†chapter21 12月のホーリーウォー36
八神まことと梶ヶ谷が倒れたのを目の当たりにし、熱気を帯びていたバスターミナルが、一瞬にして乾いた静寂に包まれた。
そして倒れた2人が起き上がらないとみると、周りにいたスコーピオンのメンバーたちが中央になだれ込んできた。
立ち尽くす拓人の横を、スコーピオンのメンバーたちが通り過ぎていく。
その時拓人は、雫の姿を目で追ったのだが、彼女は殴られた腹を押さえつつも、倒れるまことの姿をしっかりとした目で捕らえていた。雫も幸い無事のようだ。
「梶ヶ谷さんっ!!」
真っ先に駆けつけた犬塚と蛭川が、その体を揺すった。閉じた目は開かないものの、梶ヶ谷の口から「あぁ」と細い声が聞こえてくる。辛うじて、命に別状はない模様。
それを確認したスコーピオンメンバーたちは、横たわる梶ヶ谷の体を抱えて駅の方角へ運び出していった。
ちなみにその時、犬塚と目が合ったのだが、彼は睨むでもなく礼を言うわけでもなく、ただ複雑な表情でこちらの顔を見て、すぐに行ってしまった。そもそもは敵対している相手だが、今は同盟関係。こちらも何と声を掛けたらいいのかわからない。
そして、未だバスターミナルの中央に倒れているまこと。彼の元に駆け寄る者はいなかった。ただ1人、VOLT親衛隊長の水樹を除いては。
「八神さんも倒れてしまったので、これで終わりでしょうか……」
特に大きな感情も無く、淡々と状況を述べる水樹。
「俺たちの勝ちで良いのか?」
そう聞いた拓人に対し、水樹は黙って頷こうとしたが、突然横からそれを邪魔する声が聞こえてきた。
「おいおい、親衛隊長。勝手に負けを認めてんじゃねぇよ」
それは八神だった。彼はがにまたで足を開くと、むくりと体を起きあがらせた。
「あなたはまことさんじゃなくて、透さんですか?」
「ああ、俺はマコトでもまことでもねぇ、八神透だ。何だかんだあったが、結局最後は俺がけりをつけるのが筋ってもんだろ?」
「……しかし、その体で戦うつもりですか?」
水樹の言う通り、八神の体は強力な電撃を受けた上に、まことの『超人』の能力で酷使したため恐らく満身創痍の状態だと思う。虚勢を張っているだけではないだろうか?
八神は辺りを見渡し、そして拓人の顔に焦点を合わせた。
「もうこの場で立っているのは、俺とお前だけだな『風斬り』。後は俺たちのタイマンで勝負を決めよう。いいな?」
「文句はない。元々、そういうルールだ」
そして互いに残る力を振り絞り、最後の勝負が始まった。
地面に落ちている空き缶などのごみ屑を宙に浮かせ、それを飛ばしてする八神。だが拓人は、体の周りに旋風を巻き起こし、その攻撃を全て弾いた。
仮想鳴瀬として戦っておきたかったのだが、現在の八神透の力は、鳴瀬光国には遠く及ばないだろう。
「八神透……。お前の『テレキネシス』の能力、悪いけど今の俺には物足りない」
拓人は風を使って高く跳び上がると、空中で体を後転させ、高く掲げた右足を一気に振り下ろした。
「悪禅師の風っ!!」
空気を切り裂く爆音が渋谷の街に轟く。衝撃波にも似た巨大な鎌風が発生し、地上に向かって弧を描きながら高速で飛んでいった。
瞬間、血しぶきが激しく広がる。
鎌風は八神の顔の古傷をえぐり、そして胸から腹部にかけて大きく斬り裂いていた。
「ぐあっ!!」
両手で顔を押さえ、崩れるように膝をつく八神。これで決着が着いたか?
周りのギャラリーは、静かに成り行きを見守っている。もう喧嘩を邪魔する人間はいないだろう。
流石に立ち上がらないだろうと確信した拓人は、その場で右の拳を大きく掲げた。大声を出せる状態ではないので、これで勝利宣言とする。
「この大喧嘩の覇者は、俺たちや! 八神透、2度も敗北したお前は、もうこの街に居場所なんてあらへんぞっ!」
そう大見得を切ったのは上条だった。さっきまで死にかけてたのに、いつの間にかしゃしゃり出てきやがった。
「……お前らガキ共が、この街の覇者だと? 全く笑えないギャグだな、関西人!」
辛うじて片膝立ち上がった八神だが、それ以上は膝が動かない。
そして苦悶に満ちた表情を浮かべると、八神は己の顔を爪で掻きむしった。
「傷がぁっ!! あいつにやられた傷が疼くんだよぉっ!!!」
顔面を血まみれにして発狂する八神。その異様な光景に誰もが口を閉ざしてしまう中、1人、そんな八神に声をかける人間が現れた。
「八神さん、俺はあんたのことを憧れてたし尊敬してた。これ以上無様な姿を晒さないで貰えますか?」
そう言って現れたのは、メンズカチューシャをつけた長髪の男。言わずと知れたB-SIDEの頭、鳴瀬光国だった。
「てめーは、鳴瀬……。何しに来やがった」
片膝の状態でゆっくり近づいていく八神。
首を上げ高圧的な態度の鳴瀬は、そんな八神に容赦なくボディブローを喰らわせた。一発で意識を失い、鳴瀬の体にもたれかかる八神。
「とっくの昔にあんたの時代は終わってたんだ。大人しく隠居してくださいよ」
鳴瀬は小さくそう言うと、歩み寄ってきたVOLTの水樹に、眠ったように目を瞑る八神の体を引き渡した。
余力もほとんど残っていない拓人は口をつぐみ、鳴瀬の挙動をじっと見ていた。
こいつはこの状況に現れて何をするつもりなのだろう? 拓人の頭の中で最悪のシナリオが浮かんでくる。
西口バスターミナルに倒れているぼろぼろの若者たちを一瞥した鳴瀬は、微かに笑みを浮かべ、そして拓人と上条を交互に睨みつけた。
「ここでお前らをぶちのめすのは簡単だが折角の戦争だ、そんなつまらないことはしたくもない」
「……だったらどうするんや?」
上条が聞いたのだが、鳴瀬はそれを無視するように倒れている辻堂と岸本を担ぎ上げ、そして背中を向けた。
「24日の午後6時、スクランブル交差点。そこで渋谷の頂点を決めよう」
それだけ言い残すと、鳴瀬は2人を担いだまま、ハチ公口の方角へ去っていった。
―――†chapter22に続く。




