†chapter21 12月のホーリーウォー11
冬の冷たい雨がサラサラと落ちている。
安物のビニール傘を差した拓人と雫は、MC.BOO及び、マッドクルーの連中が潜んでいると思われる場所を目指して歩いていた。
みくるの『千里眼』によって突き止めたその場所は、宮下公園と隣接した場所にある音楽スタジオ『SOUND CITY渋谷』。
ちなみにそのみくると上条はというと、嫌がる裕太を連れてかすみ園の子供たちが避難してる目黒区の児童養護施設に強制送還しているところだ。BOOに会いに行くのも面倒だが、裕太を送り届けるのはもっと面倒だ。なんせその目黒の児童養護施設には、あのキム子もしっかりいるという話だから、こちらの方が遥かにマシなのである。
「……あれ、何かしら?」
隣を歩く雫が呟く言う。傘を上げ前を見ると、目的地と思われる場所の近くで、マッドクルーメンバーのキャップ男とタオル巻き男が、VOLTの佐伯と険悪な空気を醸し出して対峙している。
「ん? これはやばい感じか?」
悠長なことを言っていると、佐伯の様子が怪しく変化していった。彼の持つ『人狼』の能力で、狼人間に変身していったのだ。
「ちょっと待てっ! ストップ、ストップ!!」
傘を投げ捨て、その場へ駆けて行く拓人。佐伯もキャップ男もこちらの出現に驚いていたが、佐伯はすぐにフードを被ると獣のような身のこなしで向かいの道路に飛び出し、そしてそのままどこかへ姿を消してしまった。
「あー、何だ、拓人の兄貴と黒髪の姐さんじゃないですか。もしかして助けに来てくれたんすか?」
悪人面のキャップ男が破顔して人のいい笑顔を見せる。だが隣のタオル巻き男は、相変わらずのドヤ顔。タオルが雨を吸い込んで少し重そうでもある。
「いや、助けに来たわけじゃないけど、アレやっぱりやばい状態だったのか?」
拓人がアレと言ったのは勿論、先程までいた佐伯のことだ。向こうも狼人間に変身し完全に攻撃態勢だったので、それは愚問かもしれない。
「まあ、そうっすね。やばいっす。だいたいあいつら、さっきは仲間になれとか言っておいて、今度は別な奴が喧嘩売りに来てんだから世話ないっすよ」
キャップ男は両手を上げて肩をすくめる。後ろからやって来た雫が、己の傘を拓人の頭上に掲げてくれた。
「あなたたちのことを、恫喝してまでも仲間にしたいってことでしょ」
「いやぁ、違うんすよ黒髪の姐さん。VOLTは所詮寄せ集めのチームだから、まとまりってやつがないんすよ。BOOさんもそう言ってたし」
キャップ男のその言葉を聞き、拓人はここに来た本来の目的を思い出した。MC.BOOから八神透の情報を聞きださなくてはいけないのだ。
「ところで俺ら、裕太……魔術師のこと謝罪しに来たんだけど、MC.BOOに会える?」
「えっ、BOOさんにっすか? いやー、兄貴に言われたら断れないんすけど……」
キャップ男とタオル巻き男が顔を見合わせる。だいぶ困ったような表情だ。
「やばそう?」
「まあ、そうっすね。やばいっす。けど、BOOさんと兄貴たちが和解してくれたら俺らも嬉しいんで、とりあえずどうぞ」
そう言って体の水滴を振り払い、地下に降りて行くキャップ男。タオル巻き男もその後についていく。目的の『SOUND CITY渋谷』はこのビルの地下だ。
階段から真っすぐに伸びる廊下を歩き、丸い窓と重厚なハンドルがついた防音ドアを開けるキャップ男。薄暗い空間の中に大袈裟な音響機器が大量に並んでいた。そしてその部屋の奥にある革張りソファーに、MC.BOOが静かに鎮座している。開いた扉からこちらを睨んでくるBOO。王者のような風格。
「お前……、魔術師の手下だな。何でここにいる」
唸るように言ってくるBOOに対し、拓人は間髪いれず否定をした。
「手下じゃない。だけどまあ、仲間ではある。というわけだから、あんたに謝罪に来たよ」
腰を45度に曲げ、深く頭を下げる拓人。だがBOOは、耳をほじりながら白けた目でそれを見ている。
「つまらねー! くだらねー! マッポは毎日ぐーるぐるってか? 俺の能力の恐ろしさを知って急に謝罪してくるなんて、どっちらけだ。いいか、はっきり言っておくが、俺はお前らの謝罪を受け入れる気は毛頭ねえぞ」
そこまで言われたが、それでも確かにMC.BOOの能力の恐ろしさは目の当たりにしていたので、今の拓人には頭を下げ続けることしかできなかった。
「あんたが怒るのは至極もっともだと思うし、魔術師とけりをつけたいというなら、どこかでその場を設けても構わない」
「むっ、そうなのか? お前は意外と話のわかるやつだな」
拓人の提案に少し驚きを覗かせるBOO。完全にでまかせを言っているだけなのだが、本来の目的が別にあるので、それも致し方ない。
「そこでひとつ相談なんだけど、あんたはVOLTの八神透のことをよく知ってるんだろ?」
そう聞くと、BOOの表情があからさまに曇った。八神に対してもあまり良い感情は持っていないようだ。かすれるように小さく「……まあ、知ってはいる」と声を出す。
「八神は『テレキネシス』の能力を持っているらしいけど、それ以外にも何か強さの秘密があるを聞いた。それが何なのか知っているなら教えて欲しいんだ」
頭を上げた拓人は、BOOを見据えてそう尋ねた。だが彼は奥歯をギリギリと鳴らし、いつまでも顔を伏せている。
「何だそれは? 魔術師との一戦を設ける代わりに、情報を提供しろってか? 何でこっちが条件を突きつけられなけりゃならない!」
「いや、条件とかそういうわけでは……」
拓人が口を濁していると、静かにしていた雫が急に前に出てきた。
「知ってることを教えてって言ってるだけでしょ。早乙女流星ともあろう人が、随分器が小さいのね」
どストレートな雫の暴言を受け、BOOはソファーから立ち上がった。
「何だと……」
その時、扉の近くで待機していたキャップ男とタオル巻き男が慌てて飛んできて、BOOの肩を左右から押さえつけた。
「BOOさん、落ち着いてください! こんな狭いとこで荷電粒子砲放ったら、俺らもマジやばいっすからっ!」
「うるせーっ!! おい黒髪、もう一度言ってみろ。俺は女だからって容赦はしねぇぞ!」
「器が小さい。器が小さい。器が小さい」
1度と言わず3回も繰り返す雫。これはもう交渉決裂だ。
「そこじゃねぇ!! 入れ物の話なんてどうでもいい。けど俺は、本名で呼ばれんのが一番ディスられてる気になんだよっ!」
BOOは近くにあった灰皿を投げつけた。しかし雫はどこからか取り出した特殊警棒で、それを正面に弾き返す。飛んでいった灰皿は、運悪くキャップ男の顔面に直撃した。
MC.BOOの罵声と共に、あらゆるものが飛び交う音楽スタジオ。拓人は身を屈めながら、何でこんなことになってしまったのだろうと、この後会うであろう上条への言い訳を考え始めた。




