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星屑のシャングリラ  作者: 折笠かおる
†chapter20 人の消えた渋谷
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†chapter20 人の消えた渋谷08

 「天野までこんなコテンパンにやられちゃうなんて、夢魔サッキュバスのこと甘く見てたわ。このままだと、FCの奪還は難しそうね……」

 瀬戸口は倒れる雫と西蓮寺さいれんじに目を向ける。しかし2人が倒れている理由は、夢魔サッキュバスではなく、どちらかというとエリックのせいだ。


 「まあ、相手は殺し屋さんやからな。関わらんでええんなら、避けて通りたいところや」

 上条は吉祥天女こと財前ヒカリ子の冷酷な瞳を思い出す。

 あの女、ここに倒れている西蓮寺と知り合いのような口ぶりだったが、あれはどういうことだろう? 西蓮寺が財前の名前を聞いた瞬間、木刀を持って外に飛び出したことも、あの女の危険性を知った上での行動なのだと今なら理解できる。


 「なぁ、ミーナさんって何もんなんや?」

 上条がそう聞くと、瀬戸口は何かを思い出したのか、目を大きく開き「あー!」と声を上げた。

 「ミーナさん、滅茶苦茶かっこよかったなぁ。殺し屋相手に木刀で立ち向かってったもんね。さすが竹槍でアメリカの戦闘機と戦った世代は違うわ」


 「そうそうそう。あの頃は物がない時代やったから大変やったわぁって、誰が昭和生まれやねん! 戦時中でも、竹槍で戦闘機と戦っとるやつなんかおらんわっ!」

 気を失っていた西蓮寺が、そう言って目覚めた。ボケをスルーできない、関西人の悲しきさが


 「ミーナさん、気絶してたのにいきなり元気!? 怪我とか大丈夫?」

 瀬戸口の心配をよそに、西蓮寺は表情を緩めつつ体を起こした。

 「怪我はしてへんよ。けど、FCのこと助けられんかった。御免なグッチ」


 「仕方ないよ。FCの奪還は少し検討しましょう。殺し屋が相手とか、意味がわかんなすぎる」

 「そうね……」

 瀬戸口に対し、静かに言葉を返す西蓮寺。するとその横で倒れていた雫が、ようやく目を覚ました。


 「財前さんは私が倒すから」

 起きると同時に、高らかにそう宣言する雫。彼女は恵比寿コンチネンタルタワーで因縁のある財前に、只ならぬ感情を抱いているようだ。


 「おっ、やる気満々じゃん。けど天野ならあの女に勝てるかもね。ねぇ、ミーナさん?」

 瀬戸口が軽口を叩くと、西蓮寺がすぐにそれを否定した。

 「黒髪……、いや、天野雫さん。今のあんたの力では、吉祥天女には勝たれへんと思う」


 冷えた雑居ビルのエレベーターホールに、重い沈黙が落ちる。財前と因縁があるのは雫だけではない。西蓮寺もまた、財前と深い関係があるようなのだ。


 「ミーナさん、財前に『羅刹天らせつてん』って呼ばれてたけど、あれって何なん?」

 上条が口火を切ると、狭く無機質なこの空間に謎の緊張感が走った。


 西蓮寺は眉尻を下げ、申し訳なさそうに瀬戸口の顔を窺うと、腹をくくったように深く息をついた。

 「羅刹天いうのは、あたしが大阪におった頃呼ばれてた通り名や」


 「通り名? なーんだ。ミーナさんも若い頃、やんちゃしてたんじゃん」

 瀬戸口はちゃかしたように言うが、それに対し西蓮寺は小さく首を振った。

 「やんちゃで済めば可愛いもんやけどな。羅刹天言うたら、大阪の裏社会では名の知れた……、殺し屋やったんや」


 その一言で、冷えていた空気が一気に凍りついた。

 「殺し屋……? ミーナさんにしては面白くないギャグだけど」

 瀬戸口は西蓮寺の顔が見れないのか、上条に視線を合わせている。しかし上条は財前と西蓮寺の会話を聞いていたため、あらかじめ2人がそういう関係なのだろうという予測ができていた。


 饒舌だった西蓮寺はその後も、何も語らずに黙ったままうつむいてしまっている。だが沈黙を守ることが、それが真実であると雄弁に語っているようにも見えた。


 「いや、いや、いや。ミーナさんが人殺しなんて、冗談きついよ」

 瀬戸口はそう言って立ち上がると、スマートフォンの画面を確認した。

 「ヤバッ、もうこんな時間! ウチ、心配だからツカサのこと捜しに行ってくるね」

 白々しく慌てた振りをした瀬戸口は、「ジャンプッ!」という掛け声と共に瞬間移動でどこかに消えてしまった。あいつは本当にずるい女だ。


 残された3人の周りに重苦しい雰囲気が流れる。古いエレベーターのモーター音だけが、辺りに空しく響いた。

 「何か理由があんのやろ?」

 『暴露』の能力を持つ上条にはある程度わかっていた。西蓮寺が昔、殺し屋だった理由を。


 「上条さんは何でも暴く力があるんやっけ? あたしの能力は何かわかるか?」

 何か吹っ切れたように西蓮寺は笑みを浮かべる。しかし彼女の能力が何かだけは、上条にもさっぱりわからなかった。

 「いや。ミーナさんが亜種なのは何となくわかるけど、何の能力なんかは全然わかれへん」


 「せやろな」

 どこか哀しげにそう呟くと、西蓮寺は己の能力と殺し屋に至った理由を語りだした。


 西蓮寺がかつて持っていた能力の名は『オーバーキル』。この能力は何らかのスイッチが入ってしまうと、異常に暴力的な性格になり、一度戦闘になると相手の息の根を止めるまでは、絶対に攻撃の手が止まらなくなるという恐ろしい能力。そしていつしか暴力団に身を置くようになった彼女は、やがて『羅刹天』と呼ばれ恐れられるようになったのだが、最終的には己の意思で警察に自首したのだという。


 「けど、あたしは罪に問われへんかった。能力が原因で人を殺めたのは間違いないねんけど、暴力団に入ったんはあたしの意思や。警察庁の施設に連れて行かれた後、『封印』の能力をもった亜種にオーバーキルの能力を封じ込まれたら、後はそれだけ。亜種の人権団体が寄こした弁護士に連れられて、すぐに釈放された……。別に刑務所に行きたかったわけやないけど、あたしは自分の犯した罪を償うことすらできひんかったんや!」


 西蓮寺は過呼吸気味に息を吐き出す。それはきっと、今まで誰にも話すことができなかった秘密だったのだろう。

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