
拓人はその老人の顔を覗き込んだ。確かにどこかで見覚えのある顔だった。
「今は教科書にも載ってるらしいから若いあなたでも名前くらいは知ってると思うけど、この方は奇跡の能力者として有名な中島和三郎さんよ」
「えっ!?」
聞き覚えのある名前を聞いた拓人は、倒れている老人の顔を今一度覗き込んだ。なぜ今まで気付かなかったのだろう。その人物は、間違いなくハチ公前で易者をやっていた人類初の亜種、中島和三郎だった。




