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星屑のシャングリラ  作者: 折笠かおる
†chapter11 墓場の住人
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†chapter11 墓場の住人06

 宮益坂下交差点の横断歩道を渡ると、上条とみくるの2人は渋谷駅方向に向かって歩を進めた。

 「みくるちゃん、気分は落ち着いたんか?」

 「……うん」

 みくるはそう答えたが、目が泳いでしまっている。未だ不安定な感情を引きずっているようだ。


 「けどみくるちゃんが、遠く離れた異国の映像を千里眼で見ることが出来たんはどういうこと何やろ?」

 そう言って振り返ると、俯いているみくるの喉が小さく動いた。

 「それは多分あたしがオッドアイ、異形だから……」


 異形の亜種は通常にはない強力な力を持っている。それが通説だ。それを踏まえて考えれば、通常の能力を超える力を発揮したとしても別段不思議なことではないのかもしれない。


 JR線の高架を潜り抜けると、スクランブル交差点がある渋谷駅ハチ公口前付近に辿り着く。

 上条はビルの谷間から小さく開けた空を見上げた。道路を挟んだ向こう側に、薄汚れた巨大な建造物がそびえ立っている。憂鬱な気持ちで深く息を吸い込むと、隣を走り抜ける旧型の貨物自動車が大量の排気ガスを吐き出した。ゴムが燃焼した時のような不快な臭いが辺りに漂い、顔をしかめた上条はみくるの手を引き道路から離れた。


 上条とみくるは、先程鳴瀬に聞いたカタコンベ東京という店に向かっている。しかし鳴瀬からその場所を教えられた直後から、上条の気分は陰鬱なものだった。


 「で、この石化が治せる店いうのは一体何処にあんねん?」

 上条は石化した右手を差しだしそうに聞くと、鳴瀬は駅の向こう側を指差した。霞んだ空にぼんやりと巨大な建物が立っている。


 「おい、お前が指差してるとこってもしかして……」

 「ああ、魔窟大楼まくつだいろうだよ」

 その言葉に上条はがっくりとうな垂れる。

 「またあそこか……」


 「お前ら、本当に魔窟大楼が好きだよな」

 「好きちゃうわ! この間だって殺されかけたんやぞ!」

 上条はその時のことを思い出し腹を押さえた。彼は以前、魔窟大楼で闇ブローカーのらいに腹部を刺され病院送りになったことがあるのだ。


 「けど心配すんな。確かお前らがこの間行ったのは、魔窟大楼の住人でも寄りつかないって言われてる上層部だろ?」

 「そのカタコンなんとかいうのは、もっと低いフロアにあるんか?」上条は少し安堵し、肩の力を抜いた。

 「ああ、低い。低いというか、むしろ地下だ」

 「地下っ!?」

 魔窟大楼の上層部が危険なことは身をもって体験したが、地下はどうなのだろう? それはそれで何やら危険な臭いがする。


 「きな臭いなぁ……」

 果たしてその言葉が見上げた魔窟大楼に対して言ったのか、貨物自動車が吐き出した排気ガスに対して言ったのかはわからないが、彼が不本意な気持ちで魔窟大楼に向かっていることは間違いなかった。


 「せやけど、みくるちゃんも随分辛い記憶を思い出してもうたもんやなぁ」上条は心配そうに眉間に皺を寄せる。

 「うん。だけどそれと同時に、ママの気持ちも少しだけ感じられたような気がする」

 みくるは今まで、自分は母に捨てられたのだと認識していた。幼い頃の幾つかの辛い記憶に蓋をしてしまっていた為だ。しかし過去の記憶が蘇ると共に、母の本当の気持ちがようやくわかったようだ。


 「ねえ圭介は琉王るおうから聞いて知ってるんでしょ。あたしのママはなんでデーンシングに入って、何で殺されてしまったの?」 

 みくるに袖を引かれた上条は、困ったように顔を伏せた。

 宮下公園の管理室で琉王は言っていた。母、佐藤紘子は自分の子供たちを守るために、自らデーンシングに身を置くことを決意したのだと。だがその真実を伝えることは、紘子の望むことではなかった。なぜならそれを知ることで子供たちが、デーンシングに恨みを抱いてしまうからだ。もしも世界最大の犯罪組織に復讐など考えることがあれば、まず命の保証はできないだろう。


 みくるにその事実を伝えた方が良いのか? それとも佐藤紘子の望むように真実を隠し通す方が良いのか? 上条はその決断をつけることが出来ぬまま、みくるが知りたいと望むならばと琉王から聞いたあらましを話しだした。

 初めて聞く話なのだろうが、みくるはそれを聞くと素直に何度も頷いてみせた。


 「あたしは全部知っていたんだと思う。だけど怒りをぶつける矛先がママと琉王しかなかったから反抗期の延長で2人を嫌っていただけなんだ……」

 みくるの瞳に涙が滲んだ。


 「みくるちゃんのおかんは自分が悪者になるように自分自身で仕向けたんやから、嫌っていたことを怒ったりはしないと思うで」

 上条が言うと、みくるは静かに頷いた。

 「さらわれた琴音ちゃんのママも絶対に助け出そう。こんな辛い思いをするのは、もうたくさん!」


 「せやな。この腕が治ったらスターダスト緊急招集や。デーンシング、潰しに行くで」

 「うん」

 みくるは赤くなった目を擦ると、薄く笑顔を見せた。

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