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星屑のシャングリラ  作者: 折笠かおる
†chapter20 人の消えた渋谷
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†chapter20 人の消えた渋谷11

 そして翌日、上条はみくるの育ったところでもある、児童養護施設のかすみ園に訪れていた。


 「エレナさんの連絡先ですか……」

 目の前にいる藤崎梨々香は、そう呟くと難しい表情を浮かべ、持っていたスマートフォンをダイニングテーブルの上に置いた。2人のいる食堂はとても静かで、時計の針の音が部屋の隅から微かに聞こえてくる。


 「そうなんや。ちょっとした野暮用なんやけどなぁ」

 そうは言ったが、藤崎の表情は変わらず曇ったままだ。

 「もしかして、何かの揉めごとですか?」


 いきなり核心を突く質問。しかし争いを好みそうもない藤崎に、夢魔サッキュバスとの争いに備えて溝畑と乙村おとむらの手を借りたいから連絡先を教えてくれとは、さすがに言いづらい。


 「いや、そんなんじゃあれへんよ。言うてもスターダストは平和的なチームやからな」

 上条がそう言って乾いた笑い声を上げると、食堂の入口からくすのき裕太が入ってきた。

 「うわっ、圭介くん、何でここにいんだよ!?」


 「おう、裕太。邪魔しとるで!」

 邪魔するなら帰って! と言われるのを期待する上条だが、関東の人間がそんな返しをしてくるはずもなかった。悲しくそびえる東西間の文化の壁。


 「そうか、あれだな! 戦争になったから、とうとう僕の力が必要になってきたんだな!」

 目を輝かせて指の関節を鳴らす裕太。違う、そうじゃない。


 「裕太、あなた何を言ってるの? 喧嘩なんて絶対に駄目だからね!」

 目を細め裕太に言い聞かせる藤崎。まずい。スターダストの平和的なイメージが崩れてしまう。


 「せやで、裕太。戦争なんて失うもんはあっても、生まれてくるもんは何もないんや。ラブ&ピースやで!」

 ダブルピースで笑顔を作る上条。ここまでわざとらしく言えば、さすがの裕太でも会話の流れに気付くだろう。溝畑エレナの連絡先が聞けるのは、お前の一言にかかっていると言っても過言ではない。


 「嘘つけっ! 戦争のきっかけになったB-SIDEビーサイドとスコーピオンの決闘は、裏でスターダストが糸を引いてたんだろ? 拓人くんもいつの間にか、『風斬り』とかいう異名付けられて賞金首になってんし」

 「アホーッ!!」

 空気の読めない裕太め。確かに山田拓人の話によると、あの争いに拓人が一枚噛んでいたのは間違いなさそうだが、裏で糸を引いていたとは人聞きが悪すぎるし、言うタイミングも最悪すぎる。


 黙っていた藤崎は椅子を引き立ち上がると、表情を殺した目で裕太を睨みつけた。

 「私は上条さんたちにとても感謝しています。返しようのない恩だと思っていますし、私にできることならどんなことでもするつもりです。ですが、もしそれが裕太やエレナさんたちが傷つくようなことだとしたら、申し訳ありませんが協力することはできません」

 そして「失礼します」と言うと、藤崎は上条に背中を向けた。


 結局大失敗に終わってしまった。天井を仰ぎ見る上条。そしてテーブルの上に目を落とすと、手帳型ケースに入ったスマートフォンが置いてあることに気付いた。

 「あっ、梨々香ちゃん、スマホ忘れとるで!」


 ダイニングテーブルの上のスマートフォンを手に取る上条。振り返った藤崎にそれを手渡すと、最後にもう1つだけ質問をした。

 「ところで梨々香ちゃんは、ヒナ先輩の連絡先は知っとるん?」

 「朝比奈先生ですか? 勿論、知っています。教えることはできませんが」釘を刺してくる藤崎。


 「いや、ヒナ先輩がプロデュースしてる『FAKE LOTUSフェイクロータス』ってバンドがあるやろ。あのバンドのボーカルの鈴江リクが、夢魔サッキュバスの松岡千尋に狙われとるみたいなんや」

 上条が説明すると、藤崎は目を丸くして眼鏡のブリッジに指を当てた。

 「エリックさんが夢魔サッキュバスに……? 何かあったんですか?」


 「何や、わかれへんねん。とりあえずプロデューサーの力で守ってあげた方がええと思うから、それだけヒナ先輩に伝えといてくれるかな?」

 上条が言うと、藤崎は謝罪するかのように低く頷いた。 

 「わかりました。ありがとうございます」

 そしてもう1度頭を下げると、藤崎は食堂を出ていってしまった。


 「何だ、もう梨々ねぇとの話は済んだのか?」と裕太。

 「せやな。裕太のせいで話が台無しになりそうやったけど、とりあえず目的は果たせたわ」

 「目的って何だよ?」

 「そら、溝畑エレナの連絡先を聞きだすことや」


 しかしその目的はどう見ても失敗していたので、大きく首を傾げる裕太。しかし『暴露』の能力を持つ上条は、彼女のスマートフォンを手にした時、その中の情報を一部暴いていたのだ。犯罪的なやり口だが、これは仕方がないことなのだと、己に言い聞かす。


 「ごめんやで、梨々香ちゃん。俺らは所詮、平和を訴えながら機動隊に火炎瓶を投げるような連中と同じやったんや」

 「はぁ? 平和を目指してる奴が、何で火炎瓶を投げるんだよ? 矛盾してるだろ」


 「世の中には、わけわからん連中が山ほどおるっちゅう話や。そういうわけやから、裕太も梨々香ちゃんのこと守ったらなあかんで」


 それだけ言い残し、席を立つ上条。横から「B-SIDEビーサイドとかスコーピオンと戦うなら、僕にも声を掛けろよ!」と裕太が主張してきたが、とりあえず今回の相手は夢魔サッキュバスだからいいかと思い、完全に無視して食堂を後にした。

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