†chapter21 12月のホーリーウォー26
八神はディレクターズチェアーから立ち上がると、たった今やってきた梶ヶ谷と顔を突き合わせた。
「今はお前が総長をやってるらしいな。大したもんだ。だが俺にとっては、不破征四郎あってのスコーピオン。お前ら半人前が代表のチームじゃあ、底が知れる」
「出戻りの先輩が随分とでかい口を叩くんだな。その思い上がった態度のせいで、鳴瀬に負けちまったんじゃないのか?」
梶ヶ谷が言うと、続けて東も叫ぶ。
「お前を倒した鳴瀬光国が、今や渋谷の『帝王』と呼ばれている。時代は変わったんだよ、八神!」
スコーピオンの2人と、八神の覇気がぶつかり合う。広いバスターミナルに漂う緊迫した空気。
「時代とは常に巡ってくるものだよ。何故なら、お前たちが過去から何も学ぼうとしないからだ……」
八神がそう口にすると、車の排気音と共に周囲から聴衆の叫び声が鳴り響いた。
首都高速の高架を潜り、1台のストレッチ・リムジンがこちらに突っ込んでくる。だがバスターミナルの周りには、多くの衆人がおり、彼らは横に倒れ込むようにしてその車から離れた。悲鳴のようなブレーキ音と共に、ボンネットがひしゃげる鈍い音が鳴る。残念ながら、1人の男性を思いっきりはね飛ばしたようだ。
ストリートギャングたちに囲まれた円の中で、そのリムジンは停車した。だが八神はそんな状況には目も触れずに、スコーピオンの2人と未だに向き合っている。
「俺や不破がどうして最強と言われていたか? その壁を越えずに総長になったお前には分かるまい」
そう言われ、何か言いたげに前に身を乗りだす梶ヶ谷。だがそんな彼の発言を制するように、リムジン
の後部座席が豪快に開かれた。警戒を強めるスターダストのメンバー。
「YO、YO、YO!! 猪突猛進! アホに突進! 奴はもう死ぬ! ちょっと傷心!」
轢いた相手を激しくディスりながら降りてきたのは、何とあのMC.BOOだった。
何故奴がここに!?
混乱する拓人をよそ目に、運転席からはマッドクルーのキャップ男、そして助手席からはタオル巻き男がそれぞれ降りてきた。
キャップ男はこちらに気付き頭を下げてきたが、タオル巻き男は車から降りるなり、リムジンの前に倒れている男にヤクザキックを喰らわした。
轢かれた上に、蹴りまで入れられた男は「ひぃっ!!」と情けない声を上げ、全速力で逃げていく。
そこにきてようやく気付いたのだが、その轢かれた男はわくわくファイナンスに勤める赤間というチンピラだった。走って逃げることができるくらいなのだから、まあ大きな怪我はしていないのだろう。
「YOッ!! ここで会ったが百年目! 魔術師に受けた屈辱は、お前らスターダストに晴らさせて貰うぜ!」
こちらに向かって、力強く指を差すMC.BOO。やはり照準は我々にロックオンしているようだ。
「何だよ! マッドクルーもこの喧嘩に参戦する気かよっ!!」
拓人が声を上げると、リムジンの横に立っているキャップ男が困ったように眉を大きく寄せた。
「違うんすよ、兄貴たち。BOOさんは今日付けで、VOLTの幹部になっちゃったんす!」
「えっ!? 嘘やろっ!?」
唖然とする上条。拓人もそれに合わせて関西弁で「嘘やろ……」と呟いた。
「ほんまです。今まで世話になりました。今日からは敵同士なんで、大人しくここでくたばってください!」
無慈悲な宣告をするキャップ男。所詮マッドクルーの仁義なんてこんなものだ。
八神はBOOに視線を向け、そしてスコーピオンとスターダストのメンバーを順番に睨みつけた。
「そういうわけで、VOLTからは俺とBOOが代表になる。2人とも、お前らの言う過去の人間だ。本当に時代が変わったというのなら、俺たちを越えてみろ」
まだ始まってもいない喧嘩だが、この時点で尋常じゃない悲壮感が辺りに漂っていた。八神に加えてMC.BOOが出てきたのでは、ここから参戦する者など最早いないだろう。
「これで3チームが揃った。他に参加するチームはいねえかっ!!」
駅舎に響くほどの大声で八神は叫んだ。だが、それに返答する者はいなかった。バスターミナルに沈黙が広がる。
「この状況で出てくる奴も居らんやろ。それよりMC.BOO、お前は喧嘩しない主義じゃなかったんか?」
上条はMC.BOOに尋ねる。
「確かに俺は喧嘩はしねえ主義だが、魔術師とその仲間たちは例外だ。ここできっちりけりをつけてやる」
「お前が裕太にむかついとるのは知っとるけど、何でVOLTなんや? このタイミングで八神に手を貸す理由はなんや?」
MC.BOOは顔を紅潮させ巨体を震わせている。それが怒りのあまりなのか、武者震いなのかは良く分からない。
「魔術師の手下が何を偉そうに質問してきやがる? ラップ以外の口喧嘩は嫌いなんだ。とっとと始めよう。こんな面倒なことはすぐに終わらせてやるよ!」




