†chapter21 12月のホーリーウォー14
拓人と雫は、VOLTの拠点があるという渋谷1丁目付近を密かに探索していた。
別に喧嘩を仕掛けるためではない。上条も自分たちが渋谷に戻るまでは行動を控えろと言っていたので、一応偵察だけしておこうと思った次第だ。
そしてあわよくば、元ボーテックスメンバーの佐伯と話をすることができれば、こちらとしても益があることだったりもする。
というのは、元Trueの水樹が言っていたのだが、元ボーテックスは謀反を起こす恐れがあるらしく、その仲間割れをうまく利用することができれば、スターダストのような小規模のチームでも勝機を掴めるかもしれないと思ったからだ。
「この辺にあるんだよね?」
他のVOLTメンバーに見つかると厄介なので、古い雑居ビルの立ち並ぶ道を警戒しながら歩いていく。一方の雫はというと、得意のマイペースでただただ呆然と歩いていた。
「うん、そう。魔窟大楼の裏手にあったはず」
「魔窟大楼かぁ……」
雑居ビルの裏手には、地上25階建ての色褪せた建造物が建っていた。
この巨大な廃ビルを見上げる時は、いつも暗雲が空を覆っている。奇跡の能力者、中島和三郎と共に訪れてからしばらく足を運んでいなかったが、相変わらず不穏な空気を醸し出している建物だ。
「だけどさっきの水樹の話が、全くのデマだったらどうするか?」
敢えて誤った情報を流して、戦局を混乱させている。その可能性も充分にあったが、あの時の水樹が嘘偽りを言っているようにも見えなかった。
「ねえ、どう思う?」
返事がないので振り返ってみると、いつの間にか雫の姿がなくなってしまっていた。
「あれ、雫?」
道の端から目の前の十字路の右手側を覗きこんだ。すると正面の丁字路にぶつかったところで、雫がしゃがみ込んでいる姿を見つけた。
こっそりとその場に近づいていく拓人。雫の見ている先には金髪の外国人の看板を壁一面に掲げた中型の建物がある。ここは何の施設だろう?
「今ね、丁度佐伯さんがあの建物の中に入っていったの」
「えー! そこは呼び止めないとっ!」
思わず大きな声が出てしまう拓人。タイミングがは悪かったものの、おかげでVOLTの拠点は発見することができた。
「ふーん。ここがアジトか……」
建物の陰に隠れながらその建物をしばらく監視していると、突然横から野太い声で呼び止められた。
嫌な予感がしつつゆっくり振り返る。そこにいたのは『メラニズム』という漆黒の肌を持つ異形の亜種。氏家時生とその取り巻きたちだった。
「何だお前ら、うちに佐伯に用でもあるのか?」
表情の読み取りずらい氏家がそう言ってくる。この男たち、だいぶ前から俺たちのことを監視していたのか?
「あなたたちは、元瑠撞腑唖々のメンバーね」雫は冷静な口調で質問する。
「ああ、俺らは全員元瑠撞腑唖々だ。以前のチームメンバーでつるんでいても別にいいだろう。合併したとはいえ、やはり派閥みたいなもんは存在するからな」
そう言ってきたのは、『当て身喰い』の能力を持つ室井という奴だ。こいつの胸板はいつ見ても人間離れしている。鉄板でも仕込んでいるかのようだ。
「まあ、そうは言っても元ボーテックスの連中も仲間には違いねえ。何かするつもりなら、こっちも手を出さないわけにはいかねぇのはわかるな?」
室井はそう口にした直後、すぐに拓人に攻撃を仕掛けてきた。攻撃を予見していた拓人は、ハンマーのようなその拳の勢いを風の力で相殺させ、そしてバレーボールでレシーブでもするように彼の拳を跳ね上げた。
「それは単なる口実だろ。街中で普通に出会っても喧嘩しねぇのかお前らは!」
そう啖呵を切る拓人。だが室井は特に表情を変えることもなく、すぐに次の攻撃体勢を整えた。
「違いない。火事と喧嘩は江戸の華だからな!」
そこから幾度となく室井の重い拳が飛んできたが、風の速度で動ける拓人にとってはスローボールを避けるようなものだった。しかし攻撃の通用しないこいつの相手をいつまでもしているのは、はっきり言って時間の無駄だ。他の雑魚から片付けるとしよう。
アスファルトを駆ける拓人はちらりと氏家の顔を見やった。彼は顎を手で押さえ、のんびりと様子を窺っている。お手並み拝見といったところなのだろう。しかし舐めた態度でいられるのも今のうちだ。『疾風』と『同調』。俺たち2人の強さを思い知らせてやるからな。
拓人は風の如く駆け、その横を雫がやはり風のように音を立てて飛ぶ。忍者のような機動力で早速、元瑠撞腑唖々メンバーをそれぞれ2人づつ倒した。
「はっきり言おう。スターダストはVOLTに宣戦布告する!」




