†chapter20 人の消えた渋谷17
表参道駅方面に向けてバイクを走らせる西蓮寺と、そのリアシートに乗る上条。
すると歩道橋の先に次のタイヤ痕が見つかった。左の脇道へと続いている。2人が乗ったバイクは左に重心を移し、美しい弧を描いた。
僅かに人の出入りがある表参道ヒルズを尻目に、細い道へと侵入する。しかしそこから数メートル程進んだところで、バイクは急停車した。
「これはウインカーのカバーやろか?」
バイクから降りる西蓮寺と上条。道の右端にガラス片のようなものが散乱している。あのクレイジータクシーのことだから、停まる時に防護柵にでもぶつかったのだろう。
「もしかしたらあいつら、ここで降りたんちゃうかな?」
辺りを見回す2人。上条は表参道ヒルズ西館の入口に目を向けた。
「さすがにこん中にはおらんかなぁ」
渋谷駅前周辺はストリートギャングたちの抗争が勃発しているため、人の流れが少なく主な商業施設は軒並み閉鎖されているが、この辺りの原宿、表参道エリアはまだ、営業している店が比較的多いようだ。
「夢魔のことやから、もっと裏の方にある雑居ビルとかやないか?」と西蓮寺。
「確かにそうやな」
上条は納得しつつ、地面に目を落とす。そこには掠れた文字でスクールゾーンと書かれていた。そういえば表参道ヒルズ西館の奥には、小学校があったのだとその時思い出す。
「この辺りの学校は、やっぱり臨時休校になっとるんやろか?」
「学校?」
横にある校門から中を窺う西蓮寺。何となく気になるので、上条も合わせて校門を覗きこんだ。校舎の端の隙間から見える校庭に、大きい人影がある。
「誰かはおるようやな。子供ではなさそうやけど……」
密かに校舎に侵入する上条。すると校庭の方から突然、嘆き声のようなものが聞こえてきた。
「何や、今の声は?」
「ミーナさんも聞こえたんか? けど女の声みたいやったな」
そのまま校舎の脇を抜け、奥の校庭へと進んで行く。拓人の悲鳴ではないようだが、念のため確認しておく必要があるだろう。
「何で皆、雁首揃えて私のところに集まってくるのよぉ!」
校庭の真ん中に集まる女たちの群れに向かって、恨み事を叫んでいる女がいる。先程の嘆き声と同じ人物のようだ。
「あいつ誰やろ?」
「あれはクラウンの神林那由他ね」
クラウン。それは夢魔の幹部。やはり拓人は、ここに連れてこられたのだろうか? 人の群れの中から拓人の頭を捜す。
「申し訳ありません、那由他さん。溝畑さんが裏切ったせいで、須賀さんのところから逃げなくていけなくなりました」
人の群れの中から1歩前に出てそう言ったのは、我々が追っていた笠崎という女だった。やはりビンゴだ。しかしとりあえずは多勢に無勢。少し様子を見ることにしよう。
「裏切るって何なの? 溝畑エレナはそもそも、夢魔を除名になったはずでしょ? まあ、それはそれとして、そもそも須賀みたいな女に頼るのが間違っているのよっ!」
「おっしゃる通りです。なのでここからは那由他さん、よろしくお願いします」
「えー、もうトラブルは嫌! あなた、私が滅茶苦茶喧嘩弱いの知ってるでしょ?」
神林の言葉に、笠崎は即答する。
「はい、存じ上げております。学生時代はパシリをやらされていたとか……」
それについて神林は何も答えない。むすっとした顔で、腕を組んでいる。代わりに笠崎が言葉を続ける。
「しかし那由他さんには、人望がお有りになる」
「いらないのよ、こんな偽りの人望! 大体、あなた1人ならともかく、この男たちは一体何なのよっ!?」
神林が声を荒げると、笠崎は手に絡まった半透明の紐を引いた。すると縛られている拓人とエリックが、群れの中から姿を現す。
「おっ、やっぱりおったみたいやな」
少しだけ安堵する上条。そしてポケットからスマートフォンを取り出し指を動かす。
「夢魔は政治家にもパイプがあるから、警察に連絡してもあんまり意味がないかもしれへんで」と西蓮寺。
「いや、連絡入れるんは警察やあれへん。キョージンに来られても困るしな。まあ、今からじゃ間に合えへんやろうけど、念のため雫ちゃんにメッセージを送ったんや」
上条は自嘲的な笑みを浮かべ、そしてスマートフォンをポケットの中にしまった。




