†chapter21 12月のホーリーウォー32
「『超人』だと……?」
八神の3番目の人格の持つ能力の名を聞き、拓人は愕然とした。その3番目の人格は、まことという女性。心なしか、顔つきや所作も女性らしくなっているように感じる。
「そう、ちょーじん。どんな能力か分かる?」
おどけた調子で聞いてくるまこと。にも関わらず、透やマコトより恐ろしさが増している感じがするのは何故なのだろう? 隣にいる上条も、口が半開きの状態で眉を寄せている。『暴露』の能力で『超人』の詳細を暴いたのか?
その時、こちらに寝返ったMC.BOOが、まことの元に近づいていった。
「おい、八神。悪いけど、俺はもうこいつらと喧嘩しねぇ。お前ももう負けを認めちまったらどうだ?」
「何で? そんな必要ある?」
まことは、至極不思議そうに首を捻る。
「亜種4人が相手じゃあ、さすがのお前でもきついだろ。その3番目の人格のことは知らないが、俺より強いなんてことはないんだろ?」
BOOがそう言うと、まことは目にも止まらぬ動きで彼の腹のど真ん中を思いっきり殴り飛ばした。厚い皮下脂肪のため、打撃の効かないはずのBOOの体がくの字に折れ曲がる。これは『ワンヒットワンダー』級の威力。
「うぐっ……。ざけんなっ!!」
片手を前に出し、荷電粒子砲のエネルギーを溜めるBOO。だがその恐ろしい攻撃を目の前にしても、まことは表情を全く変えなかった。
「馬鹿の一つ覚えね……」
「馬鹿はお前だ、喰らって後悔しろ! ランクN、行くぜ、荷電粒子砲っ!!」
バスターミナルの中央が青白く光る。だが、まことは放たれた怪光線をかい潜り、無傷の状態でBOOの懐に潜り込んだ。
「豚さんにしては素早い攻撃かも……。けど、私には全然物足りないから」
まことの攻撃がBOOの顔面を捕らえる。左パンチ、右パンチ、左パンチ。高速で拳を叩きつけ、そして最後に回し蹴りをお見舞いした。白目をむき膝が崩れると、BOOはそのまま仰向けで倒れてしまった。
「ごちそうさまでした」
そう言って、両手を合わせるまこと。よくわからないが、倒しことを現すアピールのようだ。
この時点でバスターミナルに残っている人間はかなり減っていたが、その者たちは皆一様に口を閉ざしていた。あのMC.BOOを秒殺してしまう圧倒的な戦闘力に恐れ戦いているのだろう。
「この『超人』って能力は、えげつない力やで……」上条が呟く。
「一体どんな能力なんだ?」
拓人が息を飲み込むと、横からも上条の唾を飲む音が聞こえてきた。
「体力、速度、攻撃力。全ての身体能力が10倍に跳ね上がるみたいや」
「10倍? それって……」
拓人の目の前に、不意にまことが現れる。10倍の速度で接近していたのだ。
攻撃を覚悟した拓人は、両腕をクロスさせ体を守る。だが目前のまことは、突然つんのめるように前に倒れてしまった。見ると、背後から来た梶ヶ谷と東が、力づくで押し倒してくれたようだ。
「ぼーっとするな! 殺されるぞ!」
「この喧嘩、こっからが正念場だ」
一度身を引いた拓人は、気持ちを入れ替えるように己の太腿を叩いた。
「お前らスコーピオンの人間は知ってたのか? この、3つ目の人格のこと」
「馬鹿な。知ってるわけがない。俺らが知っていたのは、人格に合わせて能力を使いわけるということだけだ。『ワータイガー』の能力ですら、お前らから聞いて初めて知ったんだぞ」
玩具の拳銃の銃口を、まことへ向ける梶ヶ谷。まことはまだうつ伏せに倒れている。
「ああ、そうだったな。一応言っておくと、まことの『超人』の能力は、身体能力が単純に10倍になるらしい」
拓人がそう説明すると、髪の毛を逆立てた東は、口内で溜めた唾を「ぺっ」と地面に吐き出した。
「10倍ってことは、八神が10人いるってことか? そいつはうっとうしいな」
「けど、こっちも4人おるんや。何とか、何とかしようや……」
上条が苦虫を噛み潰したようにそう言うと、倒れていたまことが両手で地面を押し、跳ね返る力だけで体を起こした。
「ていうか、あんたも馬鹿なの? 4人居たって、結局は10対4。あなたたちに勝てる要素なんて、何一つ無いからね」




