†chapter21 12月のホーリーウォー13
雨の勢いが、先程より少しだけ弱まってきている。
傘の持ち手を握り直した拓人は一度視線を下げ、そしてまた水樹の顔を見定めた。
「八神マコトの能力が実際に『ワータイガー』だったとして、何でお前は俺たちにそれを教えてくれるんだ?」
だが水樹はその質問には答えない。薄く笑みを湛えたまま、拓人の背後に視線を動かす。
「仮にそれがわかったとして、私たちには八神透さんを倒すことは出来ないっていうことでしょ」
拓人の後ろから歩み寄って来た雫がそう答えると、水樹は小首を傾げ、静かに目を瞑った。
「まあ、あなたたちだけでは倒せないですね。しかしながら、VOLTも急ごしらえのチーム。綻びを突けば、幾らでも勝機は見つけられるでしょう」
怪しげに微笑む水樹。どうせ『プロビデンス』の能力で心を読まれてしまうので、拓人は考えるより先に言葉がすぐに出た。
「お前の立ち位置は何なんだよ?」
「私ですか? 傍観者とでも言いましょうか。今はこの激しい時の流れを楽しんでいるところです」
「この戦争の最中、いつまでも傍観者ではいられないだろ」
「そうでしょうか? 自分の周りで戦争が起きていても、いつもどこか他人事でいられる。それが日本人の本質というものですよ」
飄々として掴みどころがない水樹に辟易してきた拓人は、口を一文字に結びむっつりと黙りこむ。代わりに口を開いたのは雫だった。
「VOLTはTrue出身とボーテックス出身と瑠撞腑唖々出身とで、あまりうまくいってないのね」
「それはどうでしょう? しかし、一枚岩とはいかないのも事実。元瑠撞腑唖々の氏家も、元ボーテックスの乾にしても、いつ謀反を起こすとも限りません。先程、ここに元ボーテックスの佐伯が来たのも、MC.BOOをクーデターに利用しようとしているということかもしれません」
「クーデター!?」
「飽くまで、可能性があるというだけの話です」
少し笑っているようにも見える水樹の口元。そのことが真実であるならばとんでもない裏切り行為になるのだが、彼はそれをどこか他人事のように語っている。これで親衛隊長だというのだから驚きだ。
「さっきも言った通り、八神は本当に孤独な男なんです。彼は親衛隊長である私を含め誰も信頼はしていないのでしょう。それこそ己の中にいる別人格でさえも……」
天から降る雨を見つめた水樹は、哀しげにその目を細めた。またも心を読まれてしまった拓人は、自然と水樹と同じような顔になった。そんな哀しげな2人を、雫は涼しげな顔で眺めている。
「じゃあ、私たちは八神を倒すつもりだけど、あなたはそれを止めないのね」
「止めるか止めないかはその時の状況次第ですが、今は戦争中。敵の大将を倒すことに許可など取る必要はないですよ」
それだけ言い残し、水樹はその場を去っていった。
「変な奴だったけど、八神の情報が聞けたのは嬉しい誤算だったな」
拓人は呟きながらスマートフォンを手にする。電話を掛ける相手は、目黒区の児童養護施設に行っている上条だ。
1コールしない内に電話は繋がり「おう、拓人。どうやった?」という、上条の聞きなれた関西弁が聞こえてきた。
「MC.BOOの怒りは相当だ。謝罪は全く受け入れて貰えなかったけど、それとは別件で八神の能力の秘密は知ることができたよ」
「そうなん? じゃあ、結果オーライやん。で、どんな秘密があるん?」
「八神は多重人格者だろ? それでその人格によって使える人外の能力が異なるらしい」
「はぁー!」
感嘆とも驚きとも取れる声がスピーカーから聞こえてくる。
「成程、そういうことなんか。八神透は『テレキネシス』やろ。ほんなら、八神マコトはどんな能力やねん?」
「八神マコトは亜人系『ワータイガー』の能力だとさ。なんか良い攻略法とかある?」
「ワータイガー!? トラキチやな。弱点は何やろ? 『巨人』の能力を持った亜種が天敵かもしれへんな」
「巨人の能力?」
「あー、すまん。それは冗談や。けど、テレキネシスやサイコキネシスよりもわかりやすい能力かもしれへんな。単純な戦闘力勝負になるんちゃう?」
「弱点はないのか?」
「ああ、弱点かぁ。野生動物と戦う時は鼻頭を思いっきりどつくと良いらしいで。その前に八つ裂きにされるやろうけど」
「駄目じゃんか」
「なはははは。まあ、それも冗談やけど、半分はほんまの話や。だから俺が戻るまで勝手な行動したらあかんで。後でまた対策を練ろう」
「ほなっ!」という上条の景気の良い声を聞いて通話を終わらせた。さて、ではこれからどうしようか?
スマートフォンをポケットに突っ込むと、いつの間にか雨が上がっていることに気付いた。拓人は閉じた傘を綺麗に畳み、何かを考えごとをしながら丁寧に傘の紐を閉じた。




