†chapter20 人の消えた渋谷14
「拓人、無事なんかっ!?」
ステージの上に呼び掛ける上条。しかし拓人は口を半開きにして、もぞもぞともがいている。見た目ではわかりずらいが『暴露』で調べたところ、何やら半透明な縄状の物で体を縛られてしまっているようだ。これは間違いなく新たに現れた眼帯の女の仕業に違いない。
「おい、お前がさっき電話に出た笠崎やな! 拓人を解放しろや!」
上条は叫んだ。拓人の後ろにいる鈴江リクのことは、とりあえず後廻しにする。しかし、何でエリックまでここにいるのだろう?
「おっしゃる通り、私がクレストガールズの笠崎絢香です。こちらは『風斬り』山田拓人さんを連れてまいりました。今度はそちらが約束を果たす番ではないでしょうか?」
笠崎は丁寧な口調でそう言うと、眼帯のしていない左目をギョロリと動かした。
「そうだぞ! それともスターダストは、卑怯者の集まりかっ!」
間々田は、自分たちの行為を棚上げにしてそう煽ってくると、右手を高く掲げた。足もとに落ちていたと思われる大量のアイスピックが、宙に浮かんでくる。
「ちょっと待てっ! その前に1つ聞きたいことがある。何でここに、『FAKE LOTUS』の鈴江リクがおんねん!」
ノープランでここまで来てしまった上条は、いいアイディアが浮かぶまで何とか時間稼ぎを試みる。
「エリックのことなど、どうでもいいっ! とっとと天野雫を呼ばないとこうなるぞ!」
間々田の頭上でアイスピックの1つが激しく回転する。時間稼ぎは完全に失敗。白い光を反射したアイスピックは勢いよく降下し、身動きの取れない拓人の背中に突き刺さった。慌てた上条は思わず声を荒げる。
「拓人ぉっ!!」
しかし拓人は苦しむでもなく、ただ「ケケケケケッ」と笑うと、体を小さく震わせた。だが、拓人の口には半透明な縄状のものを噛まされており、声を発することはできないはず。ならばその声は何処から発せられたものなのか?
拓人の体から黒い影のような物体が排出される。既視感を覚えるこの光景。
「な、何、これ? まるであいつの能力じゃない!」
間々田がうろたえると共に、上条の背後から2人の女が姿を現した。
「にゃ、にゃ、にゃ、何であんたたちが、ここにいるんでしゅかっ!」
それを見た須賀も激しく動揺する。滑舌の悪さと相まって、猫の鳴き真似のようになってしまった。
「にゃんでここにいるのかって? 呼ばれたから、わざわざ来てあげたんだけどにゃー」
手を丸め、招き猫のようなポーズをとる萌袖ニットの女と、スリムなダウンジャケットを着たショートボブの女。そこにいたのは、元夢魔の溝畑エレナと、乙村香織だった。
「お前らなんて呼んでないでしゅ!」
「私たちの手柄を横取りして、千尋さんに取り入ろうとしてるのね!」
須賀と間々田がそれぞれ叫ぶ。
「呼んだのはあんたたちじゃないわ」
「そう。そこのなんたらダストのリーダー」
溝畑と乙村がポーズを決めながら言う。
大きなホールの中の視線が上条に釘づけになる。スポットライトを浴びている気分。
「何や、お前ら来てくれたんか。ホンマはええ奴やな」
「他でもない、リリたんからの頼みだ。断れるはずもない」
「梨々香ちゃんから?」
喧嘩をするなら溝畑の電話番号は教えられないと、1度は断ってきた藤崎だったが、その彼女の方から溝畑に連絡を入れてくれていたようだ。何だか色々、申し訳ない。
「古巣に喧嘩売る形になるけど、ええんか?」
「問題はない。須賀と間々田は、夢魔にいた頃からの天敵同士。しっかりと決着をつける良い機会だわ」
溝畑の口から牙が生え、目を爛々と光らせる。彼女の能力は『ハーフキャット』。猫と人間の合いの子のような姿に、変化していく。
対する須賀も亜人系能力者。腕は大きな翼に変わり、顔には鋭いくちばしが現れる。彼女が持っているのは『ハーピー』の能力、すなわち鳥の化け物だったのだ。
「フフフ。猫が鳥に負ける道理はない。死なない程度にいたぶってあげる」
「こっちだって背徳者に負けるわけにはいかないんでしゅよ。しょの首を千尋しゃんに持っていくでしゅ!」
天井いっぱいまで高く飛び上がり地面に向かって降下する須賀に、後ろ足を蹴り、弾丸の如く飛びかかっていく溝畑。静かなメインフロアで人外同士が激しくぶつかりあった。




