†chapter21 12月のホーリーウォー20
「そういうわけでいつまでもお前らの相手をしている程、俺たちは暇じゃねぇんだ!」
ひざまずいている拓人の顔目掛けて、氏家の喧嘩キックが飛んでくる。
間一髪、後転してその蹴りを避ける拓人。だがその後も更に追撃が続く。
「これも避けてみな! 呵責の黒拳っ!!」
氏家は両方の拳を交互に出し、連打を浴びせる。体勢を立て直しその攻撃に耐える拓人。攻撃の手は中々止まらなかったが、隙を見つつ反撃を狙う。
「とどめだ、『五逆の鉄槌』っ!!」
そして放たれる大砲のような正拳。真っすぐに打ち抜かれるストレートパンチを拓人は紙一重でかわし、そのまま回転するとバックナックルで氏家の横っ面を叩きつけた。
「『返りの風』だ。カウンター攻撃はお前だけの専売特許じゃないんだぜ」
ようやく体勢を整えた拓人は、前に構え相手を睨みつけた。ここが勝負の分かれ時だ。
鼻を押さえて顔を歪めている氏家に向かって、無数の鎌鼬を浴びせる。
そして奴のガードが自然に上がり出したところで、拓人は全力で追い風を吹かせ前に突っ込んでいった。
寒風が身に纏わりつく。拓人は目を細め、氏家の左膝に勢いよく蹴りを放った。
「うっ!!」
苦しげな声を上げ、膝を曲げる氏家。
難攻不落と思われた氏家の体がここに来てようやく崩れた。足技も使いこなすとはいえ、やはり弱点は足元のようだ。このまま一気に決着を着けてやる。
高く高く飛び上がる。拓人は極度の高所恐怖症であるが、スターイエローが覚醒している時は不思議と足がすくまない。
周りの雑居ビルを越える高さに到達すると、拓人は風を抑えそして宙に留まった。冷たい風に晒されながら、地上でふらついている氏家に狙いを定める。
「行くぜ、『山颪』……」
重力に身を任せ一気に下降していく。風を切る勢いのまま右足を大きく振りあげ、そして叩きつけるように振り下ろした。
拓人の踵が氏家の頭頂部にぶつかる。岩と岩が激突するような鈍い音が、辺りに鳴り響いた。
着地の瞬間上昇気流を起こし、ゆるやかに降り立つ拓人。小さく震えた氏家は「あぁ」と声を発すると、大の字のまま地面に倒れた。
高ぶる気持ちと乾く闘争心が入り混じり、拓人の口から熱い息が漏れる。
これで決着は着いたか……?
脳裏にその言葉が過ぎったが、氏家はすぐにその場で背中を起こした。だが彼はそこから立ち上がりはせず、そのままアスファルトの上で胡坐をかく。
「負けだ!」
「……はぁ?」
「この勝負、俺の負けだと言ってる」
座ったままの氏家は、両方の膝頭を掴むように手を置くとあっさりと負けを認めた。肩すかしを食った拓人は、きょとんとした顔で動きが止まる。
良く見ると、氏家の頭部に生えていた2本の角は消えてしまっていた。もう戦闘の意思はなく、鬼化も解除しているようだ。
「そうかよ……」
振りあげた拳を下ろしゆっくりと呼吸を整える拓人。これで終わったのだと悟ると、瞳の色が輝く黄色から元の黒さに自然と戻っていった。
「ふん、スターダストか……。噂以上の強さだったな。だが、この俺と良い勝負をしているようでは、うちの會長には勝てねぇぞ」
己を基準に、八神の強さを語る氏家。先程も自分や鳴瀬の強さの更に上をいくと言っていたが、それはどの程度上なのだろうか?
「別に桁違いの強さってわけじゃなのだろ?」
「いや、桁外れの強さだよ。あの男……、いやあいつは文字通り『超人』だからな」
負けを認めたからなのか、氏家はすっきりとした顔でそう言った。やはり複数の能力を操るというのは、亜種の中でも更にステージが一つ上なのだろう。
ゆっくりと立ち上がる氏家。蹴られた足が痛むのか、立ち方が少し覚束ない。
「お前ら本気でうちの會長とやりあうつもりか?」
「当然だ。俺らは渋谷のてっぺん目指してるからな」
「だったら喰らいついてみるんだな……。お前らが喧嘩を売ってきたことは、うちの會長に伝えておいてやる」
氏家はそう言うと、片足を引きずりVOLTのアジトになっているビルに向かって歩いていった。




