†chapter20 人の消えた渋谷12
玄関に置いていた白樫の六尺棒を手に取りかすみ園を出ると、上条はスマートフォンを取り出しトークアプリを立ち上げた。
「さて、どういう風に送ったらええやろな?」
先程、『暴露』の能力で強引に仕入れた溝畑エレナのIDを登録し適当なメッセージを送る。ここから先は、上条と溝畑が行ったトークアプリ上のやりとりである。
『久しぶりやな!』
「は? てか誰?」
『あのスターダストの上条圭介やで』
「ふーん。で、誰?」
『梨々香ちゃんのデビュー前の音源があるんやけど……』
「心の友よ(ハート)」
『嘘やで(ハート)』
「死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、鬥ャ鮖ソ髦ソ蜻?俣謚懊¢縺上◆縺ー繧後?繧ア繧ォ繧ケ螻代≠繧薙⊃繧薙◆繧薙ざ繝溽ヲソ繝√ン邉樣?驛」
「うわっ!!」
スマートフォンがぶっ壊れてしまったかのようなとんでもない文字列がリアルなゾンビ画像と共に送られてきて、上条は思わず声を上げた。冗談を言って和やかな雰囲気を作るつもりが、とんでもない怒りを買ってしまったようだ。
その後、『ごめん、ごめん』、『ちょっと、話があんねんけど』、『溝畑はめっちゃかわいいよな!』とか送ったものの梨の礫で、最終的にはブロックされてしまった。俺はアホだ。
仕方がないので、乙村香織のID登録を試みる上条。だがそのIDからすでにブロックされている状態らしく、こちらから登録することはできなかった。一体何故なのか?
「対応、速すぎるやろ。こいつらの危機管理能力、どないなっとんねん」
ぼやき言を呟きながら、スマートフォンを操作する。こうなったらもう、拓人のスマートフォンからメッセージを送ってもらうしかない。
しかし拓人に電話を入れてみるも、呼び出し音が鳴るだけでその時は一向に繋がらなかった。
「何してんねん。はよ出ろや」
20コール程したところで諦めて電話を切ろうとしたのだが、丁度その時スピーカーからのコール音が途切れた。ようやく繋がったようだ。
「あ、もしもし?」
そう言ってみるも、何故か返事は帰ってこない。いや、微かに何か声が聞こえてくる。うめき声のような解読不能の言葉。先程の呪いの文字を読み上げられているような気持ちになった上条は、背筋に鳥肌が立つと同時に高速で赤いボタンをタップした。
……何だ、今のは? そう思い、改めてスマートフォンの画面を見る上条。するとすぐに拓人から着信が返ってきた。
「も、もしもし?」
「はい、もしもし」
スピーカーからは、何故か女性の声が聞こえてくる。
「あんた誰や?」
「私は笠崎絢香と申します。夢魔にて、クレストガールズを務めさせていただいています。失礼ですが、あなたはスターダストの上条圭介ですね?」
笠崎という女は、アナウンサーのような美しい声で淀みなく喋る。しかしその夢魔の幹部が拓人のスマートフォンを持っているというのはどういうことなのか。あいつヘマでもしたのか?
「そうや。拓人はどこにおる?」
「『風斬り』山田拓人さんなら、私の目の前にいます。ですが猿ぐつわが付けられているので、残念ながら話すことはできません」
笠崎は電話越しにそう言ってきた。やはり拓人は夢魔に捕まってしまっているようだ。
拓人の奴、相手が女だと思って油断したみたいだ。
監禁されている中、こちらからの電話に何とかして出ようと奮闘したのだが、結局この女に見つかってしまった。そんな感じの状況っぽい。
「お前らの要求は何や?」
「話が早くて助かります。今から円山町にあるClub Sanctuaryに天野雫を連れて2人で来てください。山田拓人さんは彼女と交換しましょう」
「交換って、雫ちゃんをどうするつもりや!」
上条は声を荒げて言う。だが、自分の要求を伝えた笠崎は、すでに電話を切ってしまっていた。ツー、ツーという音が薄ら聞こえてくる。
「くそっ、何やねん!」
夢魔の連中は雫をどうするつもりなのか? 拓人が解放されたとしても、雫が捕まってしまったのでは意味がない。
「このことは雫ちゃんには言えへんよなぁ」
佐藤みくるに連絡を入れるためスマートフォンを操作していたが、やはり気が変わりホームボタンを押す上条。
「はぁ。女相手に喧嘩するんは嫌やなもんやな」
上条は後頭部を掻きながら、円山町に向かってだらだらと歩いていった。




