†chapter21 12月のホーリーウォー12
「何か、すんませんでした。俺らも兄貴たちの役に立ちたいんすけど、BOOさんの怒りも相当なもんすからねぇ……」
SOUND CITY渋谷とロゴの書かれた防音扉の前で、キャップ男は軽く頭を下げる。
「いや、気にしなくていいよ。八神の強さの秘密とやらはよくわからないけど、とりあえず真っ向から勝負を挑んでみることにする」
拓人はそう告げると、階段を見上げゆっくりとステップを上った。外から強い雨音が聞こえてくる。そういえば先程傘を投げ捨ててしまっていたが、あれはまだ残っているだろうか?
階段を上りきると、アスファルトの上に大粒の雨が無数に弾いていた。やはり雨が強くなっているようだ。
歩道の脇に転がる広がったままのビニール傘を確認した拓人は、小走りで駆けていきその傘を拾い上げた。内側についた水滴を払い、それを頭上に掲げる。
そこに至るまで、拓人は近くに人が立っていることに気付いていなかった。
それが降りしきる雨のせいで視界が遮られていたためなのかどうかはわからないが、傘を差したその瞬間、すぐ目の前に黒いロングコートを着た男がいることにようやく気が付いた。慌てて一歩身を引く拓人。
「お、お前はVOLTの……」
「ええ、VOLTの親衛隊長、水樹と言います」
そう自己紹介すると、水樹は鋭く眼光を光らせた。
「今しがたSOUND CITY渋谷から出てきたようですが、少し前にうちの佐伯の姿を見ませんでしたか?」
何を聞いてくるのかと思ったら、それはVOLTの身内の話だった。やはりキャップ男が言っていたように、寄せ集めのチームなのでまとまりということなのだろうか?
「ああ、見たよ。マッドクルーのメンバーと険悪な雰囲気になって、そんでどっかに消えてったかな」
聞かれて困ることでもなかったので、拓人は正直に答える。嘘を言ったとしても水樹には『プロビデンス』という、真実を見通す能力があるのでこうしたまでだ。しかしこの男は喧嘩をする気はないのだろうか?
「別に喧嘩をするつもりはないです。私1人に『風斬り』さんと『黒髪』さんの相手は荷が重すぎる」
その言葉を受け、拓人は水樹の顔を睨みつけた。やはり『プロビデンス』を使えば心の中も読みとることができるようだ。
ちらりと背後を見ると、階段を上ってきた雫が傘を差そうとしているところだった。確かに2対1ではVOLTの幹部とはいえ分が悪いのだろうが、こうも簡単に負けを認められては調子が狂ってしまう。
「VOLTの幹部ともあろうものが、そんなこと言って良いのか?」
「幹部と言っても私の場合は名ばかりですから。本来であれば親衛隊長は會長である八神透を護衛しなければならないのでしょうが、彼は孤独な男なのでそれを望みません。しかし孤独であるがゆえに、己の中に別の人格を作りだしたのかもしれませんね……」
1人物語る水樹。しかし拓人には、彼が何故こんな話をするのか理解できなかった。
「意外とお喋りな奴なんだな」
「お喋り? ああ、確かにそうですね。普段はそれほど話をするタイプではないのですが、お喋りついでに風斬りさんに一つ、つまらない話をしてあげましょう」
「つまらない話?」
「はい。風斬りさんは八神透の持っている能力が何か御存じですか?」
「『テレキネシス』とかいう鳴瀬のバッタもんの能力だろ」
相手が喧嘩に対して及び腰であるのをいいことに、強気な発言で攻めていく拓人。しかしそれに対し、水樹は困ったように眉をひそめるだけだった。
「まあ、どっちがバッタものかは判断がつきませんが、共に念力を使用して物体を動かす力なので、似た能力であることは確かですね。しかし八神の力はそれだけではありません。風斬りさんにもう一つお聞きしますが、八神透の別人格、八神マコトの能力が何かは御存じではないですか?」
「えっ、八神マコトの能力!?」
そこで初めて拓人は、八神の強さの秘密についての仮説が思い浮かんだ。まさか、別人格の八神マコトは使える能力も八神透とは異なるということなのか? しかし仮にそうだとしても、敵である俺に対して自分たちのリーダーの能力の秘密を教えてしまうというのも正直解せない。一体こいつは何を考えているのか?
懐疑的な視線で水樹に顔を向ける。しかしそんな拓人の考えも、水樹のプロビデンスの能力で全てお見通しなのだろう。彼は視線を合わせると、口角を上げ口だけで微笑んだ。
「その通りですよ、風斬りさん。渋谷西口連合會VOLTの會長、八神透の別人格、八神マコトの持つ人外の能力は亜人系の中でも上位種と言われる『ワータイガー』です」




