†chapter10 空中公園の隠者05
長細く造られた公園に一陣の風が吹き抜ける。その風は自然のものなのか、拓人が能力を使って起こしたものなのかは上条には判断がつかない。
相方の六角がダウンし1人で2人の相手をすることになった飛澤は、ゆっくりと横に移動しながら相手の出方を窺っている。スターダストのことを知っていたのだから、こちらの能力も把握しているのかもしれない。
ならば先手を取って攻撃するか。上条が地面を蹴った。それに合わせて拓人も移動を開始する。
「喰らえっ!」
上条が駆けた勢いで飛び蹴りを放つと、飛澤は能力を使わずに横に移動してそれを避けた。拓人は少しの躊躇いの後、飛澤に向かって上段蹴りを出したが、それは上半身を後ろに反らしてかわされてしまった。
「透過を使わへんのか?」上条が呟く。
飛澤はブリッジの状態から後方に回転し立ちあがると、目の端で微かに笑った。こちらの作戦に気付いたのかもしれない。
「それでは今度はこちらから……」
飛澤はそう言うと、側転をしながら拓人に突っ込んできた。
「何だっていうんだよ、その動きは!?」
イレギュラーな攻撃に対処の仕方がわからない。飛澤は連続で側転を2度程すると最後側宙からの蹴りが、拓人の喉元に針のように刺さった。
「くはっ!!」
息が出来ずにのけ反ると、飛澤は続けざま右手を大きく振り勢いよく回転しながら高く飛び上がった。
「540キックだ」六角が言う。
飛澤が飛び上がったその頂点で回し蹴りを放つと、拓人はまるで鈍器で殴られたかのように地面に卒倒した。
「おい! 大丈夫か拓人っ!?」
上条が叫ぶと、拓人はすぐに上半身を起こした。
「当たり前だ。勝負はこれからだろっ」
拓人は急いで立ち上がろうとしたが、足が震えてうまく立てない。
流石に今の蹴りはダメージが大きそうだ。少し時間を稼いで拓人を回復させよう。
上条は1歩前に出ると、鋭い眼光で飛澤を睨んだ。暗い空からぽつりぽつりと雨粒が落ちてきた。乾いていた地面から朽ちた倒木のような臭いが沸き立つ。
「そんな怖い目で睨まないでくださいよ」飛澤はおどけてそう言う。
「お前らにとったら遊びごとかもしれへんが、こっちは真剣やねん」
「遊びだなんて……」思っていないと言いたげな表情だった飛澤だが、それを呑みこむと真剣な眼差しを上条に返した。やはりどこかレクリエーション感覚が拭えなかったのだろう。
「では、僕も本気でいきます。勝負は真剣にやるから面白いんですよね」
「そういうことや」
飛澤は獲物を狙う肉食獣のような目で上条を睨む。余計なことを言ってしまったのかもしれないが仕方がない。今は時間が稼げればそれで良い。
再び上条は仕掛けた。拳の連打を浴びせる。しかし飛澤は両腕を使ってそれを丁寧に捌いた。
「中々やりますね。格闘技でも習っていたのかな?」
飛澤は話しながらも、隙を突いて蹴りで反撃する。
「じじいの家が棒術道場やからな。ガキの頃は毎日棒でしばかれとったわ」
「棒術? 古武術の類でしょうか? 今時珍しいですね」
「そうや。だから西洋かぶれの新興スポーツには負けられへんねやっ!」
渾身の蹴りが飛澤を襲う。しかし虚しくもその蹴りは透過で避けられてしまった。
「棒術使いが棒も持たずにここまでやれるとは、侮れないですねスターダスト」
「棒があったら、とっくに勝負は付いとるわ」
上条はそう強がると横に目線を反らした。倒れていた拓人が起き上がっている。そろそろ頃合いだろうか?
「行くで」
これで決めたる。上条は走った。飛澤は足を肩幅に開き、それを迎え撃つ。
上条は走っている途中、突然転倒するように前方に転がってしまった。足がもつれ転んでしまったかのようにも見えたのだが、実はそうではなかった。走ってきた勢いそのままにくるりと前に回転すると、上条は目の前にいる飛澤の首元に浴びせ蹴りを放ったのだ。
不意に飛んできた蹴りだったが、飛澤は冷静に透過でそれを避けた。上条の蹴りが飛澤の身体を虚しく通過する。だがそれこそが上条の狙いだった。
そのタイミングを待っていた拓人が飛澤に向かって地面を駆ける。「当たれっ!!」
上条の足が飛澤の身体を突き抜けた直後、疾風の如く突っ込んできた拓人が拳を振り抜いた。目の前から迫りくる敵なら透過の能力で簡単に避けられるように思えるが、何故なのかその拳は通り抜けることなく顎にめり込み飛澤は派手に吹き飛んだ。
飛澤が地面に背中を打ち付けると、どこか上の方から「はーい。そこまでっ!」と言う声が聞こえてきた。
「誰や?」
上条が声の方向を見上げる。すると木の上に1人の男がいることに気付いた。
木の上にいた男がそこから飛び降りた。空中で2回程回転して華麗に着地すると、地面に落ちている枯葉がふわりと舞いあがった。
頭を上げた男が被っていたパーカーのフードを外した。白みを帯びたアイスグリーンの髪がそこから現れる。
「成程、あんたが黄英哲やな。そんなとこにおったんか?」
上条が言うと、その男は怪しげに口の端を釣りあげた。
「そうです。僕がファンタジスタ代表の黄です。はじめまして、スターダストのリーダー上条圭介くん」




