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星屑のシャングリラ  作者: 折笠かおる
†chapter10 空中公園の隠者
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†chapter10 空中公園の隠者10

 琉王るおうは目の前に置いてあるミネラルウォーターのペットボトルを口の中を湿らす程度に飲み込むと、スーツの内ポケットから再び人間の瞳が入った黒い小箱を取りだし蓋を開いた。

 「ここで人間の瞳に話が戻るのですが、これがどういう石なのか皆さんはお気づきになりましたか?」


 「まさか……」拓人の息を呑む音が聞こえてきた。

 「ジェムクラッシュの能力で作られた石なんか?」

 目の前にあるその宝石が元々は人体の一部だったのかと考えると、自然と鳥肌が立った。


 「実は母がバンハーンという男に銃で左目を撃ち抜かれた際、潰れてしまった目が何故なのかこの石に変わっていたのだそうです」

 丁度人の眼球程の大きさのこのルビーは、殺された佐藤紘子の左目が宝石化し眼孔がんこうに埋まっていたものだというのだ。


 「じゃ、人間の瞳はみくるちゃんのおかんの瞳やったんか……」

 「はい。みくるにはそのことは言っていないので知らないと思いますが」

 琉王はその不気味な光を放つ小箱を、そっと閉じた。


 「いや、多分みくるちゃんは人間の瞳のこと知ってると思うで」

 「えっ、本当ですか?」

 何時だったか琉王から預かった人間の瞳の写真をみくるに見せた時、彼女は異常にこの宝石の情報を聞きたがっていた。暴露の能力を使ったわけではないが、上条はその時みくるはこの人間の瞳に何か特別な感情を抱いているに違いないと感じとっていたのだ。


 「みくるちゃんは自分の家族に対して色々苦悩してるんやと思うんです。出来ることやったら琉王さんの口から、今ここで言った話を全部みくるちゃんに伝えてやったほうがええんやないやろか?」

 しかしその言葉に琉王は何の反応も示さなかった。それは暗に賛同しかねるという意味であった。


 キム子は短くなった煙草を灰皿で揉み消した。

 「きっと琉王にも考えがあるのよ。みくるのことは琉王が一番良くわかってるんだから」

 「けど、みくるちゃんにも知る権利があるんやないか?」

 「知る権利なら誰だってあるわよ。けどそれを知ったからといって誰かが幸せになる保証はどこにもないじゃない……」


 琉王は柔らかな物腰で上条を見つめた。

 「みくるのことを気に掛けてくれて感謝します。ところで上条くんは、異形には他の亜種には無い特別な能力があることを知っていますか?」

 突然の問いに、上条の目は思わず丸くなった。

 「ああ。通常の亜種よりも強力な人外の能力を持っているいうのは聞いたことあるで」


 「私もその例外ではなく、実は私の持つ百聞の能力には死者の声も聞こえるという特別な力があるのです」

 「はぁっ? 死者の声!?」拓人の顔から血の気が失せた。

 琉王は「はい」と頷くと、その特別な能力について話しだした。


 琉王の持つ百聞の能力とは、およそ半径5km圏内の人の会話を聞くことができるの力なのだが、ただその会話の中に紛れて、時々亡くなった人の声も聞こえてくることがあるのだという。その死者の声とは自分に対し何かを訴える時に聞こえるらしく、そのほとんどが母親である佐藤紘子の声なのだそうだ。


 「母は私たち兄妹にデーンシングと関わりを持って欲しくないと思っているようです」

 「けどみくるちゃんはおかんに裏切られたと思ってるみたいやで。それが誤解やっていうんならちゃんと解いてやらんと、みくるちゃんはおかんのことを一生恨んだままになるんやないか?」

 「デーンシングに仇打ちなどを考えるぐらいなら、私が嫌われたままで良い。母は私の耳元でいつもそう言っております」

 死者の声とはにわかに信じがたいが、それが本当なのだとすると佐藤紘子は何があっても自分の子供たちにデーンシングと関わらせたくないと思っているようだ。やはり内部にいた人間だからこそ、その恐ろしさがわかるのかもしれない。


 「ちなみに母の仇であるバンハーンという男は、今回若獅子と共に渋谷に来ているようです」

 琉王がそう言うと、何かを思い出した拓人が顔を上げた。

 「そういえば昨日、スコーピオンの犬塚があの時交差点にいなかった奴でもう1人やばい幹部がいるって言ってたけど、もしかしてそいつがそのバンハーンなのか?」

 「そうですね。若獅子が日本に連れてきた幹部はバンハーンと昨日殺されたパイソンの2人だけのようなので、恐らくそういうことになります」


 「何や拓人、あの犬塚と友達になったんか?」

 上条が冷やかすように言うと、拓人は興奮したように椅子から立ち上がった。

 「馬鹿かよ! 何で俺が犬塚と仲良くならなきゃいけねえんだ。デーンシングっていう共通の敵がいたから便宜上会話しただけだ!」

 「何やそうか。喧嘩の後で友情が芽生えたパターンかと思ったで」

 「気持ちわりーこと言うんじゃねぇよ。昭和の不良か!」


 上条と拓人が下らないやりとりをしていると、不意に琉王が「あっ」と声を漏らした。

 「どうかしたんか?」

 上条が聞くと、琉王は頬を緩めた。

 「今、百聞の能力で面白いことがわかりましたよ」

 「何がわかったん?」

 「明治通りの裏に『Cachetteカシェット』というレストランがあるのを知っていますか?」

 それは日本語で隠れ家という意味を持つ店名の、渋谷では比較的有名なレストランだった。


 「ガイドブックとかにもよく載ってる有名店やろ。知ってるで。行ったことはないけど」

 「どうやらそのCachetteにデーンシングのメンバーが来ているようですよ」

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