†chapter12 悪徒の城04
そこは渋谷駅からさほど離れていないのだが、街の喧騒とは打って変わり不気味な静寂に包まれていた。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
瞬間移動の能力でその場所に辿り着くと、瀬戸口はへなへなと膝の力が抜けるようにへたり込んだ。
「着いたわよ……」
拓人はゆっくりと顔を上げた。目の前にそびえる廃墟のようなその建物は、長年の雨で壁が黒ずみコンクリートは劣化してあちこちひび割れしている。ここは間違いなく魔窟大楼だ。本当にテレポーテーションしてきたらしい。
「凄いな。これが瞬間移動か」
「そうよ。ウチに感謝しなさい。ホントだったらこの門が閉まってるせいで、あんたたちは入ることが出来な……、あーっ!!」
後ろを振り向いた瀬戸口が急に大声を上げたので、拓人も合わせてそちらに目を向けた。見ると渋谷駅前で瀬戸口が閉鎖されていると言っていた魔窟大楼の門扉が、完全に開け放たれていた。
拓人と雫はその門に近づいた。
「誰か鍵をこじ開けたみたいだな」
扉の閂にぶら下がる大きな南京錠は解錠されているのだが、そこに鍵は挿さっていなかった。このタイプの錠前は解錠すると、鍵が挿さったままになるはずだ。何者かが針金でも使って開けたのだろう。
「骨折り損のくたびれ儲けね」雫が言う。
「あんたに言われたくないわよ! こんなしんどい思いしてここにツカサがいなかったら、マジでどう責任取るつもりっ!」
瀬戸口が食って掛かると、拓人は「まあ、まあ」とそれを諌めた。
「じゃ、その時はドーナッツ奢ってやるよ」
「バッカじゃないのっ!?」
瀬戸口は怒った様子で建物に向かって歩き出した。拓人と雫もその後を追おうとすると、前を歩く瀬戸口がすぐに足を止めた。
「ちょっと待って。扉が開いてるってことは、ウチ必要なくない?」
「何でだよ。お前は仲間助けなくて良いのか?」
「いや、ツカサを助けるのはあんたらの役目でしょ。ウチは移動係だし」
そんな役割いつ決まったんだよ。拓人はそう言ってやりたかったが、連れて行っても足手纏いになりそうな気もしたので敢えて口をつぐんだ。
「移動係なら、人質が捕まってそうなところまで連れて行って」そう言ったのは雫だった。
「ちょっと、天野。あんたウチをタクシーか何かと勘違いしてない? だいたいどこよ。その人質が捕まってそうなとこって?」
そう言われ雫は空を見上げる。
「たぶん上層階。屋上に上がってそこから調べたほうが早いと思う」
「はぁ? 屋上とか無理だから。瞬間移動は自分の記憶を頼りにするものなの。行ったこともないところには、移動出来ないんだからね!」
雫は眉をひそめて空を見上げた。魔窟大楼の上には靄がかかっていて、上層部が隠れてしまっている。行ったことがなくても目視できる所なら瞬間移動出来るかと思ったが、これではどちらにせよ無理そうだ。
「じゃあ、あそこまで」
雫はそう言って上を指差す。その先には大きく突き出たバルコニーがあった。
「あそこまでって言っても、今は無理。ホントにふらふらなんだから。次は天野が変わってよ」
「わかった」
雫は聞き分けの良い子供のように頷くと、力なく座り込んでいる瀬戸口を抱きかかえた。
「ちょっと、何のつもり? 瞬間移動は手を繋ぐだけでいいんだけど?」
瀬戸口に言われたが、雫はその言葉を無視して拓人に話しかけた。
「あそこまで先に行くから後からついてきて」
「えっ? まさか疾風の能力であそこまで行くつもり?」
「うん」
「マジで……」
高所恐怖症の拓人は思わず目頭を押さえた。雫が瀬戸口を抱きかかえた瞬間嫌な予感がしたのだが、どうやら的中したようだ。これから高く飛ぶことを考えただけで足の裏に汗が滲む。
「ちょっと、どういうこと? 何をするつもり!?」
何やら不穏な空気を察した瀬戸口が抱えられたままジタバタと足を揺らしたが、雫は「じゃあ、そういうことで」とだけ言うと、膝を曲げそこから一気に飛び上がってしまった。
「雫はすっかり疾風の能力を使いこなしてるなぁ……」
そう思い空を見上げると、上の方から瀬戸口のものと思われる大きな悲鳴が聞こえてきた。




