†chapter21 12月のホーリーウォー04
「一難去って、また一難やで……」
隣に座る上条がそう呟く。しかしここに居ればとりあえず難はないのではないだろうか?
「確かに今日は血の気の多い連中ばっかりだな」
「ホンマや。まあ戦争はすでに始まっとるんやから、当然っちゃあ当然やけどな」
拓人と上条は5階建てのビルの屋上から、下の道路で起きている争いを眺めている。拓人は高所恐怖症のためあまり端の方には近寄れないが、上条は基本アホなので下に向かって足を放りだし座っている。
「あー、兄貴たち、こんなとこにいた!」
屋上の階段室からマッドクルーのキャップ男とタオル巻き男が姿を現す。何やら路上で大喧嘩が行われていたので、『疾風』の能力を使用しひっそりと近くの屋上に跳び上がったのだが、こいつらが一緒にいたことをすっかり忘れてしまっていた。まあ、助ける義理もないのだが。
「やばいっすね。B-SIDEに出くわしたと思いきや、今度はスコーピオンとVOLTじゃないですか。マジでやばい」
鳴瀬にも怯まなかったキャップ男だが、さすがにこう立て続けだと危機感を抱いているのか、「やばい」を連呼している。総勢20人程の大喧嘩。確かにやばい状況だ。
「なあ、拓人。あれ見てみ」
下を指差す上条。少し離れた位置から覗き込むと、争いの中心にスコーピオン副長の東正親が何やら具合の悪そうな人と戦っているのが見えた。
「副長の東か。相手してるのは誰だ?」
「VOLT側は『月狂』乾信吾いう奴や」
「乾信吾? 賞金首か?」
『月狂』という言葉はちょっと覚えていないが、通り名が付いているということはつまりそういうことだろう。
「せや。乾はボーテックス時代は頭張っとったんやけど、VOLTになってからは副長を務めとるみたいやな」
「成程。ということは、副長同士の対決ってわけか」
乱戦状態であったが、その2人の戦闘の周りに近づく者は両チーム共にいなかった。完全にタイマンの対決。『激情』の能力により髪の毛を逆立てながら怒りにまかせ、拳を振るう東。そして乾は具合こそ悪そうなものの、東の攻撃を的確にかわし続けている。
「ちなみに乾の能力は何なんだ?」
そう尋ねると、上条は自分の出番だとばかりに「ゴホン」と咳払いした。
「乾の能力は『ルナティック』。月の力を借りて、僅かに重力を操ることができるんや」
「重力を操る? やばいな。強キャラ臭がぷんぷんするじゃん」
「まあ、手強い能力やけど、マイナス面もあって精神が衰弱してまうのと、月が出てないと本域が出せないみたいや」
「今は昼間だから、乾が不利ってわけか……」
「いや、そうでもないで。そこがスコーピオンにとっての誤算だったんやなぁ」
そう言って空を見上げる上条。合わせて拓人も上を見上げると、薄い青空の真ん中に白い月が浮かんでいた。
「まあ、昼間でも月はでるか」
拓人がそう呟くと、東の拳がようやく乾の腹に直撃した。だがあまり効いている感じはしない。
「乾は東の体重を軽くして、ほんで自分の体重は重くしとるんやな。どうにも体調不良っぽいけど、あいつは多分絶好調やで」
「そうなのか?」
見た目からは想像もつかないが、乾はあれで本域らしい。ここから反撃が来るか?
乾は少し膝を屈めると、重力を無視して高く跳び上がった。10メートル、20メートル、30メートル。
5階建てビルの屋上から眺めていた拓人たちだったが、乾はいつの間にか自分たちよりも高い位置に跳び上がっていた。奴もこちらの存在に気付いたようだったが、そのまま一気に地面に向かって下降していった。
高い位置からの飛び蹴りを放つ乾。そう思ったのだが、彼は何をするでもなくそのまま地面に着地してしまった。不審げに眉をひそめる東。
「おい、そこの屋上にいる輩は、お前らの仲間か?」
「あ? 屋上?」
乾の言葉を受け、東は目の前のビルを見上げる。慌てて身を引っ込めたが、足を放りだして座っている上条の姿は間違いなく見られてしまっただろう。
「アカン。東にも見つかってもうた」
振り返り坊主頭を掻く上条。折角『疾風』の能力で難を逃れそうだったのに、もっとしっかり反省してほしい。
「こうなったら、やり合うしかなさそうだな……」
決意を込め、下の乱闘を見下ろす拓人。屋上に吹いている風は公園通りを駆け下り、渋谷の谷を抜けていった。




