†chapter8 奇跡の能力02
ハチ公口に繋がる階段を下りながら、拓人はIC乗車カードの入った長財布をポケットから取り出した。
「そういえばICカードで入場してるのに、同じ駅から出る時どうすればいいんだ?」
定期券機能の付いていないIC乗車カードは、入場券としては使用出来なかった気がする。
「駅員さんのいる改札から出るしかないかも」横で手を繋いだ雫が言う。
「そこで入場料分金額引かれんのかな? 後でリーダーに請求してやろう」
リーダーとは勿論、スターダストのリーダー上条圭介のことだ。
そんなみみっちいことを言いながら階段を下り改札のある左方向に曲がると、急に雫の動きが止まった。手を繋ぐ拓人の身体も自然に止まる。
見ると雫の視線の先に一人の女がいる。青い花飾りの付いたヒッピーバンドを頭に巻いたソバージュヘアーの女だ。
「こんなところで黒髪さんに出会えるとは思わなかったわ」
ヒッピーバンドの女がいやらしい笑みを浮かべてそう言うと、後ろにいた片方の耳に大量のピアスを付けた二人の男が素早く身構えた。男たちは左手にブルーのカラーバンドを付けている。
「念のために聞いておくけど、お友達じゃないよね?」
拓人が確認すると、当然であるかのように雫が強く頷いた。
「あれはB-SIDEの幹部、西野かれん。それと後ろにいるピアスは双子の武闘派、川久保兄弟ね」
「双子か、確かに似てるな」
雫はそれに加え、川久保兄弟はピアスを右耳に付けてる方が兄で、左耳に付けてる方が弟だというどうでもいい情報と、幹部の西野は鳥を操る能力を持っていることを教えてくれた。
「鳥? 亜種か……」
目の前の敵を睨みつけると、拓人の周りに旋風が巻いた。彼の持つ疾風の能力だ。
B-SIDEの三人も勿論戦うつもりだ。西野が薄く笑うと改札の中が、亜種の放つ独特の空気に包まれた。
「今日こそは相手して貰うわよ、黒髪さん」
もう日が暮れているというのに、駅の外では鴉が不気味に鳴いている。拓人は不吉な予感を感じずにはいられなかった。
「戦うか?」
拓人はそう聞いたのだが、雫に戦う意思はなかった。
「あの人は懸賞首じゃないから無視する」
それだけ言うと雫は拓人の手を放し、人間離れした跳躍力で自動改札を飛び越えた。それは拓人の持つ疾風の能力のコピーだ。彼女の持つ同調の能力は他の亜種の能力をコピーして使うことが出来るのだ。
「えっ、ちょっとまっ……」
戦うつもりでいた拓人が逃げ遅れたまま、雫はハチ公とは逆の西側宮益坂方面に駆けて行った。
「逃がさないよっ!!」
西野が叫ぶと、外から侵入してきた幾つかの黒い礫が天井付近を勢いよく飛んで行った。鴉だ。その数羽の鴉がバサバサと羽をはばたかせながら雫の後を追尾して行くと、西野自身も自動改札を飛び越えその後を追って行った。
「くそっ!!」
拓人は慌ててそれを追いかけようと足元に風を吹かせ、そして大きく飛び上がった。と思いきや、川久保弟に足を掴まれ空中で前につんのめ、そのまま拓人は地面に落ちた。
顔を強打し口から血が流れる。
唾液と共に溜まった血を吐きだし悔しげに振り返ると、川久保兄弟の二人が睨みつけるように見降ろしていた。
「お前は風使いだな? スターダストの連中は鳴瀬さんからボコボコにしろというお達しが来ている。悪く思うなよ」
「は?」
拓人は地面に腰を付いたまま間の抜けた声を上げると、川久保弟の蹴りがみぞおちに突き刺さった。
「おおぉぉぉっ!!」食道内に胃液が逆流する。
これはまずいと思い、風の力で飛び上がり逃げようとするが、すぐに頭を抑えられ今度は川久保兄に顔面を殴られた。
脳が揺れ意識を失ってしまった拓人は、そのまま地面に倒れると後は二人にされるがまま殴られ続けた。
徐々に騒ぎが広がりギャラリーの集まってきたところで、川久保兄弟は暴行する手を止めた。
「小僧の相手をしてても仕方ない。俺たちも黒髪を追うぞ」
「ああ、そうだな」
そう言うと、川久保兄弟は倒れる拓人を残し、ギャラリーを掻き分け宮益坂方面に向かって走り去って行った。




