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星屑のシャングリラ  作者: 折笠かおる
†chapter20 人の消えた渋谷
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†chapter20 人の消えた渋谷18

 再び校庭に目を向ける上条。その中心では、今も神林かんばやし那由他なゆた笠崎かさざき絢香あやかが何やら会話を続けている。


 「この天然パーマの男は、最近渋谷で名を上げている賞金首の『風斬り』山田拓人です」

 拓人のことを指し、そう説明する笠崎。しかし神林は興味がないのか、頷きもせず眉をひそめるだけだった。だが、その横にいる男に視線を移すと、急に落ち着きなく視線を上下に動かした。


 「そしてこのアイラインが入った男は、人気ロックバンド『FAKE LOTUSフェイクロータス』のボーカル、鈴江リクです」

 「やっぱり? やっぱり? この男、千尋さんが捜してたあのFAKE LOTUSフェイクロータスのエリックなのね! 凄いじゃない、あなた。さすが『束縛』の能力者だわ」

 態度を一転させ褒めちぎる神林。しかし笠崎は表情を変えない。


 「ねぇ、皆聞いて! 私の優秀な部下、笠崎絢香があのFAKE LOTUSフェイクロータスのエリックを遂に捕らえたわよ!」

 神林が言うと、女たちの群れから甲高い歓声が上がる。耳に残る不快な音だ。


 「これで千尋さんが提唱する『ナイトメアプロジェクト』に、また1歩近づいたわね!」


 ナイトメアプロジェクト……?

 上条は神林の言うその言葉が何か気になり『暴露』の能力で暴きに掛かかる。だがそれと同時に、神林率いる夢魔サッキュバスのメンバーたちがこちらに向かって歩きだしたので、上条は慌てて集中力を解いた。


 「まずい、こっち来るみたいやな。また、『吉祥天女』とか出てこられても面倒やし、ここで決着つけたほうがええかな?」

 上条は右後ろにいる西蓮寺に訪ねたのだが、言葉が返ってきたのは左隣りからだった。

 「もうここで戦おう」


 その声に驚き、振り返る上条。そこにいたのは、先程連絡を入れたばかりの天野雫だった。

 「ええっ、雫ちゃん。い、いつ、何処から……?」

 「近くに瀬戸口さんがいたから」

 「ああ、なるほど」


 慌てる上条に対し、雫は簡潔に答える。瀬戸口の持つ『瞬間移動』の能力に同調して、ここに来たようだ。


 「上条さんも戦うの?」

 「せやな。仲間もさらわれとるし、もうフェミニスト団体がどうとか言ってられん。悪いけど、ミーナさんも手伝ってくれるか?」

 そう聞くと、西蓮寺は背中に隠し持っていた木刀をするすると取りだした。

 「やりあう気ぃがあれへんかったら、こんなもん持ってけぇへんやろ?」


 「そらそやな。ほんなら、ぱっと見ぃで15人くらいやし、1人頭、5人倒せばええわけや。まあ、何とかなるやろ」

 上条を先頭にして校庭に侵入する。向こうから歩いてきた神林がこちらに気付くと、取り乱したような悲鳴を上げ笠崎の背後に隠れた。


 「ようこんなことまで逃げてくれたな、束縛女! 拓人は返して貰うで」

 威勢良く啖呵たんかを切る上条。正面にいる笠崎の目が、少しだけ吊り上がった。

 「うまく撒いたと思ったのですが、しっかりついてきてたのですね……。けど、たった3人でこの人数とやりあうおつもりですか? 賢い考えとは思えません」


 「雑魚が何人おっても変われへんやろ?」

 「口喧嘩はお強いようで。しかし私たちの仲間はこれだけではないですよ。ねえ、那由他さん」

 振り返って言う笠崎。そしてその背後に隠れている神林は、顔だけこちらに出すと思いっきり上条の顔を睨みつけた。

 「当たり前よ! 久々に『人寄せ』の能力を全開放するわっ!」


 ウレタンで舗装された校庭に、亜種の放つ不穏な空気が広がる。神林は人を引き寄せる能力を持っているのだと、『暴露』を使った上条はその時気付いた。


 「悪いけど、そこの表参道ヒルズの従業員の約半数は、夢魔サッキュバスの会員でもあるのよ。今から集まる人数は10や、20じゃきかないからね!」

 後ろに隠れながらも、得意気な顔を浮かべる神林。これはもしかしたら早まったかもしれない。せめて、幹部だけでも倒しておかなければ。現在確認している幹部は神林と笠崎の2人。そういう意味では3対2だし、いけないことはないだろう。


 「絶対に許さない」

 そう呟いて走り出したのは雫だった。彼女は右太もものベルトに仕込んだ特殊警棒を取りだし、神林に向かって攻撃を仕掛ける。先日、鼎武人ディンウーレンに渡された黒くて武骨な警棒だ。

 しかし前を守る笠崎が能力によって具現化した半透明の紐を両手で引っ張り、その攻撃を受け取ってみせた。


 「この人は弱いんで、手を出さないください」

 はっきりとそう言う笠崎。

 「けど、この人を倒さなかったらいっぱい仲間が集まって来るんでしょ?」

 対する雫は正論で言葉を返す。


 「もはや手遅れです。那由他さんを倒しても倒さなくても、いずれ仲間たちはここに集まってくるでしょう」

 「そう。じゃあ、あの人は無視して私はあなたを倒すことにするわ!」

 雫の特殊警棒が唸りを上げる。笠崎は半透明の紐を鞭のように振り、特殊警棒の軌道を反らした。


 「良いでしょう。ではクレストガールズ笠崎絢香が、黒髪さんのお相手をさせていただきます」

 笠崎の握る半透明の紐が、まるで意思があるかのようにうねうねとうごめいた。

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