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星屑のシャングリラ  作者: 折笠かおる
†chapter9 泰国の若獅子
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†chapter9 泰国の若獅子05

 先程聞こえてきた炸裂音、あれは恐らく銃声に違いなかった。

 何か良くないことが起きている気がする。雫は胸騒ぎを押さえ、渋谷駅の連絡通路をひた走った。


 ちらりと後ろに目をやる。犬塚と西野が後を追ってきている。少しだけ時間を稼ぎたかった雫は鳥狩とがりの能力を使用することにした。

 鳥寄せの念を送ると、通路の先から一羽の鴉が低空飛行でこちらに飛んできた。それを確認すると雫は右に半歩避け、更に前に進む。鴉は雫を横を通り抜けると後方にいる犬塚と西野に向かって突っ込んで行った。


 「あぶねっ!!」

 不意に視界に飛び込んできた鴉を避けようとした犬塚が足がもつらせた。鴉は犬塚と西野の間を通り抜けるとそのまま宮益坂方面に飛んで行った。

 「小賢しいことを!」犬塚が吠える。

 しかし先程の鴉は単なるおとり。本命は次の攻撃だ。


 走る雫は追いかけてくる二人に炎を吹きかけた。「ブォッ!」という音と共に狭い連絡通路が赤く染まる。鴉に気を取られていた二人にはそれが良く効いた。

 驚嘆して尻もちをつく二人を見届け、雫は更に前に進んだ。ハチ公口改札が見えてくる。川久保兄弟の言うことが正しいのなら、そこに拓人がいるはずだった。


 自動改札の前で立ち止まった雫はその中を覗きこんだ。血痕のようなものは残っているのだが、拓人自身の姿は見当たらない。だが足元を見ると、改札の外に向かって血を引きずった痕跡がある。

 自分で移動したのか、はたまた誰かに連れて行かれたのか?


 考えを巡らせていると若い女が数人、駅の中に駆けこんできた。真っ青な顔で息を切らしている。

 何かあったのかと思いその女達の会話に耳を傾けると、丁度その時再び大きな炸裂音が駅の外から鳴り響いた。

 女達は叫び声を上げると、たどたどしい足で駅の奥へと逃げて行ってしまった。何か事件が起きていることは間違いないようだ。

 連絡通路の奥から「待ちなさいっ!!」という西野の叫び声が聞こえてきたが、雫はそれを無視して駅の外に飛び出た。


 渋谷駅を出てハチ公前広場を抜けると、そこには巨大な交差点がある。一日に何十万人という膨大な量の歩行者が行き交う、正にこの街を象徴する場所だ。そして今、駅の外に出ると周りの人間が皆一様にそのスクランブル交差点の方に目を向けていた。一体そこで何が起きているというのだろう?

 首を右に向けると、雫は静かに駆けだした。スクランブル交差点の中心が、数人の輩によって占拠されてしまっている。道路は封鎖されてしまい行き場を失った車がその周りに溢れていた。


 「雫っ」

 名を呼ばれたので振り向くと、北寄りのハチ公改札の陰に山田拓人が身を隠していた。

 「山田君!」

 安堵から膝の力が抜け、よろよろと拓人の側に歩み寄る。

 静かに手を握り、拓人の顔を見上げた。左目の周りは青く腫れ、右の頬にはガーゼが張り付けられている。


 「大丈夫なの?」

 雫が聞くと、拓人は「ああ」と頷いた。

 「俺は大丈夫だけど、あっちがやばそうだ」拓人はスクランブル交差点を指差す。


 普段は歩行者で溢れかえる交差点だが、今は通行するものなどいない。何故なら拳銃を持った男が交差点の中心で睨みをきかせているからだ。


 「あの男はデーンシングの首領、チャオ・ヴォラギアットね」雫の目には10人程度の褐色の男達の中心にいる、タンクトップの上にファーコートを羽織った人物が映っている。

 「知ってるのか?」


 拓人の言葉に頷くと、また発砲音が響いた。状況がわからずに交差点に進入して来てしまったタクシーを撃ったようだ。銃弾はフロントガラスを突き破り運転手は血を流して動かなくなっている。

 彼らは本当にやりたい放題のようだ。交差点の周りには何人かのB-SIDEのメンバーがいるようだが、自分たちのテリトリーが荒されているのにまるで手が出ない。流石に今回は相手が悪い。


 「ていさんが言ってた。デーンシングは天童会との確執や、クラウディ事件の報復措置でいずれこの街にやってくるだろうって」

 「巡査が?」そう言うと拓人は、口元に手を当てて何やら思案した。

 「ただそのタイのマフィアの来日の目的はそれだけじゃなくて、あの人間の瞳も関わっているらしい……」


 「人間の瞳?」

 聞き覚えのある言葉だったので復唱したのだが、声に発してみて記憶が蘇った。人間の瞳とはヘヴンから盗まれた巨大なルビーのことだ。


 「人間の瞳って、前にヘヴンで盗まれた宝石だっけ?」

 「うん」拓人は口を濁し話しだした。

 琉王るおうは盗品として出品されていた人間の瞳を、闇オークションで手に入れたと言っていた。そして中島和三郎はバンコクの秘宝人間の瞳は、賊に盗まれて所在がわからなくなっていたと言っていた。つまり元々タイのどこかで所有していた人間の瞳が賊に盗まれ、それを琉王が闇オークションで手に入れ秘密裏に保管していたということのようだ。

 しかしそれもヘヴンから盗まれてしまい、現在では所在がわからなくなってしまっている。


 「一度、裏ブローカーの手に渡ってるから、そこから人間の瞳は日本にあるという情報がマフィア達にも漏れたんだろう」

 「人間の瞳はそもそもデーンシングの物だったっていうこと?」雫は交差点の中心に目を向ける。

 「それはわからないけど、人間の瞳を狙っていることは間違いない……」

 話している途中だったが拓人の口が急に止まった。交差点を見る目が大きく見開いている。


 「何?」

 雫も交差点に目をやる。上半身にニシキヘビのタトゥーを入れた筋肉質の男が、センター街から歩いてくるのが見える。そしてその男の腕の中には、1人の少女が捕らえられていた。


 「あれはもしかして……?」

 緊張で身体を強張らせながらタトゥーの男に首を押さえつけられているその女の子は、ドーナツ屋で会った竹村琴音だった。

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