†chapter20 人の消えた渋谷30
電撃による激しい光と耳障りな音が、無機質なフロアに走りまわる。
「やっ! やっ!!」
珍しく声を上げ攻撃を繰り返す雫。対する財前は、その特殊警棒による電流攻撃を絶縁体の付いた日本刀で華麗に捌いている。だがやはり、完全に電気を防げているわけではないようで、不快な顔を作りながら財前はその日本刀を振るっていた。
この流れで行けば、『吉祥天女』に勝利することが出来るのではないだろうか? そんな空気が流れ始めると、苛立った松岡がソファーから立ち上がり、前に向かって大きく声を上げた。
「何を逃げまわっているの財前! あんたはそれでも殺し屋なのっ!? 小娘1人に手こずってる場合じゃないでしょ!!」
そしてむっつりとした顔でソファーに座り、松岡は爪を立てて頬を掻いた。完全に平常心を失っている。彼女の思惑も大きく当てが外れてしまっているようだ。
「松岡もだいぶ焦っとるようやな」
横にいる西蓮寺にそう言われ、上条は「せやな」と頷いた。
それもそのはず。松岡はこの戦闘中、ずっと『魅了』の能力を使いこちら側を誘惑し続けていたのだが、誰一人、夢魔側に寝返るものがいなかったからだ。
では何故、上条たちに『魅了』の能力が効かなかったのか? それは戦闘中の雫が『同調』で『魅了』を使い、松岡の『魅了』を相殺させていたからだ。しかし松岡はそのことに気付かない。気付いているのはそれをしている雫本人と、『暴露』の能力を持つ、上条だけであった。
「ほんまに雫ちゃんの力は底が見えへん。いくらFCの『インクリーズ』で能力が増幅されとるとはいえ、ここまでセンスがあるとは正直思ってなかったわ……」
命懸けの戦闘をしながらも複数の能力を同時に使いこなし、こちら側のケアも怠らない雫のその妙技に上条は舌を巻くしかなかった。本当にこちらが手を出す必要はないのかもしれない。
「やっ! やっ! やっ!!」
尚も続く雫の電流攻撃。防御することしかできない財前は、直撃だけは避けようと必死でそれを防いだ。
緊迫感のある光と音に支配されたフロア。だがしばらくすると、その緊迫感が何故か薄れてきた。光と音が決定的に弱まってきたのだ。これは一体?
カチカチッ。カチカチッ。
雫は確かにスイッチを入れているのだが、何故かそれに対し反応を示さなくなってしまった特殊警棒。ここで電池が切れてしまったようだ。
ほっとしたように肩を落とす財前。
「折角の切り札だったみたいだけど、弱点はどんなものにもあるものよね」
幾度となく死線を越えてきた財前だからこそ、冷静にスタンバトンの欠点を見抜いていたのかもしれない。ここからは彼女が攻める番だ。
待ち切れぬとばかりに財前は姿を消した。そして瞬間移動のように雫の右横に現れ日本刀を振る。だが雫は戦いの中で財前の攻撃パターンを完全に読み切っていたようで、特殊警棒を掲げ斬撃を見事に防いでいた。奥歯を噛みしめる財前。
次に姿を消したのは雫の方だ。疲労で精彩さを欠いていたのか財前は、振り向きざま焦っているように日本刀を横に薙いだ。しかし背後に雫はいない。再び彼女が現れたのは、財前の頭上の位置だった。
「やああああぁぁっ!!」
腹の底から声を出しながら、雫は財前の背中に渾身の攻撃をくわえた。電撃のない通常攻撃だったが、たった一振りのその攻撃を受け、財前は驚くほどの勢いで地面に叩きつけられそして大きく床を跳ねた。そして地面に突っ伏すと、そのまま彼女は意識を失った。
「あれは俺の……?」
背後にいた朝比奈が静かに声を上げる。そう、雫が放ったその一撃は、朝比奈雄二郎の持つ全ての力をその一撃に込めるという『ワンヒットワンダー』の能力だった。
肩で息をする雫は倒れる財前の傍らに近付き、そして持っている特殊警棒を彼女の後頭部に向けた。
「あなたは勘違いしていたみたいだけど、私の切り札は常にこの『同調』の能力だから」
一瞬だけ静まり返った後、歓喜が湧き起こるスターダストサイド。残る敵は松岡千尋ただ1人。もはや勝負はついたと言っても、過言ではないだろう。




