†chapter12 悪徒の城02
「ガ、ガールズモッブ?」って何だ?
単純にそう思った拓人は目の前にいる金髪の女たちに目を向けた。ようするに彼女たちは女だけで構成されたストリートギャングのようだ。
「つまりお前ら女性グループってことか。その金髪はお前らのチームカラーか?」
彼女たちのチーム名ALICEから、ディズニー映画の不思議の国のアリスの容姿に因んで皆金髪にしているのだろうと拓人は解釈した。
「バッカじゃないの!? 金色をチームカラーにするなんて異形のカリスマに喧嘩売るようなもんじゃない! ウチらのチームカラーはこれよ、コレ!」瀬戸口は呆れたようにそう言いながら、羽織っている豹柄のストールを指差した。
「豹柄……?」ALICEのメンバーを見ると、全員何かしらの豹柄のアイテムを身に付けている。「アリス関係ないのかよ! っていうかそれ、チームカラーじゃなくてチーム柄だろ」
「一々細かい男ね。確かに柄をチームカラーにするのは賛否あるみたいだけど、渋谷で1番有名なガールズモッブであるウチらがやってるんだから、世間に浸透するのは時間の問題なのよ。わかった?」瀬戸口は自信満々に言う。
「渋谷で1番有名なガールズモッブは『夢魔』だと思うけど……」
横から雫が口を挟むと、瀬戸口は失望にも似た怒りをその場にぶちまけた。
「ちょっと天野! よくもウチらの前でその名前を出してくれたね。ALICEにとって夢魔は、不倶戴天の敵なのよっ!」
「ふぐたいてん?」とは何だろう? といった表情で雫は首を傾げる。
「けど、夢魔はB-SIDEも天童会すらも恐れないような人たちだから、あまり関わらない方が良いと思う」
「そんなの大きなお世話よ! この街であいつらばっかり目立ってるのは癪に障るでしょ!」
「それと、さっきの男の人……」
雫のその言葉に、瀬戸口が鋭く反応を示す。
「何? もしかして、あのなよなよした寝ぐせ野郎も天野の知り合いなわけ?」
「知り合いじゃないけど、あの人多分『ボーテックス』の幹部の佐伯って人だと思う」
「ボーテックスの幹部? アレが?」瀬戸口は「冗談でしょ?」と言わんばかりの顔だ。
「この辺りでボーテックスに関わるのは賢明じゃない。彼らは西側エリアの縄張り争いでピリピリしてるから、いざこざが起きれば瀬戸口さんたちも争いに巻き込まれるよ」
この渋谷駅西側エリアには『ボーテックス』、『瑠撞腑唖々』、『True』という3つのチームが存在し、西口バスターミナル近辺の覇権を巡って小競り合いをしているのだ。B-SIDEとスコーピオンが存在する渋谷駅北西エリアは、休戦協定があるため表面上は比較的平和なのだが、この西側エリアはいつ大きな争いが勃発してもおかしくないような緊張状態にあった。
「この辺りが危険なのは百も承知。ただツカサが最後に目撃されたのが、このモヤイ像付近だったからここで捜してるだけよ。だいたい天野こそ何でこんなところうろついてるのよ?」
「私? 私は魔窟大楼に行こうと思って……」雫は西に見える巨大なビルに目を向ける。
「はぁ? そっちの方がよっぽど危険じゃない! 第一今は、入口の扉が塞がれてるのに何しに行くつもり?」
その言葉に雫は首を捻った。
「塞がれてる? 入れないの?」
「当たり前でしょ。今、魔窟大楼はデーンシングに占拠されちゃってるのよ。あそこに住みついてる中国人も、まとめて全員閉じ込められてるんだって。あそこには巡査も住んでるみたいだけど、警察官があんな監獄みたいなところに軟禁されるなんて滑稽じゃない!」
瀬戸口が笑うと、その顔を雫がつまらなそうな表情で見つめる。
「何よその顔? 何か文句あるの!?」
「魔窟大楼がデーンシングに占拠されてる?」雫は瀬戸口の言葉を無視して、横にいる拓人の顔を見た。
「そうなんだ。巡査大丈夫かな?」
「鄭さんは大丈夫。あの人、殺されたって死なないんだから。それより、デーンシングがアジトにしてるってことは、琴音ちゃんのお母さんもそこに捕らえられてるかも……」
「えっ、琴音ちゃんの母親がデーンシングにっ!? ……何で?」
拓人が首を傾げると、雫がそれについて説明した。
雫が言うには、天童会がデーンシングと和解する際に売り渡したヘロイン+を作りだす悪魔の能力者というのが、実は琴音の母、竹村亜樹だったと言うのだ。
拓人は左の眉を吊り上げて雫の顔を見る。
「そうだったのか……。けどこれで魔窟大楼に行く理由がもう1つ出来たな」
それに合わせて雫が頷くと、正面にいる瀬戸口に視線を移した。
「瀬戸口さん。お願いしたいことがあるんだけど」
そう言われ、瀬戸口は何か恐ろしいものでも見てしまったかのように顔を引きつらせた。
「あんたがお願い事してくるなんて気持ち悪いわね。何よ?」
雫は真っすぐな目で瀬戸口を見つめると、こう口にした。
「魔窟大楼まで中まで、私たちを連れて行って」




