†chapter21 12月のホーリーウォー31
「チャージ、60%……」
静かに荷電粒子砲のエネルギーを溜めるMC.BOO。
それに気付いた拓人は決心の覚悟で、その攻撃を防ぎにかかった。先程のモヤイ像を溶かしてしまったような殺戮兵器級の怪光線を、再び放たれるわけにはいかない。
「『乱れ鎌鼬』っ!!」
裂傷を負わせる鋭利な風。それによる連続攻撃を、身動きの取れないBOOに喰らわせる。脂肪の層が厚いBOOの皮膚からも血が噴き出すが、そんなことは物ともせずにそのままエネルギーを溜め続けている。
「80%……」
効き目は薄そうだが、何もしないよりはましか?
更に鎌鼬を飛ばそうと、身を構える拓人。だがその時、1人の中年男性がギャラリーの奥から飛び出してきた。
咄嗟に腕の動きを止める。出かかった鎌鼬はただの強風となり、その中年男性の背中を後押しした。
勢いを増す男の足が地面を蹴ると、BOOの腹部に向かって全身の重さを乗せるようにストレートパンチを喰らわせる。
尋常じゃない皮下脂肪のせいで、打撃はほとんど効かないと聞いていたが、今の攻撃を受けBOOは物凄い勢いで地面に倒された。想定外の破壊力を持つおっさん。
ギャラリーも戦っている拓人たちも、唖然としてしまう中、1人、マコトだけは怒りを覚え、野獣のような唸り声を上げた。
「ガルルルルルルルルルッ! この喧嘩、途中参加は認めてねぇぞ! 誰だ、テメーは?」
言われた中年男性は、ゆっくり振り返り、邪気のない顔を晒した。
「なに、通りすがりの音楽プロデューサーだ。殴りはしたが、この喧嘩に参加するつもりはない」
その中年男性は、FAKE LOTUSなどをプロデュースをしているヒナ先輩こと、朝比奈雄二郎であった。『ワンヒットワンダー』という一撃必殺の能力を持つ朝比奈の攻撃なら、先程の威力も納得できる。
「朝比奈、雄二郎……さん?」
殴られ吹き飛んだBOOは、その巨体を起き上がらせると、がくがくと足を震わせた。
「お前はアマチュアヒップホップ界の巨星、MC.BOOだな。いきなり殴ったことは謝る。だが、お前も音楽家なら俺の名は知っているだろう?」
朝比奈にそう問われると、BOOは突然地面の上に正座して殊更低く頭を下げた。
「も、勿論です! 朝比奈さんの音楽的功績はグラミー賞ものです。特に藤崎梨々香さんの衝撃的デビューシングルは、多くのファンに感動を与えてくれました。本当にありがとうございます!」
キャラに似合わず何度も何度も頭を下げるBOO。そうだ。朝比奈雄二郎は藤崎梨々香のプロデュースもしていたのだ。殴られたにも関わらず、BOOのリスペクト具合はかなりの様子。
「藤崎梨々香か。そういえばあの子は、ここにいるスターダストの連中にプロデュースを頼まれたんだ。何かと縁のある連中だよ」
「な、な、何ですと……!?」
BOOのこちらを見る目が、明らかに変わった。これはもうひと押しか?
ふと目を向けると、上半身裸の上条がほふく前進でBOOに近づいてきた。
「ちなみにやけど、109の前でやったデビューライブのプロジェクションマッピングの映像は、裕太の『幻術』の能力で映し出したものなんやぞ」
こっそり言われた上条の言葉を聞き、BOOは怖がっているのか泣きそうになっているのか、よくわからない表情を浮かべた。
「あの、リリたんの伝説とも言えるデビューライブ!? そのCG映像を作りだしたのが魔術師だと!? テメー、嘘も大概にしとけよっ!!」
BOOは上条に対し怒りをあらわにするが、朝比奈はその上条の言葉を「本当だぞ」とあっさりと肯定してくれた。
「そうなんですか……?」
もはや茫然自失のBOO。正座したまま固まるその姿は、何故かちょっとだけ老けたように感じる。
「お前ら今まで悪かった。この通りだ、許してくれ! 人類皆兄弟、ラブ&ピースッ!!」
額をぶつける勢いで土下座を放つBOO。これで完全に八神を裏切ったと考えて良いだろう。奴の行動原理はよくわからないが、とりあえずヒナ先輩には感謝せねばならない。
「冗談じゃねぇ……。冗談じゃねえぞ、テメーらっ!!」
マコトが大声を張り上げると、同時にBOOが乗ってきたリムジンを含む、バスターミナルに停車していた幾つかの車が宙に浮き上がり、そしてひっくり返った。これは『テレキネシス』の能力。マコトから透に戻ったのか?
再び支配される不穏な空気。八神はあごを引き顔を下げると、気が狂ったかのように大きく肩を震わせた。
「フフ、フフフフフ。私を怒らせるなんて馬鹿な人たちね……」
顔を上げた八神の表情が一変している。怒っていると言ったが表情は無く、かといって感情を感じないわけではない。怒っているのに、眉ひとつ動かさないことが何より恐ろしいのだ。
「何、余裕ぶっかましてんだオメーは? 今のこの状況理解してんのか?」
寝返ったばかりのマッドクルーのキャップ男がそう言い寄ると、八神は手首のスナップだけでキャップ男の横っ面を殴り、遠くに吹き飛ばした。西部劇で転がる草の塊のように、綺麗に転がっていく。
「だ、誰やお前? 透か?」
上条が聞くと、八神は口元を押さえ、「フフフッ」と笑った。
「つまんないこと聞くんだね。私は、まことだよ」
八神は少し甲高くなった声でそう言った。だが、今の攻撃はマコトというよりも、透の『テレキネシス』に近いような気がする。よくわからなくなった拓人は髪をかき上げ、そしてゆっくりと首を回した。
「マコト? けど、今のは『ワータイガー』の能力ではないだろ?」
「あんた、何言ってんの? マコトじゃなくて、まことよ」
八神の言っている言葉が理解できない。こいつ、とうとう頭がおかしくなってしまったのか?
「うちの會長は多重人格者。まことさんは、3番目の人格ですよ」
突然横から水樹が説明を入れてくる。
「3番目の人格!? 透でもマコトでもないのか!?」
「そうです。マコトが2人居てややこしいですが、1人のマコトさんは男性の人格。そしてもう1人のまことさんは女性の人格。B-SIDE時代にはいなかった、比較的新しい人格です」
まことはそう紹介されると、こちらに向かって不気味に口角を上げた。
「ねえ知ってる、あなたたち? 私の持つ人外の能力は『超人』だから……」




