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星屑のシャングリラ  作者: 折笠かおる
†chapter9 泰国の若獅子
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†chapter9 泰国の若獅子02

 からすの鳴き声が四方から響き渡り、雫は思わず肩を強張らせた。

 かなりの数の鴉が集まってきているようだ。地下鉄の入り口にでも逃げ込んだ方が無難かもしれない。


 「黒髪さんの身ぐるみも、全て剥いであげるわ」西野がゆっくりとにじみ寄る。

 雫は正面奥に目を向けた。一番近い地下鉄の入り口は今、西野がいる所の延長線上にある。彼女の隙をついてどうにかあそこに逃げ込みたいが果たして……。


 「おいで黒髪」

 5メートル程の距離まで近づくと、西野は中段の構えをとった。真正面からプレッシャーをかけてくる。

 雫はその誘いに乗り、一気に駆けだした。西野も嬉々として立ち向かう。


 雫の得意とするのは先手を取る攻撃。それを心得てる西野は、後の先を狙うため初撃を見極める。

 西野の脇腹目掛けて雫の特殊警棒が横に弧を描いた。

 避けることに神経を集中させた西野だったが、雫の攻撃は予想以上に速くかつリーチも長い。瞬時に避けることが出来ないと判断した西野は左腕でその攻撃を防いだ。


 振り抜いた雫の特殊警棒が西野の細腕をきしませた。だが西野の目は笑っている。

 どういうこと……?

 嫌な予感がした雫は瞬時に辺りを警戒した。


 西野が身を屈めると、死角になっていた正面から1羽の鴉が突っ込んで来るのが目に映った。


 「あっ!!」

 辛うじてそれに気付いた雫だったが、避ける間もなく突っ込んできた鴉によって右肩をえぐられた。白いブラウスの袖が破け、赤い血がほとばしる。


 「おいおい、危ねぇな」

 直後、後ろから別の声が聞こえた。出血する腕を押さえ振り返ると、そこにはドレッドヘアー男が立っていた。ボリュームのある前髪で隠れているが、額の広範囲にわたり火傷の痕が見える。火傷の為か眉も無くなり、人とは思えぬ恐ろしい顔でこちらを睨みつけている。


 「喧嘩中に悪いが黒髪は俺の獲物だ。B-SIDEは手を引いて貰おうか」

 ドレッドヘアーの男は西野に向かって言った。

 「その面は、スコーピオンの犬塚ね。いい、物には順番って物があるのよ。今は私が狩りの最中。それともあんたもまとめて狩ってあげようか?」

 西野がそう言ったが、話を無視した犬塚は雫に向かって右手を振りかぶった。犬塚の手から放たれた真っ赤な炎が目の前を過ぎり、驚いた雫は数歩後退する。


 「成程。それがあなたの能力ね」

 雫は犬塚の発火能力を理解した。雫は半径50メートルの範囲にいる亜種の能力をコピーすることが出来るのだが、如何なる能力なのか自分自身で理解出来ていないとそれを使いこなすことが難しいのだ。


 「黒髪はコピー能力があるんだってな。真似してみろよ、俺のパイロキネシス……」

 犬塚が炎を放つと、同調の能力を使い雫も炎を操る。秋の涼しげな夜が、二人の放つ炎で熱風に包まれた。


 これを面白く思わないのは西野の方だ。獲物を奪われたのもそうだが、折角集めた鴉達が火を恐れて言うことを聞かなくなってしまっているのだ。

 「ちょっと、邪魔をしないでくれるっ! スコーピオン幹部候補のあなたがウチと揉め事を起こしたら、どういうことになるかわかってるでしょ?」

 かつては渋谷の街で抗争を繰り広げていたB-SIDEとスコーピオンも、現在では休戦協定を結んでいる。今このチームの間での喧嘩は御法度だ。


 西野の言葉を、犬塚は鼻で笑った。

 「悪ぃな。俺ぁ、もう幹部候補じゃねぇんだよ。こいつらのせいでなっ!!」

 犬塚の放つ炎が再び雫を襲う。咄嗟に身をねじらせそれを避けたが、熱風が雫の白い肌を熱く焦がす。


 「どういうこと?」

 しかし雫には、犬塚の言うことが何のことなのかわからなかった。B-SIDEの賞金首は狙っているが、スコーピオンの賞金首にはまだ手を出していなかったはず。

 「黒髪と言えば一匹狼で有名だったが、最近スターダストと仲が良いらしいじゃねぇか。俺ぁ、あの風使いの小僧のおかげで幹部候補から脱落しちまったんだよ!」

 犬塚が上段蹴りを放つ。茶色いカントリーシューズが炎を纏い目の前に襲いかかるが、雫は後ろに飛び退きそれをかわした。


 手以外からも炎が出せるのか。雫はそれならと、新たな戦闘手段を考えた。

 「あなたは山田君に恨みがあるのね」


 「恨み、憎しみ、違うな。あの小僧とその仲間をぶちのめすのが、今の俺の生き甲斐なんだよ」犬塚は不気味に笑う。

 やはりそういうことのようだ。犬塚という男はどうやら山田拓人と何か因縁があるらしい。


 「けど先客は私の方よっ!」

 左方向にいた西野がそう叫ぶと、上空を旋回していた複数の鴉達が一斉に降下してきた。

 「ア゛―――ッ!!!」


 雫は特殊警棒を強く握りしめた。「散れっ!!」

 持っていた特殊警棒が炎に包まれた。先程学んだ手以外から炎を放つ技法だ。雫はそれを天に向かって振り上げ、宙で炎が大きな円を描いた。突っ込んできた鴉達だったが、その巨大な炎を見ると情けない声を上げて一斉に空に引き返して行った。


 「西野さん。もうあなたの能力は役に立たないわ。さっさとここから去りなさい」

 雫がそう言うと、西野は悔しげな表情で睨みつけてきた。

 「鷹志たかし! 隼斗はやと! どこにいるの、早く来なさいっ!!」

 西野は誰かを呼んだようだが、それに対して何の反応もなかった。


 「全く女の喧嘩は面倒臭えな。引き際も読めねぇのか?」

 犬塚が煽ると、西野は烈火の如く怒りだした。

 「後から出て来て何様のつもりなのよっ! 大体引き際云々言ってるくせに、あんたも風使いにやられてるんでしょ、偉そうにっ! 風使いと喧嘩したいんなら勝手にやりあいなさい! その変わり、黒髪は私が狩らして貰うわ!」


 「そうはいかねぇ。風使いとその仲間をぶちのめすのが、俺の生き甲斐だっつっただろ」

 「仲間? 黒髪はどこのチームにも属してないでしょ。何を言っているの?」

 西野と犬塚が雫に視線を向ける。注目を集めた雫は、やるせなく鼻から息をついた。


 「私の所属しているチームはスターダスト。スターダストの天野雫よ」

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