†chapter21 12月のホーリーウォー22
小さな丸テーブルを囲み、4人の男たちが探り合うように様子を窺っている。先程上条が、VOLTに関して大事な情報がもう一つあると発言したためだ。
上条がこちらに目を向けると、梶ヶ谷と東も合わせてこちらに視線を送ってくる。
だが、見られても困る拓人が大袈裟に首を傾げると、今度は上条に視線が集まった。
「何だよ?」
「もう一つの情報っていうのは?」
「言えっ!!」
拓人と東と梶ヶ谷がそれぞれにそう言うと、上条は不敵に笑い前に身を乗りだした。
「今なら何とVOLTのNO.2、氏家時生がいない。拓人が倒したからや」
一瞬だけ静まりかえる店内。そのことかと思い、座る位置を直し背筋を伸ばした修馬とは対照的に、梶ヶ谷と東が驚いたように椅子を引かせた。
「倒した!? お前が?」
「あの『獄卒』をか……?」
「まあな。氏家の野郎、足を痛めてたみたいだから、しばらくは大人しくしてるんじゃないか?」
優越感を感じつつも、平然を装った報告する修馬。ただ『スターイエロー』のおかげで勝てたようなものなので、本当の勝利とは言い難い。
「どうや? うちのエースは滅茶苦茶強いねん。同盟組む気になったやろ?」
上条が聞くと、スコーピオン総長の梶ヶ谷はゆっくりと視線を動かし、そして耳の中に人差し指を入れた。
「本当に氏家がいないのならタイミング的には絶妙だが、それでも戦力的にはまだ向こうに分がありそうだな」
「まあ、それはそうやろなぁ」
あっさりとそれを認める上条。ではどうするのか?
「他に何か作戦でもあるのか?」
梶ヶ谷は指の先端に付着した皮膚の残骸を、軽い息で吹き飛ばす。白い粉が彼の膝にはらはらと舞った。
「いや、作戦ってほどの話でもないんやけど、VOLTは今ひとつ結束が緩いみたいなんや。なぁ拓人」
「ああ、そうだね。氏家は八神を倒してVOLTを乗っ取ろうとしてたみたいだったし、元ボーテックスの連中も謀反を起こそうとしてるって話だし」
上条と拓人の話を聞き、今度は東が耳の裏を掻いた。
「それが、信憑性のある話ならいいんだけどな」
「氏家の話は本人が言ってたことだから間違いない。けどボーテックスの話は水樹から聞いただけのことだから、ちょっと疑わしいかもな……」
「水樹って、元Trueの水樹尚之のことか? お前はあいつとも繋がりがあるのか?」
「そうなんか? 拓人」
東に乗っかって、上条も問いかけてくる。
「いや、繋がってはいないけど、たまたま会った時にどういうわけか教えてくれたんだよ」
「何でわざわざ敵にそんな情報漏らすねん!」
追及してくる上条。お前はフォローする立場じゃないのか?
「そんなの知らねえよ。けどあいつはあいつで、VOLTの中で内乱が起きるのを望んでるような感じではあったな」
そう言って思い出す、常時瓢然とした水樹の振る舞い。彼は傍観者としてこの流れを楽しんでいると言っていた。
「うーん。けど、そうなると信憑性が低なってくるなぁ」
腕を組んで唸る上条。なんだか申し訳ないが、ついでにもう一つ言わなくてはいけないことがある。
「さっき言った『ワータイガー』の話も実は水樹から聞いたことだから、確証のある話じゃないんだ」
そこで4人の会話が途切れた。いきがった若者の張り上げた声が、どこか遠くに聞こえてくる。
「だが水樹尚之は、そういう訳のわからないことをする男だ」梶ヶ谷が言う。
「そうだな。もしかするとその情報、意外に信頼できるのかもしれないぜ」
同意する東。2人は水樹の人となりについて詳しく知っているのだろうか?
「スコーピオンはTrueと何か繋がりがあるんか?」
その上条の質問には、梶ヶ谷が答えた。
「昔の話だが、不破さんはTrueに同盟を持ちかけたことがあったんだ……」
2、3年ほど前、当時のスコーピオン総長、不破征四郎はB-SIDEに対し包囲網を築くため、渋谷西口に拠点を持つTrueと同盟を組もうと、リーダーの水樹尚之にその話を持ちかけたらしい。
不破はTrueに対し様々な提案を出したのだが、水樹はノーともイエスとも言わずに先送りにし続け、結局そのののらりくらりとした態度に不破が激昂してしまい、同盟は白紙になってしまったのだそうだ。
「あの時は水樹の『プロビデンス』の能力なんて知らなかったからな。同盟と言いつつ、上手く吸収合併してしまおうっていうこっちの思惑が、向こうには筒抜けだったってわけだ」
梶ヶ谷はため息をつく。今はうちと同盟を組む話をしているのに、恐ろしいことを言う奴だ。
だが、梶ヶ谷も東も上条でさえも、あまり気にしている様子はない。自分が神経質なのだろうか?
「そういうことなんか……。情報を提供してくれるええ奴やったらこっちサイドに取り込みたいところやったけど、今の話を聞くと水樹は少し面倒臭い奴みたいやな。仮に仲間にするんやったら元Trueよりも、元ボーテックスの方が上手くいくかもしれへんな」
上条が尋ねるようにそう言うと、梶ヶ谷は持っている拳銃のトリガー部分を指を視点に回転させ、そして入口付近に飾られたアメリカの俳優が写るポスターに銃口を向けた。
「それはどうでもいい。俺たちだけでも、八神を倒すことは出来るだろう」
「おっ、それは同盟を結ぶってことでええんか?」
「ああ、勿論だ。ただし同盟関係はVOLTを倒すまで。その日をもって同盟は解消。その瞬間にこの『デッカードブラスター』の餌食になるかもしれないぜ……」
ポスターの人物に向けていた銃口を、ゆっくりと上条の眉間に移す梶ヶ谷。だがお互いに殺気も無ければ、困惑している様子もない。
「それでええ。後一応、元ボーテックスとも交渉したいんやけど、行けそうやったらこいつらとも同盟組んでもええか?」
「それは任せる。俺たちはVOLTが解体出来れば、それでいい」
「じゃあ、これで交渉は成立や。これからよろしく頼むで!」
最後に互いのリーダーである上条と梶ヶ谷が握手を交わし、そしてこの日は解散になった。




