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星屑のシャングリラ  作者: 折笠かおる
†chapter10 空中公園の隠者
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†chapter10 空中公園の隠者06

 ファンタジスタのリーダー、黄英哲ファンヨンチョルはボーダー柄のパーカーにターコイズグリーンのハーフパンツという格好でふらふらと立っている。それは上京して間もない頃の拓人の格好に良く似ていた。


 「スターダストの実力がどれほどのものなのか、見せて貰ったよ。正直、想像以上だったね。びっくりした!」黄は釣り上がった目で、幼児のような笑みを浮かべる。

 「せやろ。これがスターダストのエース、山田拓人の実力や!」

 上条がそう啖呵を切ると、顔を赤くした拓人に脇腹を突かれた。

 「恥ずかしいこと言うんじゃねぇよ!」


 「何が恥ずかしいねん! 渋谷三大勢力の1つ、ファンタジスタの幹部を倒したんやで。もっと自分に自信持て!」

 「そういうことじゃねぇんだよ」

 拓人が何かを諦めたように顔を俯けると、黄が少し身を屈め下からその顔を覗きこんできた。


 「な、なんだよ……」

 爛々と光る黄の釣り目にたじろいだ拓人は、その場から1歩後退した。

 「拓人くんからは、強い風の音が聴こえてくるね」黄が言った。

 「風の音?」

 黄は拓人の持つ能力に気付いたようだ。


 「そうや。拓人は風を操る能力を持ってんねん。渋谷に亜種は数多くおるかも知れんが、自然を操れる奴はそうおれへんで!」

 「なるほどそうか。君はさっきの戦いの中で、風を利用していたのか!?」

 黄は合点がいったように頷く。どうやら戦闘を見ていて風を操っているのだと認知したのではなく、別の方法で拓人から風の音が聴こえると感じたようだ。


 「風の音が聞こえるってのはどういうことだ? 圭介君と同じ暴露の能力か?」

 その拓人の質問には、上条が答えた。

 「いや。黄の能力は『シナスタジア』っちゅう、かなり特殊な能力や」

 「シナスタ? 何だそれは?」

 「何て説明したらええんやろな? 通常の人間が1つの感覚から1つの刺激しか得られないのに対し、黄は1つ感覚から複数の刺激を得ることが出来るんや」


 拓人は白目を剥いた。「全くわからん」

 「せやろな。まあ簡単に言うと、色に味がしたり、臭いに音が聞こえたりするわけわからん能力らしいで」

 「ふーん。それで俺から風の音が聞こえたってことか。シナスタ恐るべし」

 拓人がそう言うと、黄は自分の能力を理解してくれたのが嬉しかったのか何度も頷いてみせた。


 「そうなんだよ。拓人くんからは台風みたいな大きな風の音が聴こえてくるんだ」

 シナスタジアの能力を持つ黄には、拓人の姿という視覚情報から風の音という聴覚情報も同時に得られるのだという。


 「ちなみに、この圭介くんからはどんな音が聞こえるんだ?」

 拓人が上条を指差すと、黄はまた目を爛々と光らせた。

 「上条くんからは音じゃなくて、臭いを感じるね」


 「臭い? どんな?」

 自分の臭いが気になった上条は、着ているリネンシャツの臭いを嗅いだ。大丈夫だ。僅かに柔軟剤の香りがする。

 黄は言葉を選ぶように、ゆっくりと間を開ける。

 「えーとね。暗渠あんきょみたいな臭い」「ドブ川の臭いやんっ!!」


 上条はそうつっこむと、1歩下がってため息をついた。「黄くん、もうちょっと丁寧にオブラートに包んでやぁ……」

 落ち込む上条を見て黄が無邪気に笑っている。存外、サディスティックな性格なのかもしれない。

 「いやー、けど臭いはともかく、格闘センスは中々のものだよ。六角くんは油断して自滅したみたいだけど、透過の能力を持つ飛澤とびさわくんを殴れたのは一体どういう理屈かな?」


 「それは圭介くんの暴露の能力で、透過の弱点を暴いたおかげだな」

 拓人は落ち込んでいる上条をさりげなくフォローした。

 「せや。透過も硬化も物理攻撃を無効化出来る能力やけど、うまくタイミングを合わせれば攻撃を当てることが出来ると気付いたんや」


 そう言われると、黄は左手の親指の爪を噛んだ。それは彼の癖のようだ。

 「へー。後学の為に、その弱点って奴を教えて貰ってもいいかな?」


 「まー、単純なことやで。あの2つの能力は連続的に能力を使い続けることが出来ひんねん。能力を発動させると1度リセットしてからじゃないと次の発動に繋げられへんから、その瞬間を狙い澄まして攻撃すればええんや」

 「うん、うん」黄は指をくわえたまま強く頷いた。


 「硬化なら1.5秒の発動時間の後、必ず1.5秒軟化される瞬間があるから、相方の攻撃が防がれた直後に合わせて攻撃すればええわけや。透過も理屈は一緒やな。ただ透過は、身体に何かしらの物体が通り過ぎている間は発動時間が過ぎても能力が有効になるみたいやから、相方の攻撃が通り過ぎた直後に合わせて攻撃をかませばええねん」


 「なーるほど。暴露の能力とは凄いですね。それにしても、硬化と透過の能力って発動時間が1.5秒だったんだね。知ってた?」黄は六角に声を掛ける。

 「いや、そこまで正確な秒数は流石に知りません。体感的に1秒か2秒くらいとは思ってましたが……」

 「そうだよねー。今回の敗因は2対2の勝負だったことかな? いやー、勉強になった」

 黄は大きな口を開けてカラカラと笑う。負けて悔しいという感情は無いようだ。


 「ともあれ、俺らが勝負に勝ったんやからご褒美貰ってもええか?」

 上条はそう言ってみた。そもそも勝負に勝ったら黄に会わせて貰うというだけの約束だったのだが、そんなことはどこ吹く風だ。最も六角と飛澤は1度ダウンしたら試合終了なのに対し、上条と拓人はノックアウトされるまで戦い続けて良いという時点でフェアな勝負ではないのだが。


 掌を広げると、黄は空を見上げた。先程から降っている雨が強さを増している。

 「上条くんがここに来た理由を、僕は知っているよ」

 黄は言った。上条がここに来た理由。それは千里眼によって宮下公園にあると突き止めた人間の瞳の回収だ。

 「そうなんか? けどまあ、それなら話が早い。教えてくれへんか? 俺らが探している物の在り処を……」


 黄は髪の毛に付いた雨粒を猫のように振り払うと、パーカーのフードを深く被った。

 「それじゃ、雨も降ってきたことだし、僕らが詰所として使ってる公園管理室に案内するよ」

 そう言うと、黄はスキップでも踏むような楽しげな調子で、公園管理室があると思われる方に歩いて行った。

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