†chapter20 人の消えた渋谷27
瀬戸口と逆月は『瞬間移動』と使い、岡埜と大和をどこへ連れていったのか? その場で見ていた者たちにはわかるはずもないのだが、『暴露』の能力を持つ上条には、瀬戸口が作戦Zと言いだした時点で何をするかある程度理解していた。簡単に説明するとこういうことだ。
瀬戸口と逆月はがっちりと腕を組み、岡埜と大和にぶつかっていく。そして2人を掴むと瀬戸口は『瞬間移動』で4人まとめて皇居の上空にテレポートし、敵だけをお堀に落として後は逆月の『空中浮遊』で瀬戸口を掴んだままゆっくり降下し、再び『瞬間移動』でこのフロアに戻ってきたという流れ。
投げ技で勝負しろと助言したかもしれないが、まさかそんな所に投げてくるとは想像できなかった。女は本当に恐ろしいと、再認識する上条であった。
「本当に役に立たない娘たちねっ! いいわ、鼎武人、私に逆らうとどうなるか。この子たちに教えてあげなさいっ!」
椅子に座ったまま、命令を下す松岡。しかし後ろに立つ鼎武人の3人は、まるで動く気配がない。
「何をしてる!? あんたたちには大金を払ってるのよ! 金額分の仕事くらいしなさいっ!」
松岡に急き立てられ、のそのそと動き出す鼎武人。何故かはわからないが、明らかにやる気が感じられない。
白面の武人は前に出てくると振り返り、松岡の足元に一万円の札束を投げ捨てた。赤面と青面の武人もそれに倣うように、床に札束を放り投げる。
「それ、何のつもり? 一度受けた仕事を勝手に投げ出したら、もう二度とこの業界で仕事が出来なくなるわよ!」
松岡はそう言って、奥歯をギリギリと鳴らす。一方の白面の武人は、仮面を被っているので表情こそ読めないが、感情的な変化はあまりないように見える。
「松岡さん、あなたたちはもう終わりです。素直に負けを認め、この街から出ていった方がいいでしょう」
その言葉を受け、松岡の額の血管が更にくっきりと浮き出た。
「ちょっと待って。あんた、日本語話せるの?」
「別に中国語しか話せないとは言ってませんが?」
白面の武人は淡々と言う。確かに先日会った時、彼は中国語を話していたが、何故か日本語の聞きとりだけはしっかりと出来ていて、上条もその時点ではおかしいと思うところはあった。
「ホントにどこまで馬鹿にすれば気が済むのよっ! こっちには『吉祥天女』財前ヒカリ子がいるのよ。寝返って後悔するのはどう考えてもあなたたちよ! それとも、あんたたちが財前を倒せるとでも言うわけ?」
財前は怒りにまかせ、ソファーの肘かけを殴りつけた。バフッという音が小さく聞こえる。
「残念ながら、我々では財前さんに勝つことはできません」
「当たり前でしょ! わかったらさっさと、この子たちと戦いなさい!」
「しかし、『スターダスト』側には吉祥天女に匹敵する力を持った人物がいる。彼女なら財前さんに勝つことができるはずです。そうですよね、天野雫さん?」
鼎武人の3人が、一斉に雫に視線を向ける。
先日彼らは我々に対しこう言っていた。「今のお前たちでは、財前ヒカリ子に敵わない」
ではどうすればいいのかと聞くと、白面の武人は雫に1本の特殊警棒を手渡してきた。カタコンベ東京の楊さんから託されたという黒い特殊警棒。
雫はその武骨な特殊警棒を握り、深く息を吸い込んだ。
「勝負しましょう、財前さん。私とあなた、本当に強いのはどちらなのか?」
雫はゆっくりと視線を流し、そして財前の顔に睨みつけた。フロアに広がる乾いた冬の空気が、一気に張り詰める。
「アハハハハハハハハッ! たった1人で戦うつもり? 財前の強さを見くびらない方がいいわよ。こっちは全員でかかってきてくれてもいいのよ。ねぇ、財前?」
怒りからの反動のような、大きな作り笑いを上げる松岡。しかし財前は苦虫を噛んでしまったかのように顔をしかめている。見ると、額の脇から一筋の汗のようなものが流れていた。
「……いや。この女、私と同じものを持っている」
「はぁ?」
松岡はしかめっ面で後ろを振り返る。しかし財前の真剣な表情を見ると急に危機感を覚えたのか、顔色が真っ白になった。
鼎武人がスターダスト側の陣地に移動すると、財前は1人、フロアの中央に歩み出た。
「あなたとは、1対1で勝負がしたいわ。『黒髪』さん」
対する雫も彼女の前に歩いていき、そしてゆっくりと髪をかき上げた。
「それはこちらも望むところ。私はこの勝負に勝って、あなたと同じじゃないということを証明してみせる……」




