†chapter21 12月のホーリーウォー02
「やばいっすね、拓人の兄貴。BOOさんのことマジで知らないんすか? 俺ら『マッドクルー』の実質的なリーダーっすよ」
拓人は先程の会話の中で出てきたBOOという人物が誰のことを指しているのかわからなかったので、ほんの軽い気持ちで「誰そいつ?」と聞いてしまったのだが、それに対しキャップ男は少しキレ気味にそう言い返してきた。何か、無知でごめん。
「MC.BOO言うたら、アマチュアヒップホップ界では割と有名な奴なんやで」
横にいる上条がそう教えてくれる。そいつはミュージシャンなのか? マッドクルーのリーダーがそんな奴だったとは思わなかったので素直に驚く拓人。彼らの見方が少しだけ変わった。
「ヒップホップ好きなのにBOOさん知らないとか、モグリにも程がありますよ」
「いや。俺、別にヒップホップ好きじゃないし」
拓人が反論すると、キャップ男は不思議そうな顔で口を開いた。
「いやいや。拓人の兄貴がやってる片足裾上げファッションも、B系のスタイルっすからね」
キャップ男に指摘され己の右の裾に目を移す拓人。これヒップホップカルチャーなのか?
「右足の裾上げって、自転車のチェーンが絡まないようにやってるだけだろ?」
「全然違うっす。片方の裾を上げるのは、拳銃を隠し持ってないぞっていうアピールの為っすよ」
「何それ、超ダセーじゃんっ!!」
高速でロールアップした裾を手で戻す拓人。このくそ寒い中我慢してやっていたのに、そんな意味があるとは思わなかった。過去に戻って、このファッションをやりだし時の自分を殴ってやりたい。
「つうわけで、BOOさん近々退院するらしいんで、兄貴たちもよろしくお願いしますよ」
急に首をへこへこ動かして訴えかけるキャップ男。よろしくというのは、仲良くしろということだろうか?
「何や、MC.BOO入院しとったん? そないこっぴどくやられたんか?」
上条が聞く。そのBOOとかいう奴は魔術師のことを根に持っていると言っていたが、入院するほどやられたのなら、そりゃあ根に持つに違いない。
「徹底的にやられたんすよ。まあ、自業自得みたいなとこもあるんすけどね」
キャップ男がそう言って振り向くと、目が合ったタオル巻き男がドヤ顔のまま頷いた。BOOはリーダーなのに慕われてないのだろうか? まあ、ウチのリーダーも別に慕われてはいないし、組織の長とは得てしてそういうものなのかもしれない。
「そんなわけで兄貴たち、魔術師見つけたら連絡貰えますか? 俺らだいたいこの辺りぶらついてるんで」
「わかった、わかった。魔術師見つけたら連絡するわ」
安請け合いをする上条。お前マッドクルーメンバーの連絡先、絶対に知らないだろ。
「そんじゃ、失礼しまーす。チース……?」
マッドクルーメンバーがそう言って踵を返した丁度その時、辺りに突然不穏な空気が流れ出した。警戒を強める拓人。
前を見ると坂道になっている公園通りの下の方から、ブルーのカラーバンドを付けた3人組が歩いてきていた。肉食獣のように目をぎらつかせた男たち。
「ああ、B-SIDEの連中か……」
キャップ男が呟く。そう彼らの目の前から来るのは、三大勢力の1つ、ブルーがチームカラーのB-SIDEであった。3人とも知った顔だ。左にいるのが茶髪の男が親衛隊長の三浦蓮。右にいるツーブロックリーゼントの男が副長の辻堂辰也。そして中央にいる長髪にメンズカチューシャを付けている男が、他でもないB-SIDEの頭、鳴瀬光国だった。
「な、辻堂。昼間っから散歩したら、面白い奴らと会うこともあるんだよ」
鳴瀬は口髭を親指で撫でながら薄笑みを浮かべ、そう呟いた。
「つまらない奴らの間違いじゃないですか? なあ、蓮」
一方の辻堂は顔を強張らせたまま、こちらに睨みを利かせている。
「いや。僕にとっては面倒な奴らって印象ですけどね」
代々木体育館の事件と魔術師の一件で絡んだことのある三浦は、気だるそうに首を回した。多分、本音だろう。
「まあ、そう言うな。俺にとっちゃあ、面白え奴らなんだよ。特に1人は久しぶりだしな。確か『人間の瞳』の事件以来だったな、風使い。いや、『風斬り』山田拓人!」
鳴瀬は拓人の顔を真っすぐに見据えると、街中に響くかのような声でその名を呼んだ。




