†chapter21 12月のホーリーウォー16
緊迫した空気が辺りを支配する。
対峙する2人の様子を慎重に窺う拓人。すると桐生と室井は、息を合わせたように同時に襲いかかって来た。
まずは電光石火の能力を持つ桐生が、瞬間移動のような一瞬の速度で距離を詰め、目にも止まらぬパンチを浴びせてきた。だが拓人はそれほど速さの攻撃を難なくかわす。
すると今度は巨大な胸筋の持ち主、室井のハンマーのような拳が逆側から飛んできた。しかし拓人はその攻撃も上半身だけを動かしあっさりとかわしてみせた。
その後も桐生の速度のある攻撃と室井の重さのある攻撃が続いたが、拓人はそれを風に揺れるマントのようにひらひらとかわした。これは風に反応して体を揺れ動かす『柳に風』という疾風の能力を利用した拓人の避け技だ。
あとはどこかでカウンターを喰らわせればいいのだが、次々に繰り出される攻撃に圧倒されそのタイミングを掴むことができない。
奴らが疲れてくるのを少し待つか……。
悠長にそう考えていたのだが、こちらの体力も無限ではない。拓人の体にも徐々に乳酸が溜まってくる。
そんな中、規格外の速度で飛んでくる桐生の拳が拓人のあごの先に当たってしまった。首が揺れ次の行動が出遅れる。すると続けざま室井の重量級パンチが顔の脇を掠めた。勢いで頬が切れ赤い血が僅かに飛び散る。
精彩さを欠いてしまった。少し気持ちを落ち着かせないといけない。
一旦身を退き、何とか体勢を立て直そうと気を引き締めるのだが、動きの速い桐生が今度は単独で猛攻を仕掛けてきた。
最初の内は何とか避けることができたが、奴の攻撃は徐々に速くなり、そして遂には横っ面にクリーンヒットを許してしまう。
地面に倒され天を仰ぐ拓人。するとその視線の先に、高く飛び上がった室井の姿があった。まずい。あの高さからの攻撃を喰らったらマジで致命傷。
ネックスプリングで跳ね起きようと足を伸ばしたのだが、その時落下してくる室井が重力を無視するように、突然横方向に吹き飛んでいった。
何が起きた!?
跳び起きてその場を振り返る拓人。するとそこには一人の中年男性が立っていた。ギターケースを背負ったその男は『ワンヒットワンダー』の能力を持つ朝比奈雄二郎だ。
「また、面倒なことしてるみたいだな」
「ヒナ先輩!!」
「何か手伝ってやりたいところだが、もうワンヒットワンダーは打ち止め。これで終了だ」
先程殴り飛ばした室井に目を向ける朝比奈。室井は地面に倒れたまま動く気配を見せない。1発で撃沈したようだ。彼はいつもこういう役回りのようだ。ご愁傷様です。
「いや、面倒な奴を倒してくれて本当に助かったよ。1対1なら絶対に負けねぇ!」
拓人がそう言うと、それは心外だとばかりに桐生が『電光石火』による高速攻撃を繰り出してきた。拓人は『柳に風』でそれを華麗に避ける。
どこかで反撃をしなければならないが、桐生の攻撃は単独でもこちらにその隙を与えさせてくれない。
徐々にギアを上げていく桐生の速度に、拓人の体が悲鳴を上げ始める。まだ氏家も残っている状態なのに、こいつで体力を消耗している場合じゃないのだが……。
常人とは思えない程の速さで繰り広げられる攻防の中、突然ゴーグルの男がその間を割るように吹き飛んできた。
雫にやられたようだ。こちらも負けてはいられない。ここで仕切り直し、今度は俺の先制攻撃を喰らわしてやる!
疾風に乗った勢いそのままに、跳び蹴りを放つ拓人。しかしバチッという音と共に、桐生は目の前から姿を消した。
「だが遅い」
背後から声が聞こえ、拓人の顔が一気に青褪めた。いつの間にかに回り込んでいた桐生は、そこから前に押し出すようなフロントキックを喰らわせた。
背中を蹴られ、つんのめる拓人。その方向には今まさに起き上がろうとしているゴーグルの男がいた。
「うわっ! あぶねっ!!」
思わず前に出した膝が奴の眉間に直撃してしまう。白目を剥いて卒倒するゴーグルの男。うっかりとどめを刺してしまった。
「あーっ!! 山田くん、私の獲物を……」
雫が恨めしそうな表情でこちらを睨んでいる。そうは言われても、今のは不可抗力だからどうしようもない。
「何を話している。まだ戦闘は終わってないぞっ!」
桐生が目にも止まらぬ攻撃で襲いかかる。バチッと音がして姿を消すと、次に現れたのはこちらではなく雫の前だった。そしてもう一度バチッと音が鳴ると、桐生のバックナックルが虚空を切った。何故かその場から姿を消してしまう雫。
「何っ!?」
突然の出来事に唖然とする桐生。
しかし拓人の位置からは見えていた。『電光石火』をコピーし、桐生の背後に回り込んだ雫の姿を。
「制裁っ!!」
雫の振るう特殊警棒が、無防備な桐生の首元に命中する。彼は意識を失ったように膝が崩れると、そのまま前屈みに倒れた。
動きが速すぎてどうしても攻撃を当てることができなかったというのに、雫はいとも簡単に一撃を喰らわせ倒してしまった。彼女は「これでおあいこね」とでも言いたげな顔でこちらに目を向けている。まあ、別にどうでもいいのだが、始めから戦う相手を逆にすれば良かったのではないかと今更ながら思い至る。
拓人と雫は視線を外すと、互いに横で観戦している氏家の顔を睨みつけた。
「これで後はお前だけだな、『獄卒』氏家時生っ!」




