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星屑のシャングリラ  作者: 折笠かおる
†chapter20 人の消えた渋谷
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†chapter20 人の消えた渋谷31

 「とうとう決着がついたわね、『女郎蜂じょろうばち』松岡千尋。ALICEアリス夢魔サッキュバスの勝負はウチらの完全勝利だから!」

 疲れて寝ていたはずの瀬戸口がいつの間にか中央に立ち尽くし、主人公のような堂々とした姿でそう宣言してしまった。ちょっと待て、それは俺の仕事だ。


 「いや、ALICEアリスの功績も認めなあかんと思うけど、ほぼほぼ戦っとったのは俺らスターダストやで」

 「はぁ? バッカじゃないの? あんたここに居ただけで、何にもしてなかったじゃない!」

 お怒りの瀬戸口。ここでは確かに何もしていないのだが、ここに至るまでに色々面倒なことに巻き込まれていたのだ。


 「いやいや。俺かて、山みたいな大女とやりあったり大変やったんやでぇ」

 そう説明することにより、忘れかけていたあの女とのキスの味が脳裏に蘇る。再び鳴り響く祇園精舎ぎおんしょうじゃの鐘の声。


 「大女って、誰? 幹部?」

 「いや、幹部ではあらへんけど……」

 「じゃあ、話は終わりね。ウチらが倒したのはクラウンとクレストガールズ。2人とも幹部だから!」

 腕を組み、自信満々にそう言い放つ瀬戸口。駄目だ。自分に絶対的な自信を持っている女性に口喧嘩で勝つなどということは、常識的に考えて到底不可能なことなのだ。


 「何を勝手に勝った気になってるの? 言っておくけど、こっちにはまだ『風斬り』がいるのよ! 

 それまで黙っていた松岡が、わなわなとソファーから立ち上がった。ほぼ勝負はついているのだが、人質はまだ向こうの手の中にあるのだ。


 「さあ、私の目を見なさい。あなたは私の虜になるのよ」

 松岡は催眠術のように拓人に暗示をかける。彼女の『魅了』の能力は、誘惑によって人心を操る術なのだ。


 猿ぐつわのような拘束具を口にはめられ苦しそうな顔をしている拓人だったが、松岡の術にかかると目がとろんと半開きになってきた。簡単に魅了されてしまったようだ。


 松岡は笠原の『束縛』の能力によってつけられた透明の紐を解き、拓人のことを解放した。拓人は喜びの表情を浮かべ、松岡に深く頭を下げる。


 「行け、風斬り! こいつら全員、叩き潰しなさい!」

 その言葉を受けると、拓人の目に光が宿った。これはまずい展開か?


 身構える上条のすぐ横を、何者かが素早く通り過ぎた。それはおだんごヘアの女、西蓮寺美奈だ。彼女は一足飛びに駆けると持っていた木刀を振りかぶり、拓人の側頭部目掛けて思い切り打ち抜いた。鈍い音の後、白目を剥いて倒れる拓人。


 「峰打ちやから、大丈夫や」

 西蓮寺は言う。いや、木刀に峰打ちも糞もあるのだろうか? 今回の拓人は、正直良いとこなしだ。


 怒りなのか、はたまた恐怖からなのかはよくわからないが、突然雄叫びを上げる松岡。理解不能な激情。そして、叫ぶ松岡の傍らには、黒く武骨な特殊警棒を持った雫が不気味に立っていた。いつになく険しい表情。

 「松岡さん。あなたは絶対に許さない!」


 「許すも許さないも、今のはお前らの仲間がやったことでしょ! 大体、そんな電池切れのスタンバトンにびびるとでも……ギャンッ!!!」

 わめく松岡の背中に、雫は特殊警棒を叩きつけた。飛び散る光。財前との戦いで、電池が切れていたような気がしていたのだが……?


 「切れた電池は、振ると少しだけ復活する」

 特殊警棒を縦に振りながらそう説明する雫。電池って、そういうもんだっけ?


 松岡が倒れると、彼女が座っていたソファーの横にいるFCこと嶋村唯の元に、瀬戸口と逆月が歩み寄った。

 「FC、FC!」


 呼び掛けられると苦りきっていたFCの顔が、徐々に柔らかいものに変化していった。松岡が意識を失い、彼女にかけられた『魅了』の効力が解けたようだ。

 「あれっ? グッチ、ツカサ……」

 だがそれだけ口にすると、またFCは苦々しい表情を浮かべた。


 「FC、今までのこと覚えてる?」

 瀬戸口にそう聞かれると、FCは小さく極めてゆっくりと頷く。

 「ごめん。私、皆に迷惑かけたよね……」


 「バッカじゃないの? 迷惑なんてこれっぽっちも感じてないから。むしろ夢魔サッキュバスを潰す、良い口実になったくらいだし。ねぇ、ツカサ?」

 瀬戸口が言葉を振ると、逆月は「そうそう」と何度も頷いた。こいつらギャルのくせに、中々仲間思いな連中だ。


 「けど、ミーナさんにまで迷惑かけたよね?」

 FCは顔を伏せ申し訳なさそうな表情で、ちらりと西蓮寺に視線を送った。その感じから、彼女も西蓮寺が元殺し屋だということを知ってしまっているようだ。


 西蓮寺は難しい表情を浮かべ、3人の近くに歩み寄る。

 「なぁ、FC。ALICEアリスには、新しく掟が出来たのを知っとるか?」

 「掟?」

 「せや。ALICEアリスの掟、第2条、仲間のピンチは何が何でも皆で救うこと!」

 眉を寄せていた西蓮寺は、そう言うと目を細めビリケンさんのような表情になった。世界中で愛されている、幸福の神様。


 「何それ? 第1条も知らないんだけど……」

 FCは目に薄らと涙を浮かべ、そう聞いてくる。


 「第1条は何やったっけ?」

 「えっ、第1条? ツカサ覚えてる?」

 「いや、覚えてないし」

 先程ビルに入る前に考えたはずだが、見事に3人とも覚えていなかった。勿論、上条も覚えていない。いい加減な掟だ。


 「まあ、一番しんどかったんは天野さんやけど、別に迷惑やとは思ってへんやろ?」

 西蓮寺に聞かれると、雫は口をへの字にしてこくりと頷いた。

 「私は財前さんを倒せたからそれで満足。あなたの『インクリーズ』にも助けられたし」


 ここに集まった面子は、それぞれが各々の目的で夢魔サッキュバスと対峙していた。朝比奈とエリックにしても、それは例外ではない。


 「これで夢魔サッキュバスも壊滅か。この少人数で倒すとは大した奴らだよ、実際」と朝比奈。

 「俺の能力をコピーしなかったのは気にいらないが、まあ解決したからいいか」とエリック。


 「で、この人たちどうするの? 区役所に連れていく?」

 身を屈めた雫はそう言って、ぴくりともしない松岡の頬を指で突っついた。そう松岡千尋は渋谷区の賞金首だから、区役所に連れていけば懸賞金が貰えるのだ。


 「いや、こんな状況やから、区役所ももう機能してへんやろ。とりあえず警察に連絡して財前だけ捕まえて貰ったらええんちゃう?」

 「そうね。こっちも奪われたものは取り返したし、あんたらが良いならこっちもそれで構わないわ!」

 上条の言葉に同意する瀬戸口。珍しく意見が合ってしまった。少々早いが、明日は雪かな。


 「それでは後処理は我々に任せてください。君たちは渋谷に帰ってゆっくり休むといい」

 背後で息を潜めていた白面の武人が、そう言って前に出てきた。終始謎の行動を取る仮面の武人。争いも終わり余裕が出来た上条は『暴露』の能力を使い、鼎武人ディンウーレンの正体を探ってみた。


 「ああ、成程。お前ら居らんと思ったら、こんなことしとったんか?」

 その仮面の裏にある顔は、皆も良く知っている人物だった。だが白面の武人が人差し指を口の前に立てたので、この場では黙っていることにする。


 「てか、あんたらの立ち位置マジで何なの? 全く信用できないんですけど」

 鼎武人ディンウーレンにウザ絡みしてくる瀬戸口。上条はそれをぐっと押さえ込んだ。

 「大丈夫や。この人らは、俺らの味方や。夢魔サッキュバスは倒したんやし、今日の所は渋谷に帰ろうや。な?」


 納得のいっていない顔をしていた瀬戸口だったが、やはりこれ以上の争いはしんどいようで、振り返ると逆月、FC、西蓮寺と共にエレベーターの方に歩いて行った。朝比奈、エリックも後に続く。


 上条は倒れている拓人を背負うと、未だにうずくまる松岡と財前に目を向けた。

 「夢魔サッキュバスもこれで終わりやな」


 目の前にいた白面の武人は、小さく頷きこう返してきた。

 「夢魔サッキュバスを倒したことで、スターダストの名は渋谷中に広がることでしょう。それがこの戦争にどう影響するか? 我々はスターダストの活躍に期待してますよ」


 「名を上げることは元々俺らの望んでたことやしな。今年中に渋谷のてっぺん狙うつもりやから、あんたらもどこかで応援しといてくれや」


 シニカルな笑みを浮かべきびすを返す上条。現在の渋谷の状況を考えて、今日のような抗争がしばらくは続くことだろう。

 だが女同士の争いに首をつっこむのは、もうこれっきりにしたいものだ。そう心に刻み、上条はフロアを後にした。


  ―――†chapter21に続く。

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