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星屑のシャングリラ  作者: 折笠かおる
†chapter7 彷徨いの少女
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†chapter7 彷徨いの少女07

 「赤外線通信が出来ひんって、どんなスマホ使っとんねん!」

 上条はどこか呆れたような口調でそう言った。

 「いや、出来るだろうけど、まだ機種変したばっかだから使い方がわかんねぇんだよ。とりあえずここに番号書いといたから勝手に登録してくれ」

 拓人は不機嫌そうな顔で、電話番号を書いた紙コースターを渡した。


 「この番号、ほんまに合うてるんやろなっ!」

 上条は紙コースターの裏に書かれた電話番号を見ながら厭味ったらしい顔で言った。

 「一々疑うなよ。仲間なんだろ?」

 拓人は都合の良い上辺だけの言葉を言う。


 「言うとくけど、暴露の能力を使えばそのスマホの番号が何番かくらいすぐにわかるんやからな!」

 「おお、そうなのか? じゃ、やってみろよ」

 拓人にそう言われたが、上条は能力を使うそぶりも見せない。

 「まあ電子機器の暴露は、めちゃくちゃしんどいからやらへんけどな」

 上条はそう言うと、コースターを見ながら自分のスマートフォンを操作しだした。


 「やらねぇのかよ!」

 そうつっこんだ直後、拓人のスマートフォンの着メロが鳴りだした。ジェームス・ボンドのテーマだった。

 着信を確認した上条は、すぐに電話を切った。

 「良し。合うてるみたいやな。拓人も正式にスターダストのメンバーになったんやから、今かけたその番号ちゃんと登録するんやで」


 「わかったよ、うるせーな」

 拓人が面倒くさそうに着信のあった番号を登録していると、店の裏口からみくると雫が戻ってきた。

 「ただいま」

 上条たちのいる席に戻ってきたみくるは一言そう言った。かなり腹を立てて席を立ったはずだったが、もうそれがなかったかのような振る舞いだ。

 「おお、みくるちゃんお帰り!」

 上条も、さっきのことなど気にする様子もなく平然を装う。長年連れ添った夫婦のような関係なのだろう。


 「あれ、琴音ちゃんは?」

 みくるが隣の席に目をやるとすでに琴音はおらず、テーブルの上のオレンジジュースのグラスとトレーもなくなってしまっていた。

 「もう夕方になるからって、今さっき帰ったとこやで」

 みくるはスマートフォンで時間を確認しようとしたが、さっき叩き壊したことを思い出し上条に時間を聞いた。


 「もう五時やで」

 上条がそう言った丁度その時、ドーナツプラネットの隣にある渋谷区役所に設置されたトランペットスピーカーから夕やけこやけが流れ出した。渋谷区全域にかけて毎日流れているはずなのに、懐かしい響きに感じるのは何故なのだろうか?


 窓の外を見たみくるがため息をついた。空の青さが白く薄まり、秋の気候を感じさせた。

 「そっか、残念ね……」

 そう言って席に座ろうとした時、みくるは床の上に何かがあるのを発見し手を伸ばした。手に取り見てみるとそれは琴音が持っていた母親との写真だった。


 「大変、あの子写真忘れてる」

 その写真を見た上条も口を大きく開けて「あーっ」と声を出した。

 「これは大事なものやで。どないしよ?」


 どうするも何もかすみ園に届ければ良いだけの話なのだが、その場所を知っているみくるは先程琴音とひと悶着あったばかりなので届けてくれとは言いづらい。ならばかすみ園にいた時期があると言っていた雫に頼もうかと上条が口を開きかけた瞬間、不意に黙っていた雫がみくるに声をかけた。

 「佐藤さん、かすみ園まで届けてあげたら?」


 「えっ? あたし!? うーん……」

 みくるは困ったように視線を反らした。ただそれは琴音と顔を合わせづらいということではなく、かすみ園自体に行きたくない理由があったからだ。

 「佐藤さんは琴音ちゃんに謝ったほうが良いと思う」

 強気な発言する雫に上条は肝を冷やしたが、この時のみくるはそれに対し素直に応じた。


 「わかった。届けるよ」

 みくるは虚ろな目で写真を眺めると、そのまま自分のバックにしまいこんだ。

 「行ってくれるんか。もちろん俺も付き合うで」

 上条がそう言うと、拓人は「俺はもう帰るぞ」と言って溶けた氷で薄まったアイスコーヒーを飲み干した。


 「おお、拓人今日は悪かったな。雫ちゃんも一緒に帰るんやったら、ドーナツ持って帰りや」

 雫は微笑を浮かべ頭を下げた。

 「うん。ごちそうさまでした」

 そう言って残ったドーナツの山に目をやると、雫は再びテンションが上がり嬉しそうに両手を小刻みに動かした。


 「なあ雫ちゃん。前にも聞いたことやけど俺らのチーム、スターダストに入らへんか?」

 それは上条が二か月前にも聞いたことだったが、その時は雫に「やだ」という二文字であっさり断られていた。果たして今回は受け入れてくれるのだろうか?

 「ほら、やっぱり食い物で釣ってるじゃないか。ずるいぞ」拓人が横槍を入れる。

 「ちゃうねん。ドーナツはたまたまや。けどスターダストに入ったらドーナツ食べ放題なのは事実やからしゃあない。なっ!」


 上条に強引に振られ、目の前のみくるが仕方なく頷いた。

 「まあ、ドーナツのことは置いておいて、あなたも一人でB-SIDEとやりあうのは大変でしょ。仲間を作った方が良いと思う。あたしたちも雫が仲間になってくれれば頼もしいし」

 みくるがそう言うと、雫はすっと顔を上げた。


 「山田君も入るの?」

 「ああ、まあな」

 あまり納得はいってない様子で拓人が言う。

 「そうやで。拓人も今日からスターダストの正式なメンバーや。雫ちゃんも入れば渋谷で天下を取るんも夢やないで!」

 上条の言う天下にはまるで興味がなかったが、人との関わりが極めて少ない雫はこんなにも自分を必要としてくれる人間がいることに少しの心地よさを抱き始めていた。


 「山田君が入るなら、私もあなたたちのチームに入ります。よろしくお願いします」

 雫がそう言うと、上条は席から立ち上がり握手を求めた。

 「ありがとう雫ちゃん。これでスターダストは今日から本格始動やで!」


 「本当にいいのか?」

 拓人の質問に雫はただ「うん」と答えた。

 「圭介君とは波長の相性悪いんじゃなかったっけ?」

 そう言われると雫は上条を目の前にしながら「えーと、身の毛がよだつ」と言い放った。


 上条は握った手を即座に放すと、一歩下がってそのまま土下座した。

 「いきなり手ぇ握ったりして、すみませんでしたっ!」

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