†chapter21 12月のホーリーウォー33
血走った目を広げ、特攻を仕掛けてくるまこと。対する拓人は、『疾風』の能力で風速50m程の向かい風を起こしたのだが、まことはそんなものはものともせずに地を駆けてくる。
風だけじゃ抑えきれないか……。
別の行動に移ろうとしたその時、背後から「どけっ! 風斬りっ!!」という怒声が聞こえた。その声の主は梶ヶ谷だ。
言われたとおり、横に避ける拓人。梶ヶ谷は『チューンナップ』の能力で強化された玩具の銃を構え、まことに向かって引き金を引いた。
パンッ、パンッ、パンッ、パンッ、パンッ!!
エアガン用のペレット弾が風の勢いに乗って飛んでいく。それでも怯まず突っ込んでくるまことは、その全弾を被弾し耳と手の甲から赤い血が滲んだ。
「皮膚の硬さは人並みたいだな」銃口を上げる梶ヶ谷。
「まあ、面の皮の厚さだったら、MC.BOOに負けるかもね」
赤く染まった手の甲を見たまことは、一つため息をつき、その場から消え去った。
いや、消え去ったのではない。これは10倍の脚力による高速移動。次に現れた瞬間、まことは梶ヶ谷の上に馬乗りになっていた。
「お兄さん、おもちゃの銃で遊ぶような年じゃないでしょ」
まことは梶ヶ谷の持つ玩具の銃に手をかける。そして力を込めると、その銃は握力の力だけで2つに砕けてしまった。
「おもちゃは処分した、次はお兄さんの番ね」
「ほざけっ!!」
仰向けの状態で、ベルトのバックルに手を触れう梶ヶ谷。すると上に乗ったまことが、何の前触れも無く後方に吹き飛んだ。以前見たことがあるが、梶ヶ谷は何かが勢いよく飛び出すギミックを持った、特撮ヒーロー物の変身ベルトを腰に巻いている。『チューンナップ』の能力でそれを発動させたのだ。
今がチャンスだとばかりに、拓人、上条、東の3人がまことに襲いかかった。だがまことは素早く後転し体勢を直すと、逆に中央を走る上条に飛び蹴りを放ってきた。靴を滑らせ方向転換をはかる拓人。
上条は装備している六尺棒でまことの蹴りを防ぐもその威力は強く、工事用のカラーコーンのように簡単に吹き飛ばされてしまった。
何て奴だよ……。
風の力を使っても速度が追いつかず舌を巻いていると、再び拓人の目の前にまことが現れた。一気に血の気が引いていくのがわかる。
拳による連続攻撃を放つまこと。拓人は『柳に風』という攻撃時に発生する風圧を利用して避ける技でどうにか避け続けるが、あまりにも速いその攻撃に、段々と体の動きが追いつかなくなっていく。
少しづつ攻撃がかするようになり危機感を覚えると、そのタイミングで横から現れた東がまことの脇腹に右の拳を沈めた。不意に喰らったせいか、まことも少しだけ苦しげな表情を浮かべる。
「東正親……。あんたも単純に戦闘力が上がるタイプの亜種だったね。その力、何倍くらいに上がるの?」
「さあな。力が何倍になるのかは知らないが、俺の脳内に分泌されるアドレナリンの量は常人の数十倍だ!」
怒りの雄叫びと共に、東とまことの戦闘が始まる。『激情』の能力を持つ東は、『超人』のまことに必死に喰らいついているが、やはりまことの方が数枚上手をいくようだ。
だが俺たちは1人じゃない。拓人自身も『疾風』で風の力と利用すれば、速度、攻撃力、共に倍増することができるのだ。
「喰らえ、『一陣の風』!」
激しい風と共に、一直線に突っ込んでいく拓人。そこに起き上がった上条と梶ヶ谷も加わり、全員でまことに対し包囲網を敷いていく。
東が拳でけん制し、上条が六尺棒で足元を払い、拓人が風で動きを制しつつ、梶ヶ谷が隠し持っていた玩具の小型ガトリング砲でBB弾をぶっ放す。
「楽しいね。大人たちとじゃれあうって……」
四方から責められるまことだったが、彼女はバレエでも踊るようにその攻撃を華麗に避けている。
「けど、こんなおもちゃの銃でも目に当たったら、一大事よね」
まことは素早い手刀で、梶ヶ谷の小型ガトリング砲を真っ二つに叩き斬る。そして横っ面に薙いできた六尺棒を片手で受けとめると、棒ごと上条を横に投げ飛ばした。
「化け物かよっ!!」
拓人は右腕を掲げると、それを左下に向かって力強く振り下ろした。空気を圧縮して作りだした真空の刃で、まことに斬り込んでいく。
しかし正面にいるまことは、それを避けようともせずに拓人と同じように右腕を掲げ、そしてそれを一気に振り下ろしてみせた。衝撃がぶつかり合い、拓人の放った飛ぶ斬撃は見事にかき消されてしまった。
「こういうこと?」
首を捻りおどけるまこと。だが、笑える場面ではない。『疾風』特有の技をコピーされ、拓人は息をするのも忘れるくらい身動きが止まってしまった。
「面白い技ね。じゃあ、もう一度……」
まことはまた腕を掲げた。しかし拓人は動けない。
「何してんだっ!!」
声を荒げる東。彼は拓人とまことの間に割って入ると、仁王立ちの状態で飛ぶ斬撃を受け止めた。東の胸から腹部にかけて服が裂け、皮膚にも大きな裂傷を負う。
赤い血を流し倒れる東の姿を見て、拓人はようやく我に返った。
「た、助けてくれたのか……?」
いまいち状況が掴めない拓人の元に、今度は梶ヶ谷が駆け寄ってくる。
「何やってんだよ、東もお前も!」
怒りを見せる梶ヶ谷に、拓人はうろたえることしか出来なかった。
「まあ、こうなったら仕方ねえ。東は俺が仲間のところに運ぶから、お前と上条でしばらく何とか凌いでくれ」
そう言って梶ヶ谷は東の肩を担いだのだが、一つ呼吸を置くと「あっ」と呟き、そして担いでいた東の肩をそっと下ろした。
「くそみたいな奴らが、くそみたいなタイミングで来やがった……」
虫酸が走っているような不快感を露わにする梶ヶ谷。彼の見ているモヤイ像の方向に目をやると、2人の男がこちらに向かって歩いて来ていた。
「面白い喧嘩があるっていうから来てみたら、本当におもしれーことになってるじゃねぇか」
「折角だから、俺たちも混ぜてくれよ」
青いカラーバンドを腕に着けた2人組は、そう言って立ち止まった。
「この状況で、こいつらの登場か……」
面倒事が増え、自然と吐息が漏れる拓人。
そこに現れたのはB-SIDEの副長、辻堂辰也と、第3遊撃隊長、岸本伸也だった。




