†chapter21 12月のホーリーウォー10
「とまあ、そういうことやねん」
今日あった出来事をかい摘んで説明した上条は、カウンターの中にある小さな椅子に腰を下ろした。
今現在、スターダストメンバーが集まっているこの場所は、宇田川町の裏通りにあるカフェバー『スモーキー』。上条と佐藤みくるがアルバイトをしている店だが、現在は戦争中のため営業はしていない。ただ鍵はしっかりと預かっていたので、今は勝手にスターダストの拠点にしているのだ。
「つまり簡単に言うと、次の標的はMC.BOOってことだな」
「いや、全然ちゃうわ」
裕太のとぼけた回答を、あっさり一蹴する上条。カウンターの席でそれを聞いていた拓人は、「はぁー」と小さく息をつく。その横に座る天野雫も同じく溜息のような吐息を漏らした。
「MC.BOOを敵に回して、何か得することでもあるの?」
「別に戦争に参加しているチームでもないし、賞金首でもないから、戦う理由は何もないなぁ。まあ、裕太が個人的に狙われてるだけや」
コーヒーが注がれたマグカップにグラニュー糖を入れた上条は、スプーンを使ってくるくるとかき混ぜた。
「何だよ。仲間なんだから、助けてくれてもいいだろ」頬を押さえながら肘をつき、だらだらと苦言を言う裕太。
「ああ、勿論助けたる。けど、MC.BOOと喧嘩するかいうと、その答えはノーやな」
上条はコーヒーをすすり何やら思案する。考えがあるようだが、MC.BOOとは戦闘しないらしい。まあ、あんなチートレベルの亜種を敵に回すのはどう考えても得策ではないだろう。
「じゃあ、スコーピオンとVOLTのどっちに照準を絞るの?」
雫にそう聞かれると、上条は小さな椅子から立ち上がった。
「相手はどっちでもええんやけど、照準を絞るならVOLTやな。ここは折角やし、八神透に勝負を挑もうと思うとる」
八神透という名前が出たので、背後の席に座っているみくるに視線を少しだけ動かす。2人は、同じ児童養護施設で育った幼馴染だと聞いていたが、特に彼女は何の反応も見せなかった。
「八神透のB-SIDE時代を知る人は、あまり彼のことを語りたがらないみたいね……」
口を濁すように雫が言う。それは八神があまりにも危険な奴だったからということだろうか?
「そうなんや。なあ、みくるちゃん。八神って、どんな能力なん?」
後ろの席に座るみくるに声をかける上条。みくるは顔をしかめてから、眉にかかる前髪を横に流した。
「透の能力は『テレキネシス』。鳴瀬の『サイコキネシス』と一緒で、意思の力で物体を動かす能力よ」
「ほう、成程。いわゆる念力いうやつやな。ところで拓人は、サイコキネシスとテレキネシスの違いが何かわかるか?」
上条に聞かれるも、よくわからない拓人は首を横に振った。一緒じゃないのか?
「まあ、拓人はアホやろうから特別に教えたる。サイコキネシス言うのは、精神の力でエネルギーを発生させて物体を動かす能力や。ほんで、テレキネシスは物体に対して自身の念を送り込むことによって移動させる能力……ん? 自分でも言ってて、ようわからん感じになってきたな」
頭を掻く上条。勿論拓人も、その説明では理解できない。
「方法は違うけど、両方とも手を使わずに物体を動かす能力なんだろ? 見た目が変わらないなら、同じだよ、同じ!」
「まあ、そうやな。けどよく考えたらこれは好都合や。八神のことを仮想鳴瀬として戦えば、B-SIDE攻略の鍵になるかもしれへん」
「そうかもしれないけど、八神透の強さはそれだけじゃないって話を昔、琉王から聞いたことがある」
後ろの席から、みくるがそう口を挟んだ。琉王は八神より1つ年下で、児童養護施設にいたころは仲が良かったということだ。
「へー、琉王さんから? 他にどんな強さがあるの?」
そう聞いたが、みくるは俯いて小さく首を振った。
「それは私にもわからない」
未だ謎の多い八神。話したがらないということだが、昔を知る者に聞かなければ彼の本当の強さはわからないのかもしれない。
「まあ、『暴露』の能力で調べられるなら調べたるけど、このご時世やし、出会った時には即戦闘になるやろうなぁ」
「それじゃあ、対策が取れないじゃん」
「うん。八神のB-SIDE時代を知ってる奴って、誰やろ? 雫ちゃんはどう思う?」
上条が聞くと、雫は伏せ目がちにして横に目を流した。
「そうね。昔からあるチームのリーダークラスなら、何か知ってる人もいるんじゃない?」
「有名チームのリーダークラスかぁ。それこそ鳴瀬とか、不破征四郎とか、氏家時生、松岡千尋……」
幾つかの名を口に出す上条。しかし、いずれも話を聞けるような相手ではない。
「じゃなかったら、後は早乙女流星さんくらいかな」
「さおとめりゅうせい?」
雫の言葉に対し、思わず声を揃える拓人と上条。嘘みたいな名前だ。
「誰やその、大衆演劇のスターみたいな奴は?」
上条がそう言うと、雫は珍しく不機嫌そうに眉をひそめた。
「さっきから話に出てたじゃない。MC.BOOの本名よ」
「BOOッ!?」
再び声が揃う。別にブーイングがしたかったわけではない。確かにしたい気持ちはあったが。
「MC.BOO、苗字早乙女いうんか? 嘘であってほしいけど、まあそれはそれとして、MC.BOOもちょっと今は時期がよくないなぁ」
上条の視線が裕太の顔に向けられる。
「何だよ。僕は絶対に謝らないぞ!」
「わかっとるよ。反抗期なんやろ。別に謝らんでもええよ」
「おい、わかったような口ぶりで子供扱いすんな!」
「まあ、裕太が行っても火に油を注ぐだけやから、ここはひとつマッドクルーのツテを使って、拓人くんがMC.BOOに会ってきてくれるか?」
上条からの突然のご指名に、戸惑いを覚える拓人。
「俺が? けど、マッドクルーの居場所も連絡先も知らねぇぞ」
「それは大丈夫や。うちにはみくるちゃんがおるから」
1人、後ろの席で静かにしていたみくるのオッドアイが大きく揺れ動く。そう彼女は『千里眼』という、目視することが不可能なところまで見通すことができる能力の持ち主。それを使えば渋谷にいる人間の居場所は、すぐに発見することができるのだ。
「マッドクルーと、MC.BOOね。良いわよ」
二つ返事で千里眼を開始するみくる。マッドクルーの連中に貸しを作るのは嫌だなあ。あまり気が乗らない拓人は、頭の後ろで手を組み、千里眼を行うその様子を静かに見守った。




