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星屑のシャングリラ  作者: 折笠かおる
†chapter21 12月のホーリーウォー
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†chapter21 12月のホーリーウォー09

 「こんなくだらない能力に振り回されていたのか俺たちは……」

 ゆっくりと前に歩を進める室井は、湧き上がる怒りを抑えるようにしてそう呟くと、目の前にいる裕太の横っ面をフルスイングで殴り飛ばした。


 体の軽い裕太が宙を舞う。

 『疾風』の能力で駆けた拓人は、倒れる裕太をぎりぎりで受けとめた。


 「おい、お前。子供相手に何してくれてんだ?」

 裕太の体を地面に寝かせた拓人は、瞳の奥に研ぎ澄まされるような感覚を覚えた。これは以前、代々木体育館と宮下公園での戦いで起きた『スターイエロー』という、瞳が黄色く輝きだす後天的異形の初期症状。


 こうなったら、ここにいる全員をぶちのめし、スターダストの恐ろしさを渋谷中に知らしめてやろうか?


 突然、凶暴な考えが脳裏を過ぎる。

 この後天的異形は性格すらも変化させてしまうのだ。今すぐにでも室井に跳びかかりたい拓人。だがそれをすることがどうしても出来なかった。真横から桁違いの殺気を感じていたからだ。殺気を放つ人物。それはMC.BOOエムシーブーだ。


 「俺様の獲物を横取りするとは、大した度胸だ。だったら遠慮なくぶつけてやる俺のスペシャリティ。ランクF、チャージ完了!遂に登場! 行くぜ、『荷電粒子砲かでんりゅうしほう』っ!!」

 リズムに乗ってそう言うと、BOOブーの手のひらが白く光り、大きく膨れ上がった光から室井に目掛けて真っすぐに怪光線が伸びた。


 まばゆい光と共に、一瞬にして吹き飛ぶ室井。10メートル程後方に転がると、彼はそのままぐったりと仰向けに倒れた。やばすぎる致命的ダメージ。


 しかし『当て身喰い』の能力を持つ室井に攻撃が通用するのは、それこそ朝比奈雄二郎ぐらいだったはず。では今のBOOブーの攻撃が『ワンヒットワンダー』並の威力があったということか。


 周りからは「死んだ?」「死んだろ?」という声が聞こえてくる。確かに常人なら間違いなく死んでいるだろう。


 「これがBOOブー荷電粒子砲かでんりゅうしほうか。初めて見たけど、意外と大したことないんやな」上条は能天気に言う。

 「いや、危険すぎだろ! 裕太の奴、とんでもない奴に喧嘩売ったな」

 一連の出来事に虚を突かれた拓人の瞳は、元の黒目に戻ってきていた。薄れていく闘争心。


 「せやな。とりあえず、BOOブーが再攻撃するには時間がかかりそうや。俺らは裕太を連れて、今のうちに逃げようやないか」

 上条とそんなことを話していると、周りから「生き返った!」「ゾンビメンッ!」などという言葉が聞こえてきた。どうやら室井が立ち上がったようだ。


 「……ああ、ガチで死にかけた。お前ら、MC.BOOエムシーブーには絶対手を出すな。あいつの相手してたら命が幾つあっても足りねえ。今は邪魔な魔術師を狙うぞ!」

 室井がそう叫ぶと、VOLTボルトのメンバーが一斉に裕太の方を睨んだ。だが、その間を割り込むように何故かBOOブーが立ちはだかる。


 「魔術師には指一本触れさせねぇ。本当に死ぬ覚悟がある奴だけ、攻撃してこい!」

 倒れる裕太を守るBOOブー。これはどういうことなのか?


 「どうして魔術師の肩を持つんです? メッキの剥がれた彼は、倒すのに値しないとでも言うのですか?」

 水樹に言われ、BOOブーは鼻息荒く言い返した。

 「うるせぇ! 魔術師の魔法が幻術なのは部下に聞いて知ってるんだよ」

 乾燥していた渋谷に、ぽつぽつと雨粒が落ちてきた。寒い季節だが、雪が降るような寒さではない。


 「あいつ、知ってたのかよ」拓人が独り言ちる。

 確かに言われてみればマッドクルーのメンバーは、上条が『暴露』の能力によって魔術師の能力が見破ったその場に居合わせていたのだから、裕太の能力が『幻術』だということは知っているはずだ。ではBOOブーは、幻術の黒い炎をわざと恐れている振りでもしていたのだろうか?


 「とにかく魔術師に喧嘩売っていいのはこの俺様だけだ。文句があるなら好きなだけ相手になってやる」

 BOOブーは裕太を守るように腕を広げる。


 「BOOブーさんがそう言うのなら、今日の喧嘩はこれくらいにしておきましょうか。ねぇ、スコーピオンの東さん」

 水樹にそう声をかけられると、東はどこか不貞腐れたように口を曲げ、そして地面に唾を吐いた。逆立っていた自慢の髪の毛が、雨に濡れて少ししおれてきている。


 「VOLTボルトの幹部が吹き飛ぶところも見れたし、今日はこのくらいにしておいてやる。BOOブーにやられた傷をせいぜい癒しておくんだな……」

 そう言って去っていく東。スコーピオンの連中は東の後に続き、彼らの拠点のある神南じんなんの方に歩いて行った。


 VOLTボルトの連中もまた渋谷駅の方向に移動し始めているが、1人水樹だけはその場に残り、BOOブーに向かって声をかけた。

 「BOOブーさん。我々の會長かいちょう八神透は、あなたのことを仲間にしたいと考えているようですよ」

 「ふん、八神か。懐かしい名前だが、あいつの仲間になる義理はこれっぽっちもねえ!」


 はっきりとBOOブーに振られてしまった水樹だったが、彼は顔色を変えずにただ「八神さんには、そのまま伝えておきますよ」と返し、他のメンバーの後を追っていった。


 残された裕太を含むスターダストメンバーと、MC.BOOエムシーブーを含むマッドクルーメンバー。

 今の裕太は、室井に殴られた頬が痛むのか辛そうな顔で倒れている。俺たちだけの力で、BOOブーの奇っ怪な攻撃から裕太を守ることができるだろうか?


 「おい、魔術師! 今のお前とやりあうのはフェアじゃねぇ。何か別の形で決着をつけてやるぜ!」

 テンポよくそう言い、BOOブーはその場で踵を返した。どうやら今日は喧嘩しないようだ。だいぶ怒っていると聞いていたが、これは助かった。


 「じゃあ、兄貴たち失礼します!」

 こちらに向かって深々と頭を下げるマッドクルーメンバー。そしてそれに対し、ご立腹のBOOブー

 「何でお前ら、あいつらに敬語使ってんだっ!」


 「いってっ!! BOOブーさん、違うんす。俺ら魔術師がスターダストのメンバーになってること知らなかったんすよ!」

 「言い訳無用! 俺が入院してる間にちゃんと調べとけって言っただろ!」

 「いや、そうなんすけどね……」


 小雨のぱらつく中、BOOブーとキャップ男たちは、そんなやりとりをし狭い路地に姿を消していった。

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