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星屑のシャングリラ  作者: 折笠かおる
†chapter11 墓場の住人
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†chapter11 墓場の住人04

 「俺の勝ちのようやな。石化を元に戻すんやったら命だけは助けたるぞ」

 上条はそう脅したが、相手はやはり世界的な犯罪組織の幹部。素人相手に屈するはずもなかった。


 うつ伏せになったバンハーンは、顔を少し上げると異常に口角を上げ「ヒヒヒヒヒ」と喉を鳴らした。

 「これで勝ったつもりか? ペトロクラッシュの真骨頂はここからだ」

 バンハーンは倒れたままズボンのポケットに手を突っ込むと、そこから小さな瓶を取りだした。中には純白の粉が入っている。


 「静脈注射メインラインといきたいとこだが、鼻腔吸引スニッフィングで我慢しよう……」

 バンハーンは小瓶から白い粉を少量左手の上にあけ、おもむろに顔の前に近づけると鼻腔から粉を一気に吸引した。半開きの口からは涎が垂れ、恍惚の表情を浮かべている。


 「くぁあああ!」

 外敵を威嚇する野鳥のような声を上げると、バンハーンは目を瞑りその場でぐったりと首を下ろした。どうやら薬物を吸引したらしい。ヘロインプラスなのかもしれない。


 「何や? オーバードーズで自滅したんか?」

 上条は倒れているバンハーンの足に蹴りを入れた。しかし何の反応も示さない。

 「意識失う前に、この右手を治せやっ!」そう言って何度も蹴りを入れたが、バンハーンは一向に起き上がってこなかった。


 「くそっ! どうすりゃええねん!」

 上条は自分の右手を見つめた。やはり奴を殺す以外に、石化を解除する方法はないのだろうか? 上条の脳裏に石化した拳でバンハーンの頭を叩き潰す映像が浮かんだ。背筋がぞくぞくと震える。人を殺すんか、俺は?


 しかしその時だった。急に倒れているバンハーンに異変が起き出した。身体全体が数回大きく脈打つと、手の先から全身にかけてどんどんと石化していったのだ。

 「おおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 始めは両腕が関節ごとに幾つかの石の塊と化し、続いて胸から腹部、そして両足と頭が徐々に石化していった。

 ロールプレイングゲームに出てくるゴーレムのような姿になったバンハーンは、両手を地面につきそこから立ち上がった。


 「そういえば、ヘロイン+には亜種の持つ人外の能力を高める作用もあるっていうとったな。これはそういうことか?」

 岩の化物と化したバンハーンが目を光らせると、振り上げた拳をこちらに向かって叩きつけた。

 「うわっ!!」

 衝撃で地面が揺れた。そのパンチは上条まで届かなかったが、殴りつけた地面が隆起したように盛り上がっている。


 「フーッ! フーッ!」

 第2波がくる。だが動きはそれほど速くないようだ。

 「そんなどん臭い攻撃が効くと思うとんのかっ!」

 再びバンハーンの拳が地面に突き刺さる。後方に跳び避けた上条は、今度は前に跳び隆起した岩を踏み台にして更にジャンプした。

 「喰らえっ!!」

 石化した上条の拳が、バンハーンの頭部を殴りつける。しかしバンハーンはびくともしない。逆にダメージを受けているのは上条の方だった。拳を見ると石化した手にひびが入っていた。


 「うわっ! やってもうた!」

 崩れかけた石の拳から幾つかの石片がパラパラと地面に落ちる。だが神経が通っていないのか、痛みはまるで感じない。

 「けど崩れてもうたら、さすがにアウトやろ」


 再びバンハーンの拳が地面に突き刺さる。

 「うわっ!」

 上条は地面を転がり攻撃をかわした。

 「はぁはぁ、今のは危ないとこやった……」

 何かの気配を感じ倒れたまま上を見上げると、その転がった先には放心状態のみくるが立っていた。上条は急いでそこから立ち上がる。


 「みくるちゃん! ここは一旦退くでっ!!」

 上条が手を引くと、我に返ったみくるが潤んだ目で訴えた。


 「……あたし、思い出したの!」

 「何を!?」

 走る上条はそう言いながら振り返った。大丈夫だ。岩の塊と化したバンハーンの動きはあまりにも遅い。

 「能力が初めて覚醒した時のこと」


 上条は走りながら考えた。自分はものごころがついた時には、もう能力が覚醒していたような気がする。だがそんなことは、どう考えても今話すことではない。

 「とりあえずそれはええやん! 今はあいつから逃げんと殺されて……!?」

 上条はそう言っている途中、動揺のため一瞬息が出来なくなり、そして足を止めた。坂を下りきると目の前には大きな交差点があるのだが、その横断歩道の向こう側からある人物が歩いてきているのが目に映ったのだ。


 「くそっ! あいつはなんでこういつもややこしい時に現れるんや……」

 こちらに向かって歩いてきているの長髪のその男は、B-SIDEの頭、鳴瀬光国だった。


 鳴瀬は亜種の持つ独特の空気を全身から漂わせている。すでに戦闘態勢は整っているようだ。

 次に会った時は全力で叩きのめす。以前、鳴瀬に言われた言葉が上条の頭に過ぎった。


 「男なら、ここは逃げられへんな……」

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