†chapter22 決戦のクロスロード02
渋谷駅前スクランブル交差点。
ここは単に道路が交差している場所というわけではない。横断する人の数でいえば世界最大級で、時として東京の象徴として描かれることも少なくない、渋谷を代表するスポットだ。
すっかり火が消えて静まり返っている渋谷の街だったが、唯一この場所だけは夜でも光を煌々と照らし続けている。駅から見て正面には首都圏トップシェアの電力会社、キャピタル電力の本社ビルがあるのだが、そこはB-SIDEと何らかの癒着があり、抗争の続く今も彼らのために電気を提供してくれているというのがもっぱらの噂だ。
道玄坂から下りてきた上条たちは、SHIBUYA109前の横断歩道から車の走っていない道路に侵入し渋谷駅に向かって歩いた。ここから先は華やかなライトがきらきらと彩り、下から昇るサーチライトが怪しく夜空を青く照らしている。
約束の時間よりも1時間程早かったが、スクランブル交差点には既にB-SIDEのメンバーが大勢集まっていた。流石は渋谷最大のグループ。というか、こいつら一体何人いるんだ?
交差点の手前で足を止める、上条たち5人。中央に固まっている青いカラーバンドをした連中がこちらの存在に気付くとざわめきが起こり、そしてその中から左目の脇に医療用ガーゼを貼った男が堂々と歩いてきた。あれは副長の辻堂辰也だ。
「随分早いな、早漏野郎。どうせ処刑されるなら、とっとと殺されてしまいたいってことか?」
辻堂は威嚇するように首を回しながら言ってくる。自分たちの方が先に集まっているという意識はないようだ。
見つかったのなら仕方がないと、上条は4人を引き連れ辻堂の前に歩み寄った。
「B-SIDEのメンバーは全部で100人くらいか? 大した人数やな」
「今更怖気づいたか? 人材にしても戦力にしても、お前たちが勝っている要素など一つも無い」
「数は問題あれへん。うちの拓人と雫ちゃんは、むしろ1対複数の戦いが得意やからな」
「そうだ! 複数を相手にするのが僕の真骨頂だぞ!」
そう声を張ったのは、かつてこの街で『魔術師』として恐れられていた楠裕太だった。だが彼の持つ『幻術』の能力は種のバレた手品も同然。上条は裕太の頭を押さえつけ、無理やり後ろに下げた。
「成程、弱い犬ほどよく吠える。女子供含めたたった5人で戦えるというのなら、やって貰おうじゃないか。手加減はしねぇーぞ、スターダスト!!」
辻堂が声を上げると、背後にいる大勢のB-SIDEメンバーたちの目の色が変わった。伝染し、広がっていく憎悪と狂気。
だが丁度その時、急に真上から3人の男が上条の目の前に下り立ち、B-SIDEの前に立ちはだかった。それは京劇の仮面を被った武人、鼎武人だ。
「この戦い、暫しお待ちを……」
そう言って辻堂をけん制する、白面の武人。
「あぁ? 魔窟大楼の用心棒が何のようだ? 金でも積まれて、今度はスターダストに雇われたのか?」
「そうではありませんが渋谷の頂点を決定する大事なこの勝負、いささか戦力に差異が生じているように感じるので一つ提案をと思い馳せ参じました」
白面の武人がそう言って膝をつくと、残る青面の武人と赤面の武人も共に膝をついた。彼らが如何なる理由で提案を持ってきたのか理解できないB-SIDEメンバーたちは大いにざわめきだしたが、『暴露』の能力で彼らの正体を知っていた上条は、敢えてそのやりとりを黙って眺めた。
「ここは一つ、互いに代表を1人選んで戴き、一騎打ちで勝敗を決するというのはいかがでしょうか?」
白面の武人は言う。だが、辻堂は呆れた顔でため息をついた。
「聞くだけ時間の無駄だったな。こちらには何のメリットもない、馬鹿げた提案だ。人数の多さも、そのチームの強さの一つ。俺らが譲歩する理由など1ミリもない」
「理由ですか……」
鼎武人の3人は、その場から立ち上がるとそれぞれ着けていた仮面を外し、遠くへ投げ放った。
「もしもB-SIDEの皆さんがこの提案を飲めないと言うのなら、僕たち3人はスターダスト側に着かせていただきますよぉ」
素顔を晒した鼎武人。その正体は、かつての三大勢力の一つ、黄英哲率いるファンタジスタのメンバーだった。
「な、何で、黄くんたちが、鼎武人っ!?」
驚きを隠せない拓人。ただ上条は『暴露』の能力、みくるは『千里眼』の能力でそれぞれ気付き、雫に至っては何となく正体をわかっていたようだ。そのことをこっそり拓人に伝えると、また「ええっ!!」と驚かれた。その横でファンタジスタの六角と飛澤が、申し訳なさそうに頭を下げている。
「ふん、鼎武人の正体はお前たちだったか。まあ、好きにすればいい。貴様ら3人が加わったところで、状況はさして変わるまい」
辻堂は不気味な笑みを浮かべ、そう言った。だが黄も、それに負けない程の不気味な笑みを浮かべる。
「……確かにそうかもしれませんねぇ。僕たちだけでは」
その時、スクランブル交差点のど真ん中に、突然数人の女たちがどこからともなくぱっと姿を現した。
「行くぜ、掟、第2条。仲間のピンチは何が何でも皆で救うこと! つーわけで、ウチらが名実ともに渋谷NO.1ガールズモッブのALICEだっ! 覚悟しろB-SIDE!!」
豹柄のストールを翻したFCこと嶋村唯がそう啖呵を切る。この子も実は瀬戸口倫子みたいな性格をしているようだ。普段ならこういった口上を述べるのはその瀬戸口の仕事だったが、彼女はメンバー全員を連れて交差点中央に『瞬間移動』してきたために1人ぐったりと倒れてしまっている。そしてその横には、仕方なさそうに介抱している逆月ツカサの姿があった。
「馬鹿が! 女が数人増えたところで、どうにかなる問題でもないだろ!?」
そうは言いつつも、少しだけ声が上擦ってしまう辻堂。そして黄の表情は、どんどんとにこやかになってきた。
「そうでもないですよー」
すると今度は、南口方面に続く高架の下から何者かがやってくる。ボーテックスの乾信吾が他のメンバーを連れてゆらゆら歩いてきたのだ。その中には当然、佐伯の姿もある。
「我らボーテックス、総勢24名。縁あってスターダストの助太刀をする!」
「ボーテックスだとっ!? 一度潰れたチームを恐れる我らではない!」
振り返った辻堂の額から、一筋の汗が流れ落ちる。1チーム丸ごと味方になったことで、人数的にだいぶ盛り返してきた。これは『暴露』の能力を持つ上条でもわからなかった意外な展開。
その後も続々と援軍が到着する。
地下街に降りる階段の屋根の上に現れたのは、元夢魔幹部の溝畑エレナと乙村香織。
「溝畑エレナ、華麗に参上!」
「乙村香織、美しく見参!」
そう声を上げ、宝塚っぽいポーズを取る2人。良くも悪くも相変わらずだ。
「俺らぁ、どっちが勝とうと興味はねぇけど、そろそろB-SIDEが負けるところ見てみたいから、特別にスターダストの協力をしてやるよ」
そう言って宮益坂方面の高架下から現れたのは、相楽清春率いる闘神の連中。
「それは同意見だな。まあ、俺たちの場合は弱い者いじめが気にいらねえから、助けてやるっていうだけの話だけどなぁ。何か文句あるか、スターダスト?」
のんべえ横町の路地から出てきたのは、スコーピオンの犬塚と蛭川。ここに辿り着く途中、スコーピオン総長の梶ヶ谷が言っていた、うちのメンバーが邪魔するというのはこのことだったようだ。
「いやー、拓人がスコーピオンと仲良しこよしで助かったでぇ」
とりあえずそう言って茶化したのだが、拓人は何のリアクションもとってくれなかった。全力のスルー。
「元夢魔はともかく、闘神にスコーピオンもだと……。何でこいつらまでスターダストの味方をする?」
明らかに狼狽する辻堂。後ろにいる他のB-SIDEメンバーたちにも、その動揺が伝わっているようだ。
「満を持して俺、登場! 故郷、養豚場! やってクルー、喧嘩スルー。そうさ俺たち、マッドクルー!!」
そしてセンター街の真ん中に現れたドラム缶のような体型の男。それは、MC.BOO。その後ろには、キャップ男やタオル巻き男などのメンバー数名を引き連れていた。キャップ男たちはともかく、MC.BOOの参戦は正直頼りに成り過ぎる。
「さあ、どうしますかぁ? これで戦力は拮抗していると思います。それでもB-SIDEは全面戦争をお望みですかぁ?」
黄はおどけた顔でそう問いかけた。だが辻堂は一歩も引かない。
「寄せ集めの烏合の衆に何ができる? 数を揃えたくらいで戦力が等しくなるわけではないっ!!」
轟く怒声と共に、辻堂の頭部から角が2本生えてきた。牛頭人身の化け物に変化する、『ミノタウロス』の能力。それに釣られ、周りの人間たちも一気に臨戦態勢になっていく。いよいよ最終決戦の始まりか?
だがそんな中、渋谷駅のハチ公口から異様なオーラを放つ男が1人現れた。メンズカチューシャをつけた長髪、髭面の大男。B-SIDEの3代目頭、鳴瀬光国だ。
「こっちの詰めが甘かったようだな、辻堂」
名を呼ばれた辻堂は、牛化した頭部を低く下げた。
「申し訳ありません! こんなにも他のチームがこいつらにつくとは思わなかったので……」
「まあ、それは仕方無い。お前のせいじゃないさ」
鳴瀬は上条たちの前まで歩み寄ると、上から見下ろすように睨みつけてきた。
「……流石にここまでの大喧嘩は、俺も望んではいない。良いだろう、お前らの提案を飲もうじゃないか」
その言葉を聞き、驚きを隠せない辻堂。
「……良いんですか、鳴瀬さん?」
鳴瀬はぎょろりと振り返り、辻堂に顔を近づけた。
「辻堂。お前はこの俺が、タイマンで負けるとでも思ってるのか?」
柄にもなく委縮したように肩をすくめた辻堂は「い、いえ。そんなはずはないです」と呟き、体を人型に戻した。
それに満足した鳴瀬は、あごの髭を摩りながらほくそ笑み、そしてこちらに顔を向ける。
「受けて立とう、このタイマン勝負……。誰がこの街の頂点か、この場にいる全員に教えてやるよ」




