†chapter20 人の消えた渋谷20
「うわっ! あぶなっ!!」
圧縮された空気の波が、上条の横を一瞬で駆け抜けていく。飛んできた方向に目をやると、そこには『闘神』の統領、相楽清春が立っていた。奴の能力は『インパルス』。衝撃波を放つ賞金首だ。
「ちんたらしてる奴らは、全員狩っちまうぞ」
「急に来て、何ぬかしとんねん! お前ら、もっと別なとこで喧嘩しろや!」
突如としてやってきた闘神とトガビトのメンバーに対し上条はそう主張するが、相楽はそれを笑い返した。
「つれねぇことを言うなよ。俺は喧嘩しに来たんだ。相手なんざ誰でもいいんだよ!」
「そうだ。たまには意見が合うじゃねぇか、相楽よぉ」
相楽の背後から、『トガビト』の頭、清家ヨシアが姿を現す。
スターダスト、闘神、トガビト。偶然集まった、3つのチームのリーダー格。この状況で無事に終わるはずもなかった。
「バトルロイヤルを楽しもうぜっ!!」
飢えた獣のように口を開け走ってくる清家。そして大振りなフックが目の前に飛んできた。それほど速くはないパンチ。上条は半歩下がってそれを避けつつ、清家の能力を暴きにかかる。
こいつの能力は何やったかな?
顔を睨むと、清家は攻撃を避けられたはずなのに、何故かにやにやといやらしい笑みを浮かべていた。気色の悪い奴。そう思うと同時に背中に何かがぶつかり、びくりと肩が強張った。
誰だ? 乱闘なので、まずは敵か味方かの確認が必要だ。振り返る上条。しかしそこにいたのは人ではなく、赤黒い獣のような形の化け物だった。
「な、なんやこいつ!?」
驚く上条には目もくれず、赤黒い獣は相楽に向かって突進していった。しかし相楽の衝撃波を喰らうと、鈍い音と共に地面に卒倒してしまう。
「あれは相楽自身の罪悪感が生んだ化け物だ。人は必ず何らかの罪の意識を抱えて生きている。俺はその誰しもが持つ罪の意識を具現化することができるんだ」
自慢げに己の能力を解説する清家。だが、そのおかげで思い出した。清家の能力は『カルマ』。奴の言う通り、それは罪悪感を具現化する能力だ。
「お前の罪悪感も形にしてやるよ」
目を光らせる清家。次の瞬間、上条の体が大きく波打つと突然目の前に小型犬ほどの灰色がかった獣が出現した。体を震わせ、「うーっ」と唸り声を上げる。
「おい、何だよそのちっちゃい罪悪感は? お前は今まで生きてきて、それっぽっちしか罪の意識を抱かなかったのか?」
呆れるような口ぶりで嘆息をつく清家。どうやら目の前の小型生物が、俺の罪悪感の化身ということのようだ。相楽のそれと比べると随分と可愛らしい。超ポジティブな性格が功を奏したということか。
「ふんっ、残念やったな。健全に生きとる俺に、死角なんてない……、痛っ!!」
恰好をつけて口上を垂れ流していたら、灰色の小獣に脛を噛まれてしまった。これは不覚なり。
「馬鹿め。小さくても罪の深さまでは変わらない。罪悪感よ、テメーを生んだ主人に己の罪深さを思い知らせてやれっ!」
清家は前に向かって大きく指を差す。それに合わせ、灰色の小獣が上条に跳びかかった。
「ちょ、待てやっ!」
ちょこまかと動き回る小獣に対し、問答無用に蹴りを入れまくる上条。だが灰色の小獣は、何度倒されようとも不死鳥の如く蘇る。清家自体は絶対弱そうなのに、何とも面倒な敵だ。
手間取っている上条の背後で突然、相楽の声が響いた。「エアーストライクッ!!」
辺りの空気が振動する。相楽が放った衝撃波を正面に受けた赤黒い獣は、その場から跡形もなく消滅してしまった。不死身かとも思ったが、一応倒すことはできるようだ。
ならばとっとと片付けよう。今一度、灰色の小獣と向きあう上条。だがその時、清家が聞き捨てならないことを口にした。
「ご苦労なことだ。そいつらを倒したからといって、お前らの罪悪感は消えるわけじゃねぇからな……」
再び目を光らせる清家。すると消滅したその場で、赤黒い獣が見事復活を果たした。背後から相楽の舌打ちが聞こえてくる。
こいつらと戦っても時間の無駄のようだ。ならば話は早い。この手の能力は術者を潰すに尽きるということだ。




