†chapter12 悪徒の城03
「はぁ? 何でウチが魔窟大楼なんかに行かなきゃいけないのよ! 行くならあんたらで勝手に行けばいいじゃない!」瀬戸口は雫を指差し、強い口調で言った。
「だって扉が塞がれてて、中に入れないんでしょ。瀬戸口さんの『瞬間移動』の能力で送って行って欲しいの」
「嫌よ! 魔窟大楼なんてホントに嫌! マジで無理! あんたは瞬間移動とか簡単に言ってくれるけど、行ける距離も、一緒に運べる質量にも限界があるんだからね。それに瞬間移動した後は、体力と精神力の消耗が尋常じゃないのよ。1回瞬間移動しただけで、ハーフマラソン完走したくらい疲れるんだから! だいたい天野には同調の能力があるんだから、ウチの能力をコピーして勝手に行けばいいじゃない!」瀬戸口は一気にまくしたてる。
「それは嫌。私、マラソン嫌いだもの」
自分がやりたくないから、他人にやって貰う。雫の論理は自分勝手だが実に明確だ。
「マラソンはものの例えでしょ! 実際に走るわけじゃないんだから……」「けど瀬戸口さんがいなかったら、魔窟大楼から出られないじゃない」瀬戸口の喋りを遮る様に、雫がそう言う。
確かに同調の能力で瞬間移動を使い魔窟大楼の中に入れたとしても、中の住人が全員閉じ込められている状況だというのなら、瞬間移動が使える瀬戸口がいなくては行ったきり外に出れなくなってしまう。
「全然意味がわかんない! そもそも、何でウチが天野なんかのためにそこまでしなくちゃいけないのよ!」
それを受け、雫は小さく口を開けた。「確かに」
「納得した? ウチらに何のメリットもないのに、あんたらに協力する義理はないんだからね」
「あるよ」
そう言ったのは拓人だった。瀬戸口は拓人の胸倉を掴み、再び至近距離で睨みつける。
「はぁ? ウチらがあんたらに何の義理があるっていうのよ?」
「いや、あるっていうのはそっちじゃなくて、お前らにもメリットがあるってことだよ」
瀬戸口は掴んだ胸倉を放した。「どういうこと?」
「さっき言ってた、いなくなった仲間ってのは亜種か?」拓人は乱れた襟元を正しながら聞く。
「そうよ。ツカサは『空中浮遊』の能力を持ってるわ。それが何か関係あるっていうの?」
拓人は静かに頷く。
「そのツカサとかいう女、もしかしたらデーンシングに拉致されたんじゃねえのか?」
「えっ!! デーンシングにぃ!!」瀬戸口は口を大きく横に開いた。
数日前、明治通りにあるCachetteというレストランでデーンシングが密会していたのだが、その時話された情報を拓人は琉王を通じて知っていた。デーンシングはこの渋谷で闘鶏という名の亜種同士の殺し合いを行おうとしているのだ。
「デーンシングは未だに亜種や異形の人身売買をしてるって話だ。多分奴らは、渋谷にいる全ての亜種を捕らえようとしているんだと思う」
亜種同士で殺し合いを行う。という情報は刺激が強いので伏せておいた。だがそれでもショックは大きかったようで、ALICEのメンバーは全員口をあいたまま絶句してしまっていた。
「じゃあ、ツカサはデーンシングに拉致されて魔窟大楼に閉じ込められてるってこと……?」
「確証はないけどな。けど可能性は否定できないだろ?」
拓人が言うと、瀬戸口は後ろにいるALICEの仲間たちと小声で話だした。何やら話し合いのようだ。
「いいわ。魔窟大楼に連れて行ってあげる」
「ありがとう、瀬戸口さん」
雫が礼を言ったが、それに対し瀬戸口は「ふんっ」と鼻を鳴らした。
「言っとくけど、魔窟大楼での喧嘩はなしだからね。デーンシングみたいなヤバい連中敵に回したら、こっちの身が破滅するわ」
「私たちの目的も人捜しだから大丈夫。ね?」
雫がアイコンタクトを送って来たので、拓人は「ああ、喧嘩はしない」と頷いた。
「ふーん。ところであんた弱そうだけど雫の男? まあ良いわ。男手が必要になるだろうから、本来なら1人を運ぶだけでしんどいところだけど今回は特別に一緒に来て貰うわよ」
酷い言われようだけど、なんだかんだ連れて行ってくれるようだ。
「それはどうも」
瀬戸口は2、3歩前に出ると、その場で深く息を吸い込んだ。「2人ともウチの手を握って」
拓人と雫はそれぞれ瀬戸口の右手と左手を握った。
「あと、ヤバくなったらすぐに逃げるからね。わかった?」
「ええ」
雫が同意したのを見て、拓人も頷いた。
「それじゃ行くわよ……」
瀬戸口が目を閉じると、身体が少しだけ浮き上がる感覚がした。亜種の放つ独特の波動が辺りに広がる。
「ジャンプッ!!」
そう叫んだ瞬間、3人はモヤイ像前から一瞬にして姿を消した。




