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星屑のシャングリラ  作者: 折笠かおる
†chapter11 墓場の住人
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†chapter11 墓場の住人05


 目の前にいる鳴瀬の気迫に圧され、上条は1歩、2歩と後ずさる。

 「まずいことになったな。けどみくるちゃんのことだけは、絶対に助けたるからな……」


 みくるは首を振ると、目に涙を浮かべそして後ろに振り返った。その方向からはゆっくりとした速度で全身が岩を化したバンハーンが近づいてくる。

 「あたし思い出したの。ママはあの男に殺されたんだ……」

 みくると琉王るおうの母、佐藤紘子がバンハーンに撃ち殺されたということは上条も知っていた。だがその話を聞いた時、みくるがそのことを知っているかどうかはわからないと琉王は言っていた。


 「みくるちゃん、そのこと知っとんたんか?」

 みくるは口を軽く開けたまま上条の顔を見つめると、すぐに目を伏せた。


 「違うの。今はっきりと思い出した。あたしは千里眼の能力で見ていたんだ。ママが殺されるその瞬間を……」


 「えっ!?」上条の腕に鳥肌が立った。

 しかし佐藤紘子が殺された場所はバンコクだったはず。みくるが千里眼によって見通せる範囲はせいぜい半径5km。当時みくるが日本にいたのなら、それを知りうることは不可能なはずだった。


 「けど、それはありえへんやろ……」

 呆然とそう呟いた瞬間、目の前を歩く鳴瀬が勢いよく突っ込んできた。


 ハッと我に返る上条の真横を、走ってきた鳴瀬が猛スピードで通り過ぎる。

 「邪魔だ!」

 上条の目が鳴瀬を追いかける。後ろを振り返った時には、鳴瀬はバンハーンの腹部に飛び蹴りを喰らわせていた。


 果たして奴に蹴りが効くのか? そう思ったのも束の間、その蹴られた身体の中心に大きなひびが入った。

 「うああああああっ!」

 バンハーンは大地に響くような大きな声で雄たけびを上げた。ひび割れた身体の中心に歪みが生じると、岩と化したバンハーンは全身が砕けそして粉々になり地面に崩れていった。

 「あああああぁぁぁぁぁ……」

 断末魔の叫びが途切れ、西から吹いた風が崩れたバンハーンの身体から粉塵を巻き上げた。


 これが帝王と呼ばれる鳴瀬のサイコキネシスの能力か……。その恐ろしい能力に青褪めた上条は、息を漏らすと瓦礫と化したバンハーンに目を落とした。

 「こ、殺したんか?」

 「人聞きの悪いことを言うな。俺ぁ、歩道に放置された邪魔な岩を砕いただけだ」


 そこで上条は石化してしまった自分の腕を思い出した。だがこれでようやく元に戻るな。そんな思いで右腕に目をやったのだが、腕は未だゴツゴツとした岩のままだった。

 「なんでやっ! バンハーン倒したのに、腕が戻ってへん!」


 鳴瀬がいやらしい笑みを浮かべ近づいてくる。

 「石化能力の解除は、もしかすると石化させたこいつ自身が行わないといけないのかもしれねぇな」


 「最悪やっ! これやったら腕が一生岩のままやないかっ!?」

 上条は石化した右腕が重くて上がらないため、左手だけで頭を抱える。

 「おもしれぇじゃねぇか」

 「何がおもろいねん! お前責任取れや!」


 上条の大きな声にうんざりしたのか、鳴瀬はだるそうに耳をほじった。

 「……何をしてる?」

 鳴瀬がそう言ったのは、近づいて来たみくるが地面に転がる岩の欠片を持ちあげたからだ。それはバンハーンの頭部だった部分だ。


 「えいっ! えいっ! えいっ! えいっ!!」

 みくるは涙を流しながら、その岩の欠片を地面にぶつけた。ぶつけては拾い上げ、何度も何度もそれを地面に叩きつけた。

 街ゆく人がその様子を遠目から見ている。女の子が号泣しながら岩を地面にぶつける姿は、傍目に異様な光景に映ったのだろう。


 「みくるちゃん、もう……」

 上条がそう声を掛けると同時に、鳴瀬がみくるの肩を掴みそれを制した。そしてみくるを離れさせると、鳴瀬はその岩の欠片に右手をかざした。地面に転がる岩の欠片が、ゆらゆらと宙に浮いた。これもサイコキネシスの能力だ。

 「ダウンッ!!」鳴瀬が叫んだ。

 するとバンハーンの頭部だった岩は一瞬で地面に落ち、その衝撃で木っ端微塵に砕け散った。


 「ヤクザとマフィアの争いに首を突っ込む気はないが、この街ででかい顔されんのも気分が悪いからな。まあ、感謝しなくてもいいぜ」

 鳴瀬はそう言うと、ウインドブレーカーパンツのポケットに手を突っ込んだ。


 「感謝なんかしてへんわ! この腕どないしてくれんねん!」

 上条の因縁に、鳴瀬は眉をひそめる。「それはお前がまぬけだからやられたんだろ」とでも言いたげな表情だ。


 「なぁ、上条。お前『カタコンベ東京』って店、知ってるか?」鳴瀬は不意にそう聞いてきた。以前教えた上条の名を、しっかり覚えていたようだ。

 「かたこ? なんやそれ知らん。そこがどうしたんや?」


 「そこは表向きには小売店をやってるんだが、裏稼業で人外の能力を使った医療行為も行ってるらしい。そこならあるいはその石化した腕を治してくれるかもしれねぇな」

 鳴瀬はそう言うと、にやりと口元を緩めた。

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