†chapter22 決戦のクロスロード04
「ここからは本気で行くぞ。周りに被害が及んでも知ったことじゃない」
鳴瀬が睨みを効かせると、辺りに不穏な波動がほとばしった。その目の前にいる拓人は、歯を食いしばり鋭い視線を返す。
「始めから本気で来い。手加減してたら負けましたなんて言い訳は、この喧嘩では通用しないぞ!」
「確かに手加減なんて出来ねぇよな。こんな面白い喧嘩!」
そして鳴瀬と拓人の2人は、肉弾戦でぶつかり合う。乾いた砂が舞う交差点の真ん中で、血と汗が激しく飛び散った。上条は虚ろな表情でその様子を眺めている。
「この勝負、雫ちゃんはどっちが勝つと見る?」
「当然、山田くんが勝つから」
即答で断言する雫。だが、その答えに至った根拠は特になさそうだ。
「みくるちゃんはどう思う?」
「……あたしの『千里眼』では、未来のことまでは見えない。けど、拓人は鳴瀬に勝ってくれるはず。圭介もそう思ってるから、鳴瀬と戦わせているんでしょ?」
みくるは前を向いたまま、強く答える。
「そうや。拓人やったら、必ずてっぺん取ってくれると信じとるで」
とは言うものの、上条の中で鳴瀬の強さは拓人の強さを僅かに上回っている。加えて拓人には、八神透との戦闘の傷が癒えてないというマイナスファクターもあるのだが、それを補うことのできる奥の手も存在する。それは後天的異形と呼ばれる、『スターイエロー』。
拓人の瞳が星色に輝きだす時、彼の能力は数倍にも膨れ上がる。それが覚醒すれば力の差は拓人が上回るのだが、1つ問題もあった。スターイエローは自分の意志では発動させることが出来ないのだ。
「オラオラ! オラオラ! オラッ!!」
鳴瀬の繰り出す拳を、上半身を動かすだけで華麗に避ける拓人。しかし鳴瀬の攻撃は、正面からとは限らない。その時突然、頭上に人型の何かが落ちてきた。だが拓人は前を向いたまま横に身をかわし、その落下物を避けた。彼は風に反応して攻撃を避けているので、視界の範囲外からの攻撃もかわすことが出来るのだ。
アスファルトに打ちつけられ、激しく音を立てる人型の落下物。それはデパートや洋服店に置かれているマネキン人形だった。何故か威嚇するように口を開けている外国人風の女のマネキン人形は、手を地面につくと、膝から軋む音と立ててゆっくり立ち上がった。関節が可動するタイプのマネキン人形を、鳴瀬が『サイコキネシス』で動かしているらしい。
「邪魔すんなっ! 鎌鼬っ!!」
拓人が鋭利な風を発生させると、マネキン人形の首が後ろに飛んだ。だが勿論、それだけでは動きを止めることは出来ない。
頭部を失ったマネキン人形は腕を大きく広げ、拓人の腰を捕らえた。強めに掴まれているのか、拓人は苦しそうな表情を浮かべマネキン人形の背中に拳を叩きつけている。
「その傀儡も、俺の力の1つだ。振りほどいてみろ」
離れた位置からそう煽る鳴瀬。奴は本気で行くと言っていたが、まだまだ余裕がある雰囲気だ。
「こんな木偶人形の相手してられるかよ! 『渦気流』っ!!」
その声と共に、交差点の中央に大きな旋風が発生しだす。拓人は竜巻のように大きく発達した旋風に乗り、旋回しながら高く舞い上がった。
やがて50メートル程上昇したところで、腰を掴んでいたマネキン人形は遠心力に耐えられずに拓人から離れ地上に落ちていった。高所が苦手ながらも、無理やり得意気な表情を作る拓人。
だがドヤ顔をするにはまだ早い。下から見ている上条にはわかっていた。更に上空から別のマネキン人形が数体、彼に近づいてきていることを。
「拓人!! 上から来とるでっ!!」
「上!?」
彼がそう声を上げた時には、すでにマネキン人形たちに囲まれてしまっていた。白人系アスリート風のマネキン、黒人系ミュージシャン風のマネキン、ポリネシア系ダンサー風のマネキン、そして東洋人系ギャル風のマネキン。その全てが、何故か威嚇するように口を大きく開けている。
「気色悪っ!!」
拓人がそう叫ぶと、黒人系マネキンが鋭い蹴りを放ってきた。空中では上手く避けることが出来ずに左腿にまともに喰らってしまう。
その後、ポリネシア系マネキンが背後から羽交い締めにすると、白人系マネキンが抵抗することの出来ない拓人をいたぶるように殴りつけた。ギャル風のマネキンが、それを見ながら笑うように肩を揺らしている。
これは見ていられない……。
上条が顔をしかめ視線を下ろすと、丁度拓人が空中から地面に落ちてきた。再び見上げると、小刻みに肩を揺らしている4体のマネキン人形が、急に力が抜けたように首をもたげ、そしてそれぞれ地面に落下してきた。アスファルトの上でうつ伏せになる拓人の上に、力を失ったマネキン人形が容赦なく叩きつける。
ギャラリーは静まり返ったが、その程度でやられてしまう拓人ではない。
額に血を滲ませながらも、追撃を避けるため勢いよく起き上がった。それを見た鳴瀬は、口髭をさすりながらいやらしい笑みを浮かべる。
「意外とタフそうで良かった。渋谷の頂点を決める喧嘩が、簡単に終わったら拍子抜けだからな」
「当たり前だ。本気でやりあいたいなら、テメーが出てこいよ鳴瀬。こんな人形遊びじゃ、見てる奴らも満足できねぇぞ!」
拓人は額から流れる血を、震える手で静かに拭った。




