†chapter22 決戦のクロスロード05
鳴瀬の背後で、放置されている壊れた自転車が2台浮き上がった。
「直接手を出すだけが喧嘩じゃねぇんだよ、『風斬り』くん」
空中で横になった自転車が、ブーメランのように回転しながら飛んでいく。
額から流れる血を手押さえた拓人は、もう片方の手を掲げその場で旋風を巻き起こし、飛んできた自転車を遠くに跳ね飛ばした。交差点の端から自転車の叩きつけられる音が響いてくる。
いつもなら風を感じて紙一重で避ける『柳に風』を使用するところだが、何故か拓人は体力と精神力を共に消費する方法で攻撃を回避した。どういうことなのか?
「どうした? 手が震えてるぞ」
鳴瀬は言う。拓人の姿を見ると、手以外にも肩や膝までもぶるぶると震えていた。どうも様子がおかしい。
「早急に決着を着けた方が良いのかもしれませんね。前にもお伝えしましたが、風斬りは『スターイエロー』の覚醒者です」
反対側のギャラリーからそんな声が聞こえてきた。あれはB-SIDEの三浦蓮のようだ。
「……そうだったな、スターイエロー」
にやりと笑い、己のあご髭をゆっくりと撫でる鳴瀬。それを見た三浦は、明らかに顔を引きつらせた。顔に「しまった」と書いてあるかのようだ。
そして交差点の端で、ぐしゃぐしゃになった自転車は再び宙に浮く。
「それを見ないことには、勝負は着けられない」
辺りに鈍い音が鳴る。フレームは折れ曲がりタイヤも歪んでいた自転車が、浮いた状態のまま大きく砕かれた。あれもサイコキネシスの能力だ。
鉄くずと化した自転車の破片が、交差点の中心に向かって次々飛んでいく。体を振るわせる拓人は、再度旋風を起こし跳ね飛ばそうと試みたが、タイミングが遅く降り注ぐ鉄くずの餌食となってしまった。
隣でその様子を見ていた雫が、体を強張らせる。反射的に助けようとしたようだが、自制した様子。
「雫ちゃん、拓人なら大丈夫や。じきにスターイエローが覚醒するやろうし、そしたら形勢は一気に逆転するで」
上条はそう言い聞かせたが、雫は少し不満そうに首を傾げた。
「そう上手くいくかな?」
「何で?」
雫はしばらく沈黙すると横に首を振り、痛みに耐えて立ち上がろうとする拓人の姿を見つめた。
「いや。わからないけど……」
その間も、拓人と鳴瀬の戦闘は続いている。
「この程度でやられるかよ!」
負傷したのか左手をだらりと下げたまま、右手だけで鋭利な風を巻き起こす拓人。対する鳴瀬は、スチール製の看板を体の周りに回転させ、その攻撃を防いだ。
「腕の骨でも折れたか? 軟弱だな」
鳴瀬の周りを周回していたスチール看板は、軌道から外れると拓人の足元に向かって飛んでいった。歯を食いしばって跳び上がり、大きくそれをかわす拓人。
だが雫の言う通り、スターイエローは未だに覚醒しない。
空中で静止した拓人は、肩腕を下げたまま「うあああああああああっ!!」と雄叫びを上げ、地上に突っ込んでいった。迎え撃つ鳴瀬は、石の礫を上空に飛ばす。
拓人は高速で左右に揺れ、その礫をよける。そしてそのまま突っ込んでいくと、2人の右の拳が鮮やかに交差した。
鈍い音が鳴り、地面に叩きつけられる拓人。クロスカウンターが成功したのは鳴瀬の方だった。奴はぎらついた目で、倒れる拓人を見下ろした。
「おい、風斬り。お前の奥の手はどうした? それとも、これでおしまいにするか?」
鳴瀬は頭を押さえ苦しむ拓人の元へ近づいていく。すると拓人は急に「あああああああああっ!!!」と声を上げ、周りに巨大な旋風が巻き起こした。近くにいた鳴瀬は、上昇する気流に巻き込まれ宙に放りだされる。
それはスクランブル交差点全域に届くほどの大きな旋風だった。ギャラリーたちは飛ばされないように身を守り、その風を耐えた。
やがて旋風が治まると、気流に巻き込まれた鳴瀬が地面に落ちてきた。受け身をとったようだが、「ぐっ!!」と痛々しい声を上げる。
あの規模の旋風だ。きっとスターイエローが覚醒したのだろう。上条はそう思い拓人の顔に目をやったのだが、彼の瞳は黒いまま何も変化していなかった。
「拓人っ! スターイエローはどうしたんや!?」
戦いの端から声を上げる上条。拓人は痛みを堪えるような顔をして左腕を押さえた。
「この戦いであれは使わねぇ……」
「何でやねんっ!! 鳴瀬相手に手ぇ抜くなや!!」
「手は抜いてねぇ。本気だからこそ、覚醒無しで勝負したいんだ。裏技使って勝ったっても意味がねえだろ!」
拓人は痛むであろう左腕から手を離すと足を肩幅に広げ、すーっと息を吸い込んだ。




