†chapter6 人間の瞳07
「しかし不破には、まんまと逃げられてもうたな」上条は困ったように言った。
「どうする? もう一度あの女に千里眼で調べて貰うか?」
拓人がそう提案したが、上条は難色を示すように腕を組み「うーん」と唸った。
「いやー、あれ調べんのめっちゃしんどそうやったからなぁ。もっかいやってくれるかなぁ?」
「そうだな。何かやたらと怒ってたしな」
二人とも怒らせた張本人なのだが本人たちにはあまりその自覚がないらしく、どうしたものかと息を吐き出し空を見上げた。
辺りの風は止んだのだが、強風が運んできたのか空は暗雲で覆われていた。
呆然としていても仕方がないので、上条はみくるに連絡を入れようとポケットからスマートフォンを取りだした。
「まだドーナツ屋におるかな?」
独り言を言いつつスマートフォンを操作しようとした丁度その時、西の方角から何者かが来るのが目の端に映った。
不審に思い顔を上げると、見覚えのある長髪の男が坂の上から歩いてきている。男は手に持った数個のパチンコ玉をじゃらじゃらと鳴らしては、唇の下の髭を丁寧に撫でつけた。
「あ、あいつ、鳴瀬……か? 何でこんなとこおるんや?」
その長髪の男はB-SIDEの頭、鳴瀬光国だった。
鳴瀬は口元をゆっくりと曲げた。笑ったようだ。
「やばいっ! 圭介君、伏せろっ!!」
鳴瀬のサイコキネシスによる攻撃を受けたことのある拓人は、素早く反応し自分の周りに旋風を巻き起こした。同じタイミングで鳴瀬の手から離れたパチンコ玉が時速100kmの速度で飛んでくる。
「させるかっ!!」
拓人と上条の周りを旋回していた渦状の風が竜巻の如く膨れ上がった。
ゴォオオオオオッ!! 間近で地下鉄でも走っているかのような重低音が二人の鼓膜を揺らす。
やがて風が弱まると、舞いあがった石ころやゴミくずが地面に落ちてくると共に、鳴瀬の放った幾つかのパチンコ玉も一緒に落ちてきた。旋風によって鳴瀬の攻撃は全て弾いたようだ。
「なるほど風か、お前は風を操るんだな」
拓人の能力を見破った鳴瀬は、したり顔を浮かべ周りを見回した。突風によって倒壊したブロック塀や倒木、自転車等が道路のあちこちに散乱している。
「これも全部、お前の『風』の能力でやったのか? すげぇな」
それが本心かどうかはわからないが、鳴瀬は感心するように口にした。
「風の能力じゃねえ、『疾風』の能力だっ!』
拓人は一人ムッとしている。彼にとってそれは大きな違いのようだ。
「疾風? そりゃ悪かったな。それよりお前ら、スコーピオンの不破を追ってんのか?」
図星を指されドキリと心臓が鳴った。
「うっさいわ。関係ないやろ。スコーピオンより先に、お前潰したるぞっ!」
威勢良く啖呵を切った上条だったが、残念ながら足がガクガクと小刻みに揺れている。
それを見た鳴瀬は笑いこそしなかったが、ふーっと憂いに満ちたため息を漏らした。
「そう言えばこの間、B-SIDEに喧嘩売ってきた弱小チームがいたな。あれ何てチームだったっけな?」
「スターダストや! 弱小チームやからって、舐めてると痛い目にあうで!」
上条が真っすぐに伸ばした手で指差すと、鳴瀬はそれを煩わしいといった表情ではねのけた。
「ふん、やっぱりお前らがそうか。けど勘違いしてくれるな。俺はむしろお前らを感謝してんだよ。なんせあの花火のおかげでヘヴンから500万も小遣い貰えたんだからな」
「花火を上げたんは、ヘヴンの仕業じゃないとわかっていてふんだくったんか? あこぎな奴やな」
「琉王は金が余って仕方がないらしいから、少し貰ってやっただけだ」
上条は理解できないと首を振った。
「んなことしてると敵を増やすだけやで。大体スコーピオンの領域をB-SIDEの頭が一人で歩いてて平気なんか?」
「B-SIDEとスコーピオンは『停戦協定』を結んでるからな。奴らのエリアを歩くくらい問題ないだろ」
かつては抗争を続けてきたB-SIDEとスコーピオンだったが、二年前にスコーピオン七代目総長不破征四郎と、鳴瀬の前の代のB-SIDE二代目頭、八神透との間で停戦協定が結ばれているのだ。
勿論上条も停戦協定については知っていたが、B-SIDEの頭がスコーピオンの領域に侵入するだけならまだしも、スコーピオンの拠点のある建物の付近をうろつくのは流石に問題あるだろう。
(こいつ一体何しに来たんや?)
上条のこめかみに冷たい汗が流れた。




